第22話

「長門さん長門さん。あれ、いじめだと思う?百合だと思う?」


 俺は何一つ反応することなく筋トレ…じゃなかった読書を続けている長門さんに声をかけた。長門さんはダンベル…じゃなかったハードカバーの本から目をあげ、俺を見た後にドアの前の二人、なぜか縮んでしまったうえにうちの高校の制服を着ている未来人のみくるさんと、そのみくるさんのおっぱいを揉みしだいている涼宮をしばし眺めて、何も見なかったかのようにまたダンベルを読み始めた。そんな長門さんに俺は根気強く話しかけた。


「つまりだ。ここで判断を誤ると、俺は百合の間に挟まる男となってしまう。俺だって命は惜しい。筋トレ中にこんなことを聞いて悪いが、どうすりゃいい?」


 黙々と筋トレをしていた長門さんはダンベルから目を離し、部室の入口を凝視した。するとノックもそこそこにやって来た朝倉委員長が二人を見るなり大慌てで引きはがした。なるほど、百合の間でも女子ならば割って入っても許されるのか、などということを思いつつ、俺は昨日のことを思い出していた。




 ドアをノックして入ってきたのは朝倉委員長だった。俺の交友関係の中でこの混沌とした文芸部室を元に戻してくれそうな奴が来てくれたことに俺は半ば歓喜していたが、どうにも朝倉委員長の表情が怪しい。俺を見て、涼宮を見て、最後に長門さんを見て、スゥっと目を細めて俺を見てきた。


「あら、キョン君に涼宮さん。珍しいところにいるのね。もしかして文芸部に入部するのかしら?」


 いつもと同じような言葉なのだが、俺はじっとりと背中に嫌な汗をかいていた。朝倉委員長の目が全然笑っていない。涼宮はそれに気が付いていないのか黙っていたが、俺は慌てて口を開いた。


「いや、文芸部に入るつもりはないんだけどさ。ちょっとこの部室を借りることに」


「なんで?」


「なんで…?なんでってそりゃ…ちょっと訳があって」


「訳って何?」


「それは…ちょっと言えないけど」


「なんで言えないの?何かやましい理由でもあるの?」



 朝倉委員長が怖い。めっちゃ怖い。段々尻すぼみになっていった俺の声量は限りなくゼロになり、俺の背丈はすっかり小さくなっていた。


「ここ、文芸部室よね?学校がここを部室として提供している以上、ここを使いたいなら文芸部に入部するか、場所を借りるにしても最低限何のために使うのか話すのが筋じゃない?わたし何か間違ったこと言ってる?」


「俺が悪かったからもう許してください!!!」


 俺は土下座した。やましい理由があるわけではないし、どちらかといえば未来のための行動ではあったのだが、怒らせてはならない人を怒らせてしまったのでそうせざるをえなかった。しばしの沈黙の後、はぁとため息が聞こえた。


「ちゃんと長門さんに説明してね。あと涼宮さんも」


 声がいつもの調子に戻っていた。それはそれとして、涼宮もこの場にいたんだったな、途中から完全に気配消えてて、いるのすっかり忘れてた。

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