第二王女様と第二話

「こんにちはイノリ様。これから座学、魔法の担当をします、ライジングサン王国第二王女です。これからよろしくお願いします。」


目の前にいるのは第二王女らしい。

第二、だ。

あの生意気お姫様の第一王女じゃない。

ちなみに勇者三人は別室で第一王女の授業を受けている。


別れた理由は簡単。

かの生意気お姫様が、「勇者ではない方に教えるなど、言語道断ですわ!」と、俺の授業をストライキしたのである。


「よろしくお願いします……あの、第二王女様ということは、第一王女様の妹なのですか?」


目の前の第二王女は、見た目十代後半で、あの生意気お姫様より年下には思えない。

もしかしてあの生意気お姫様は見た目に反して結構年上なのだろうか?合法ロリか?

あるいはこの第二王女がやたらと発育いいのか?


「いえ、様々な事情が御座いまして、私の方が年上ですが、女王継承権第一位は第一王女なのです。」


あ、なんか本当に複雑な事情がありそう。

第二王女は淡い茶髪で青目、美人なんだろうけど、こう、特徴がない。美人を合わせて平均してみたらこうなりました、みたいな感じだ。身長は160cmに届くか届かないくらい。

肩にかかるくらいの髪の長さだ。

胸は普通よりも少し小さいくらいか?貧乳派にも巨乳派にも受けが無さそうだ。

常に微笑みを浮かべている。ただし、そこに感情は感じない。


「では、授業を始めたいと思います。まずはこのライジングサン王国について」





ライジングサン王国

かつて、旧魔王を倒した勇者のパーティーの一人の魔法使いが興した国。歴史は300年ほどと新しい。

創国者が女性であったため、女性に重きを置かれることが多い。

王位継承権は常に女性にあり、女王の婿となった国王が摂政として治世を行うのが習わしである。婿は王子、公爵嫡子がなることが多い。

このとき、女王は離婚という形で国王から王権を剥奪することが出来る。

国名は創国者が名付けた。国旗は国名を由来に、地面から朝日が上るのをシンボルとしている。

通貨はデル(国家連盟共通通貨)、50デルで簡単な一食分。

特産品はケッチョー、トレントなどの魔物素材。

工芸品として魔動具が有名である。

また…………





うつらうつら


「イノリ様。起きてください。」


は!また寝てた!


「聞いてましたか?」

「聞いてましたある程度。」


なるほど、団長さんは女性だからこそ騎士団長になったのか。

戦乙女隊があるのも納得がいく。


「何か質問は御座いますか?」

「あ、じゃあ、まず魔動具ってなんですか?」

「魔動具とは、使用者の魔力によって動く道具です。」


この世界では科学の代わりに魔法が発達しているのか。


ありきたり~


「他に質問は?」

「女性至上主義は、末端の村落でも適用されるのですか?」

「いえ。そんなことはありません。女性至上主義は上位の貴族のみです。軍隊や村落では力仕事の出来る男性の方が優位に立っています。」


微妙なところなんだなその辺は。

現代社会でこそ女性が働ける環境になりつつあるが、文明レベルが低いと女性の職場はより少ないだろう。

ベビーシッター制も無いだろうしな。


「他に質問はありますか?」

「じゃあ、あなたの名前はなんですか?」

「ありません。」


ほ?


「強いて言うなら、『第二王女』が名前です。王太子などはともかく、王族の娘は女王継承権を持った時点でそれまでの名前は剥奪されます。」


そういうものなのか。

あれ?じゃあ第一王女と第二王女の会話ってカオスじゃね?

姉様とか呼ぶこともこの二人だと難しいだろうし。

『あらこんにちは、第一王女。今日もいい天気ね。』『そうですね第二王女。』

みたいな?



「では、質問がなければ魔法の授業に入ります。まず、体の中には魔力が巡っており……」


「魔法陣や詠唱という…………それを媒介にして………」


「……六つの属性が………………………」


「…………………………」


「……………」



「起きてください、イノリ様。」


はっ!


「聞いてましたか?」

「最初の一文だけ。」

「聞いてなかったのですね。」


第二王女はため息をついて、また同じような説明を始めた。

不真面目な生徒を前にして、一切の怒りは見せない。変わりなく、微笑みを浮かべている。

生意気お姫様とちがう、本当の王女の佇まいだ。

ただ、そこになんというか不自然さを感じてしまう。








「起きてください。イノリ様。」


はっ!









