第85話
「…それ、どういう」
涙を拭いながら朝倉委員長は怪訝そうな顔をしていた。
「さあ、どういう意味でしょう?ただ、彼と話している間、わたしはあなたが何かしても気付かないかもしれませんね」
ピタッと朝倉委員長が手を止めた。えっ、つまりどういう意味なんだ?
「では、後を頼みますよ。長門さん」
そこで初めて、教室のドアの前に立ちっぱなしだった長門さんがこちらに歩いてきた。いつもの無表情で何を考えているのか分からない。近づいてきた長門さんはきみどりさんにこう言った。「何を考えている」と。おぉ、初めて長門さんと考えが一緒になった。
「あら、気になりますか?」
「今は朝倉涼子を一刻も早く連れて帰るべき」
「えぇ。ですので彼女の捕縛をあなたに任せると言ったのです。出来ませんか?」
長門さんは無言で返した。一度朝倉委員長にボコボコにやられているのを俺は知っているので、まぁ長門さんからしたら文句の一つも言いたいことだろう。
「バックアップの自分には少し酷だと思っているのでしょう?もちろん、朝倉さんには制約をかけますよ」
『制約』という言葉を聞いて、朝倉委員長は身構えた。しかし朝倉委員長に近づいたきみどりさんは、朝倉委員長に何もしなかった。ただ耳元で、二言三言何か囁いただけだった。「待って!」と朝倉委員長が叫んだが、きみどりさんは聞き入れず「長門さん」と呼んだ。それが戦闘開始の合図だった。天井から氷柱が生えてきて朝倉委員長の頭上に降り注いだ。残像だけ残す高速移動でそれを躱した朝倉委員長が居た場所に、天井色の氷柱が何十本ともなく突っ立って林を作っていた。
「座りましょうか」
あっけにとられていた俺に、場違いなほどおっとりしたきみどりの声がした。きみどりさんはちらっと教室の椅子を眺め、片手を上げるとどこか見覚えのある木製の丸テーブルと椅子が現れた。現れた、というか、手品のように一瞬に、まるで最初からそこにあったようにその場にあったといった感じだ。朝倉委員長や長門さんがやってみせたあれこれとは、速さとはまた何か違うレベルの手際だった。
「どうぞ」
またしても最初からあったようにテーブルの上に紙コップが置かれていた。紙コップが2つしかないので、みくるさんの分もお願いしようかと思ったのだが、みくるさんは呆然として長門さんたちを眺めていたので声をかけず、俺はきみどりさんにならって椅子に腰を下ろした。
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