第43話
「それで、宇宙人の長門さん。ユーは何しに地球へ?」
「わたしの仕事は涼宮ハルヒを観察して、入手した情報を統合思念体に報告すること」
急にガバるな。頑張れ長門さん。なんだ、涼宮ハルヒを観察しにって。理由付けが雑すぎるよ。しかたがない、もうちょっと話にのっておこう。
「あー、あれか?人間を調べてから侵略する的な?だとしてら涼宮はやめておいた方がいい。あいつは煮ても焼いても喰えないというか、たぶん宇宙人ぐらいだったらたこ焼きにでもしてあいつが喰っちまいそうだ。あと、そういう話なら俺もアンヌ隊員的な人を呼びに行きたいんだけど」
「侵略の意図はない。後半の発言については理解しかねるが、必要であればパーソナルネーム朝比奈みくるをこの場に呼んでも構わない」
「…おいおい、なんでここにアサヒナ先輩を呼ぶんだ?俺あの先輩とは仲良しではないぜ、朝倉委員長ならともかく」
「私が提案したのはあなたがアサヒナ先輩と呼称する朝比奈みくるではなく、さらに先の未来から来ている異時間同位体の方である」
「なんっ!?」
半分崩れかけていたあぐらから思わず片膝を立てた。ちょっと待て、なんで長門さんがみくるさんのことを知っているんだ?いやそれだけじゃない。いま先の未来から来たって言ったな。みくるさん達が未来人だってことも知っているってことになる。待て待て、つまりこれはどういうことだ?
「ごめん、長門さんってどこまで知ってる?」
長門さんは無感動な瞳のまま僅かに首を傾げた。いや、これは俺の聞き方が悪かった。俺の知っていることを長門さんは分からない訳なんだから。
「えっと、逆に長門さんの言ってたことってどこまでがマジの話」
「ぜんぶ」
ぜんぶ、ぜんぶかぁ…。聞き間違いで臀部の話だったりしないか?まぁしないだろうなぁ…急に臀部の話しされても困るし。
「宇宙人かぁ…」
なぜだろう、未来人のみくるさんと出会ったときのようなテンションになれない。なんというか、思ってたのと違う…。俺が思っていたのは、黒いサングラスを掛けてピカッと光る装置で記憶を消す組織とやりあっているような宇宙人だったんだ。隣のクラスに居る無口で大人しい女の子だと、どういう感情を持てばいいのか。何?笑えばいいと思う?うるせえよ。
「分かったよ、宇宙人の長門さん。よく分からないが、涼宮に用があるんだな?俺にその橋渡しをしてくれって話か?」
宇宙人にも未来人みたいな制約があるのかと思ってそう尋ねると、長門さんは首を振った。
「観察は我々の仕事。我々は外部の協力者を必要とはしない。あなたにコンタクトを取ったのは観察結果に無視できないイレギュラーをもたらしているため」
そういえばさっきもそんなこと言ってたな。俺が涼宮と関わったことで、観察とやらに何か不都合があるのかもしれない。しかし、みくるさんを手伝う必要があるし、何より俺は俺自身の意志で涼宮と関わろうとしているのだ。それをやめるという選択肢は、俺にはない。
「構わない。おそらく涼宮ハルヒには自分の都合の良いように周囲の環境情報を操作する力がある。あなたが涼宮ハルヒと関わりを持とうと思い、現実に関わりを持てているのであれば、それは涼宮ハルヒがもたらした結果として処理される」
突然ぶっ飛んだ話になった。何?長門さんたまにバグるの?って心配になるぐらい突拍子もない話だ。それはともかく、俺は俺が聞いていることの返事がまだないことが気になった。
「俺が涼宮と関わるのは別にいいんだったら、それこそ何で俺ここに呼ばれたんだ?」
この家では学校と違い、無機質だがよどみなく話していた長門さんが、初めて迷うように口を開くのを躊躇った。なんだよ、怖いじゃねぇか。
「観察対象への関与は今のままで構わない。ただし、観察者へのこれ以上の関与は許可できない」
また難解な言葉を…。俺と話すときは3歳児相手だと思って会話してもらいたい。まぁ、何…観察者?長門さんに関わるなってこと?俺そんなに長門さんと言葉のキャッチボールした記憶ないぞ、会話の壁打ちにしかならなかったじゃないか。
「わたしではない。情報統合思念体が地球に置いているインターフェースはわたし一つではない」
「えっ、そうなの?」
俺の周りに長門さんみたいな無口キャラっていたっけか。いや、確かにクラスに何人かいるけど、俺そいつらと会話した覚えほとんどないぞ。ちなみに誰のことを言ってるんだ?
「あ」
ピンポーン
長門さんの小さな声を聞き逃さないよう耳を澄ませていた俺は、突然鳴ったインターホンの音に飛び上がって驚いた。
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