魔法の基礎知識の授業を終えて(ほとんど頭に入っていなかったが。)、勇者三人と食事し、昨日のように自室に戻る。

ちなみに魔法の実践練習は明後日かららしい。明日は魔法の理念か何かを教わるのだとか。

勇者三人に聞いてもだいたい同じ進行度だったから、もしかしたらあっちで進行度を調整しているのかも知れない。

そこまでするなら4人纏めて教えろよと思うが。


風呂は無い。なんでやねん。

理由を聞いてもあまり教えてくれなかった。なんとなく財政危機とつながっている気がする。

体はメイドさんが拭いてくれるので清潔だが、どうにも慣れない。というかこっぱずかしい。

別に体を拭いてもらって快感を得る変態じゃないんだよ。


で、その苦行を終えて、自室のベッドに寝転がる。

昨日は夜中に眠れなくて、だいぶ時間を持て余してしまったが、今夜は心配ない。

第二王女様から初級魔導書を借りてきたのだ。

魔法の授業は寝てるくせに、魔導書は借りていくとか嫌ったらしいにもほどがあると思うが、第二王女様は嫌な顔一つしない。

いつもの通り、微笑を浮かべるだけだ。

だんだんそれが怖くなってきたが。

何か、古びた日本人形をじーっと見ていると感じる不気味さ?アレに近い。

もう第二王女って面倒だから、先生と呼ぶことにしよう。

先生は貼り付けられたような笑顔を浮かべ、決められたように応答し、感情の起伏を感じさせない。

徹底的に『お姫さま』を仕込まれた、そういう人間に思える。

美人だが特徴のない容姿も相まって、まるで人形みたいだ。

そういえば侍女達の会話で、『人形姫』っていう単語が聞こえてきた事があった。ちなみに《探査》で強化された聴力のおかげだ。

あれは先生の事だったのだろう。言い得て妙だ。

やたら活発な生意気お姫様とは対照的だな。


まあ先生のことは、今は置いておこう。

この魔導書、寝ていて聞いていなかった授業内容の補完という目的だけで借りたのではない。

魔導書であるからには、ページに魔法陣が書かれてしかるべきだ。

これを使って、《陣の魔眼》の実験をしてみよう。

俺は左目を隠していた眼帯を取る。ちなみにこの眼帯は、メイドさんに頼んだら持ってきてくれました。


初級魔術の中で、部屋で行使しても危険がない物は何だろう。

適応属性が魔眼に反映されるのかはわからないから、贅沢を言えば全て試したいのだが……

初級火属性魔法『種火』。火事は怖い。万事をとってやめておこう。

初級水属性魔法『水玉』。桶もないし、カーペットを濡らすのも気が引ける。

初級土属性魔法『砂操』。砂がない。

初級闇属性魔法『呪詛』。かける相手いないし、かけた後が怖い。

となると、初級風属性魔法『微風』か初級光属性魔法『灯火』かな?


とりあえず『微風』から。

目次を引き、ページを開き、魔法陣を左目で見る。


これでいいのかな?

《陣の魔眼》、発動!







………しかし何も起こらなかった。


あ、視点から発動するんだっけ?

そうかそうか、それならドアを見ても微風が起きたか分からないよな。

今度は手に向けて発動しよう。


《陣の魔眼》、発動!



………


発動!発動!発動!




より手を目に近づけてみる。


《陣の魔眼》、発動!


発動!発動!発動!発動!


あ、ちょっと風を手に感じた気がする。

いやこれ鼻息だ。


これは『微風』は失敗したと見る方がいいな。

次は『灯火』だ。


目次を引き、ページを開き、魔法陣を見る。


視線を前に向けて…


《陣の魔眼》、発動!


………

発動!発動!発動!









え?これも失敗か?


……よろしいならば、この魔導書の全ての魔法陣を試してやる……!

一つくらいは当たりがあるだろう。と、信じて……!



……………



………




……







………結果、全☆滅。


一つも当たりがないとかどういう事だよ。

おい《視の魔眼》!お前の鑑定が嘘付いているんじゃ無いだろうな?


そういえば、俺は魔力測定で魔法の操作能力がゼロだという結果が出ていたな。

確かに、《陣の魔眼》無しで魔法を使おうとしても発動しなかった。(小声で詠唱しました。)

もしかして俺には魔法を使う才能が全くないのだろうか。

《陣の魔眼》を使えば、その弱点も克服できると思っていたが、この散々な結果を見ると、そんなことはないようだ。

というかそもそも、魔法陣を魔眼にストックしている実感もない。

つまり、剣と魔法の世界で、俺は魔法を使えないと。それもはやただの中世。

チートの一つの《陣の魔眼》も役にたたないとわかったし、落胆ぶりが半端無い……。







……本当にそうか?

