第87話
そう、最初からだ。朝倉委員長が長門さんと戦い始めた時から、一度だって彼女は攻撃をしていない。長門さんの攻撃を全て、避けるか受け止めていた。
「苦戦しているようですね、朝倉さん」
きみどりさんが横からそんな事を言う。苦戦だって?苦戦どころか、こんなもん戦いと言えるものか。
「きみどりさん。朝倉委員長に何をした」
いくら俺でも、きみどりさんが朝倉委員長に何かをしたせいだということくらいは分かる。そういえば制約がどうとか言ってたしな。しかし、きみどりさんは微笑むだけだった。
「身体的には何も。やったことといえば、二つお願いをしただけです。一つ目は、この空間内における所有権の放棄。朝倉さんが作ったこの空間で戦うのですから、条件はフェアにしないといけませんから。二つ目は、お気付きの通り長門さんへ向けた攻撃の禁止。これでようやく、朝倉さんのやろうとしていることに対して帳尻が合います」
俺はきみどりさんの胸倉をつかみかけ、すんでのところで思いとどまった。しかし、怒りをぶつけざるを得なかった。
「今すぐ、朝倉委員長の制約とやらを外してくれ」
はて?とばかりにきみどりさんは首を傾げた。
「あくまでお願いしただけですからね。彼女自身がお願いを聞いてくれているだけで、攻撃しようと思えばいつでもできるのですから彼女にそう伝えるべきでは?」
駄目だ。だんだんこの人と話してるとイライラしてきた。俺は朝倉委員長に向けて大声を上げる。
「朝倉委員長ー!攻撃しろ!この人の言ってたことは放っておけー!!!朝倉委員長!朝倉委員長ー!!!」
聞こえているはずだが、朝倉委員長は俺の声を無視してひたすら長門さんの攻撃を避け続けた。
「まぁ、今の朝倉さんにはできないでしょうね。お願いを無視したら、私がどう動くか予測できなくて。彼女が今、私にされるかもしれないと一番怖れているのは何だと思いますか?」
ふいに尋ねられて考える。そりゃ、強制的にあんたらに連れて帰られることだろう。俺がさっきそう言ったように。しかしきみどりさんは首を振った。
「朝倉さんが一番怖れていること。それは、私があなたを攻撃することです。こんな風に」
そう言ってきみどりさんは手をまっすぐ伸ばすと、ゆっくりとしたモーションで俺の首筋の辺りに近づけてきた。空手だったか柔道だったかでそんな組手があった気がするが、そんな感じのゆっくりとした動きで、とても攻撃には見えない動作だった。
しかし、きみどりさんの手が俺に触れる直前、遥か遠くで戦闘していたはずの朝倉委員長がものすごいスピードで飛んできて、俺を突き飛ばすようにして間に割って入ってきた。
きみどりさんが肩をすくめると、朝倉委員長は乱れた息を整える間もなく、それこそ飛ぶようにして先程までいた場所へと戻っていった。
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