第39話

 アサヒナ先輩は完全に硬化していた。目と口で三つの丸を作って埴輪みたいになって固まっていた。埴輪って知ってる?あの土偶みたいなやつ。反対に動いてみせたのが長門さんだった。なんと本から顔を上げ、首を涼宮へと向けた状態で、ブリキ人形みたいになっていた。ブリキ人形って知ってる?日本人形の亜種だ。朝倉委員長はというと、なんだろう、どういう感情なのかよく分からないが、猫のように目を細めて涼宮をじっくりと観察しているような風だった。猫って知ってる?吸ってみな、飛ぶぞ。


 最後に小泉だが、微笑なのか苦笑なのか驚きなのかよく分からない表情で突っ立っていた。小泉は誰よりも先に我に返り、


「はぁ、なるほど」


 と何かを悟ったような口ぶりで呟いて、アサヒナ先輩と長門さん、朝倉委員長を順番に眺め、俺を見ながら少し首を傾げ、訳知り顔でうなずいた。


「さすがは涼宮さんですね」


 その意見には同感だが、今何で俺を見て首を傾げた?返答次第では戦争だぞ。


「いいでしょう。入ります。今後とも、どうぞよろしく」


 白い歯を見せて微笑んだ。なにわろとんねん、というツッコミはかろうじて自重した。小泉は俺に向けてぬっと手を差し出した。


「古泉です。転校してきたばかりで教えていただくことばかりかとは思いますが、なにとぞ御教示願います」


 バカ丁寧な定型句を口にする小泉の手を握りかえす。


「ああ、俺はキョン。知り合いはみんなそう呼ぶから」


「こら、そいつはSOS団じゃないのよ!あっちの可愛いのがみくるちゃんで、そっちの眼鏡っ娘が有希」


 と二人を指さして、すべてを終えた顔をした。朝倉委員長の紹介がまだなので、俺が代わりに紹介しておこう。


「紹介に漏れた彼女が、俺と涼宮と同じクラスの朝倉委員長。さっき教室に来てたから知ってるか。噂のバニーガールズの一人だ」


 ごん。


 鈍い音がした。立ち上がろうとした朝倉委員長が机に突っ伏した音である。


「お、おい。どうした、大丈夫か?」


 朝倉委員長は顔を伏せたまま片手を上げた。大丈夫そうだ。小泉は軽く引いているようだが。


「SOS団もようやく四人ね。あと一人加われば、学校としても文句は言えなくなるわよねえ」


「ここに二人いるんだが???お釣りが発生するんだが???」


 俺の発言を涼宮は無視した。そればかりか、学校を案内してあげると言って小泉を連れ出してどこかへ行ってしまった。アサヒナ先輩も用事があるからと帰ってしまったので、部室には俺と朝倉委員長と長門さんが残された。


 朝倉委員長はまだ机に突っ伏したままで、再起動するまでもう少しかかりそうだった。ふと長門さんの方を見ると、なんと長門さんは俺を見ていた。体を捻って後ろを見てみるが、特に何もないので俺を見ているので間違いないようだ。何?と口を開こうとすると、長門さんは黙ったまま分厚い本を差し出してきた。反射的に受け取る。ずしりと重い。俺の知ってる本と違う。ジャ○プ2冊分より重い気がする。表紙は何日か前に長門さんが読んでいた海外SFのものだった。


「貸すから」


 聞こえるかどうかのとても小さな声で長門さんはそう言って、そのまま部室を出て行った。受け取った本をパラパラとめくってみると、半ばくらいに挟んであった栞が床に落ちた。前に一度見た、花のイラストがプリントしてあるファンシーな栞だ。裏返してみて、俺はやはりそこに手書きの文字を発見した。


『午後七時。光陽園駅前公園にて待つ』

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