魔力測定の時、俺は魔力量が「そこそこ多い」と判定された。

だが、ステータス上では、十分の一であってもMPは「かなり多い」と判定された龍斗とあまり差は無い。

夜であれば、珠希にさえ引けを取らないステータスだ。

それに、おそらく魔法の扱いに関係するであろう数値、INTはかなり高い。

それなのに、魔法を使えないのはおかしくないだろうか。


……怖いけど試してみよう、《闇魔法・真》を。


最も危険が無さそうな魔法を『シーナ』の膨大な知識から検索する。

『影操作』かな?

音もでないだろうし、知識から言って物理的攻撃力もほとんどない。ただ自分の影を操るだけだ。

本来、闇魔法の使い方に慣れるための練習用の魔法だ。

俺は人差し指を伸ばし、ろうそくの火で映し出される指の影に集中する。


しっくりきた感覚の後、人差し指の影がにゅーーっと伸びた。


成功だ。

それからグニグニと蔓のように動かしてみる。

二次元から三次元に飛び出したりはしないが、かなり自由に動くようだ。

しかし遅いな。これで最速なのだろうか。


まあいい。闇魔法は使えるのが分かった。


部屋に設置されているベルを鳴らし、外に控えているメイド、ナーラさんを呼ぶ。


「はい。用件はなんで御座いましょうか?」

「紙とペンを持ってきてください。」

「かしこまりました。」


ナーラさんは部屋から出ていき、数分後に戻ってきた。


「こちらで宜しいでしょうか。」


そういってナーラさんは一枚の白紙と少し太めのペンを持ってきた。

紙は羊皮紙ではなく、木皮製のもののようだ。

ペンはインク入れが無いと言うことは、そのまま使えるのだろうか。


「貸してください。」

「どうぞ。」


渡された紙の端っこに、ぐるぐると試し書きしてみる。

インクを付けているわけではないが、それでも滑らかにかけるようだ。このペンはボールペンのようにも見える。

意外だ。この文明レベルなら羽ペンかつけペンかと思っていた。


紙はさすがにコピー用紙ほどの書き心地ではないが、障害をきたすほどでもない。


「ありがとうございます。出来ればこれと同じ紙を、あと十数枚持ってきてくれますか?」

「わかりましたが、それほど多い紙を何に使うおつもりですか?」

「日記を書くのです。異世界に召喚された日々を書き綴るのは、面白いとは思いませんか?」


無論、口から出任せである。


「なるほど!それは面白そうですね!」


うお、ナーラさんのテンションが上がった。

ふんわりと後ろでまとめた茶髪が揺れる。胸も少し揺れる。


「私、読み物が好きなんです。良ければその日記を見せていただく事は出来ませんか?」

「え、ええ。良いですよ…?」


しまった。マジで日記を書く羽目になってしまった。

といっても、もともと日記を書いていないのがばれたら怪しまれただろうから、書くのはしょうがないことか。

もっといい誤魔化し方もあった気がする……。


「では、完成したら読ませてくださいね?」

「ええ。もちろん。」


ナーラさんとの親密度が上がった!

すごくおとなしそうな外見で、読書の話になるとやたら食いついてくる文学少女か…。少女というよりは女性だが。

信じられるか?これで下着は黒なんだぜ?




その後、十数枚の紙をナーラさんが持ってきて、部屋から出ていったので、本題に移る。


まあ紙とペンを用意したのは、もちろん日記とは別件で、魔法陣を書くためである。


闇魔法が使えることはわかり、そしてシーナの知識には、大量の闇魔法の魔法陣の知識があるのだ。

これを書き起こし、《陣の魔眼》の実験をするのである。


ぶっちゃけ、失敗すると思っているが。









結果、やはり全滅だった。

思いつくあらゆる魔法陣を書いたが、どれも《陣の魔眼》は反応しなかった。


行き着く俺の予測は、『魔法は世界によって全く別物なのではないか。』というものだ。

《武器錬成》も《闇魔法・真》も同じMPを消費していることから、魔力自体は同一の物なのかも知れない。

しかし、思い返してみると、召喚魔法陣は世界によって形状も方式も光の色もてんでバラバラだったのだ。

そして、マーリオの《鑑定の魔眼》で俺の《成長度向上》などの能力を見抜けなかったことから、《視の魔眼》以外の鑑定、測定はその世界における能力、値しか判明しないのだと考えている。

