第68話

 放課後、体育の授業が終わったというのに涼宮はなぜか体操着を着ていた。涼しいからか?


「暑いから」


 大体合ってた。涼宮は頬杖をついて窓から綿あめみたいな雲を眺めていた。俺は今、綿あめよりかき氷が食べたい。掃除当番だという涼宮を置いて、俺は朝倉委員長に声をかけた。


「悪いけど、私今日は文芸部室には行かないわ」


 おや、なんだかんだ毎日来てくれていたのに。何か用事か?


「かもね」


「なんだそりゃ」


 朝倉委員長はそう言って手のひらをひらひらと振った。どうやら本当に部室に来る気はないらしい。まあそういう時もあるさ。俺も無言で手を振って教室を出た。



「あ、キョンくん」


 部室にはいると、みくるさん(小)が俺に声をかけてきた。これもまた珍しい。みくるさん(小)は基本的に朝倉委員長にべったりで、俺と会話することは殆ど無い。


「朝倉委員長なら今日は来ないみたいですよ」


 うん、そうみたいね。とみくるさん。あれ?知ってるのか。


「昼休みにね、朝倉さんがあたしの教室にわざわざ来て言っていったの。『今日の放課後は1-5にいるから。覚えておいて』って。けど、あたしはちゃんと文芸部室に行ってねって。どうしてそんなことをあたしに教えてくれたのかな」


 …?たしかによくわからない行動だ。涼宮がなにかして来たら1-5まで逃げてこいって意味かな。などと考えていると、不機嫌そうな涼宮が部室にやってきた。あぁ、いい忘れてたけどもちろん長門さんもいるぞ。本読んでる…って言わんでもいつものことだったな。そういや小泉がいない。まぁ涼宮の機嫌が悪いみたいだし、忙しいんだろうな。


「きょ、キョンくん!こっち見て」


「グエッ!!!」


 みくるさん(小)にいきなり首をぐいっと真横に向けさせられた。もう少し椅子に斜めに座っていたら、そのまま永眠するところだ。


「ご、ごめんなさい!その、涼宮さんがいきなり脱ぎだしたから…」


 あぁ、あいつは基本教室でもそんな感じですよ。男子がいようがお構いなく着替え始めるんです。だから体育の授業の時は、朝倉委員長によって毎回男たちは教室から叩き出されることになっている。



「手と肩は涼しいけど、ちょっと通気性が悪いわね、この衣装」


 着替え終わったみたいなので首を元に戻すと、バニーガールの衣装を来た涼宮がいた。着替える前より露出が増えてやがる。


「あれ?今日あいつは?」


 朝倉委員長なら今日は来ないぞ。なんだ?何か用事でもあったのか。


「逆よ逆。邪魔者は居ないのね。みくるちゃん、今日は片っ端からここにあるものを着てもらうわ」


 涼宮はカラカラと音を鳴らしてコスプレ衣装のかかったハンガーラックを手に近づいてきた。どうやら朝倉委員長の勘は当たっていたらしい。さっそくみくるさん(小)は立ち上がると、一目散にドアから脱走…ではなく、頭からセーラー服をガバっと脱いだ。あまりの勢いに俺は完全に固まってしまい、あんぐりと口を開けたまま明るい色のブラを眺め続け、胸元に小さなホクロがあることに気がつくほどじぃっと眺めてしまっていた。みくるさんはハンガーラックの一番手前にあったナース服を掴み、頭から着ようとしたところで、俺と目があった。


「……アサヒナ先輩って、胸のここんとこにホクロがあるんですね、星型の」


「きゃああああああ!!!!!!!」


 文芸部室どころか、部室棟全体が震えるような大声でみくるさん(小)の絶叫が響いた。

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