そう考えれば、俺の魔力測定の時、鍛えていないにしてはやたら多い魔力が「そこそこ多い」と判定されたのも頷ける。


《陣の魔眼》に関して言えば、この眼でストックできる魔法陣は、魔眼の世界の魔法陣のみだということだ。

この世界からそれを知る術はない。

結局、《陣の魔眼》が死にスキルだと判明した瞬間である。


萎える。


くそ、せめて誰かがあの世界で魔法陣を使っていたら………






………つかってたな、あのキモ男。

そういえば、俺に精神干渉系の魔法を使おうとして、失敗してた。

そもそも魔法が効いていなかったし、キモ男がキモかったから完全に忘れていた。

あのとき、キモ男が魔法を発動するタイミングで、キモ男のかざした手から魔法陣が現れていた。


《視の魔眼》映像記憶


思い出せる。鮮明に。

記号の一つもこぼさずに、まるっきりそのまま覚えている。

さすがだぜ《視の魔眼》!さっき鑑定を疑ったりしてごめんよ。


思い出した魔法陣を紙に書き、左目で見てみる。


パシッ


左目に、何かが刻まれたような感覚がした。

少しピリッとする。

今までにない感覚だ。多分成功したと思う。


あとは実際に使ってみるか。

正直な所、人を使って実験するのは色々に気を使って面倒なんだが。


再びベルを鳴らす。

ナーラさんは二度目の呼び出しにも快く応じてくれる。


「用件は何でしょう。日記がもう完成したんですか?」

「いやいや、それは早すぎるでしょう。少し聞きたいことがあったんですよ。」


《陣の魔眼》発動。


視点、すなわちナーラさんの目前で魔法陣が展開され、精神干渉魔法が実行される。

少し体から魔力が抜かれる感覚があるが、武器錬成よりも少量のようだ。


次の瞬間、ナーラさんの目がトロンと座った。

いわゆる催眠状態?


親密度があがったばかりの相手に催眠かけるなんて、フラグクラッシャーだな俺は。


とりあえずナーラさんに質問してみよう。

ちなみに部屋の音を盗み聞いていた奴は今日はいない。

勇者三人の部屋にはついているようだから、俺よりも勇者を優先するようにしたのだろう。


「今日の下着の色は何色ですか?」

「…黒です。」


ふむ。しっかり催眠状態のようだな。

ただのセクハラ発言では無いぞ?普段言わないような回答を確認して、正常状態か否かを確かめているのだ。


うん。魔法が発動したのはわかった。

でもどうしよう。やってから気づいたけど、この魔法の解き方が分からない。

あれか、「私が手をたたいたら、あなたは解放されます」とかいうのか。


そんな解除方法なのかわからないが、とりあえず良い機会だから他に質問してみよう。

気になっていること……質問したいこと……


そうだ。


「第二王女様の事情を教えてほしい。」


複雑な事情を本人に聞くのは気が引けるが、第三者に聞くのは俺的にオーケーだ。

ナーラは力のない表情で、淡々と話し始めた。














所々に設置されているランプで、まだらに照らされた暗い回廊を、ひとりの女性が歩いていた。

彼女はその美しく長い金髪をポニーテールにまとめており、歩く度に緩やかにゆれる。

身にまとっているのは鎧である。

だが、アンバランスさはなく、二重のスカートと合わさり、一つの衣装として成立していた。

彼女の金属靴が石畳を軽くたたき、高めの金属音が、彼女の一歩ごとに回廊に響く。


ふと、女性は足を止めた。

向かいから近づく足音を聞いて、廊下の脇に体をどける。

回廊の内側の壁から姿を現したのは、周りの景色に溶けてしまいそうな、自然すぎて不自然な微笑を浮かべた少女だった。

ライジングサン王国第二王女である。

すれ違い様に、ポニーテールの女は頭を下げたが、第二王女は彼女の前を通り過ぎることはしなかった。

わずかな沈黙が流れた後、彼女、ライジングサン王国三大隊統括騎士団長は頭を下げながら、第二王女に告げた。


「第二王女様。城中であっても、このような夜分に護衛も連れずに出歩くのはおよしください。どこぞに敵が潜んでいるやも知れません。」

「騎士団長、イージアナ・イーツェ。私はあなたと二人で話したかったのです。」


その言葉を受け、イージアナは顔を上げた。

眼前には、先程と変わりない微笑を浮かべた王女がいた。


「お忍びになってまで、私とお話になりたいこととは何でしょう。」

「勇者様方の、教育についてです。」

「何か問題でもございましたか?」

「今日、イノリ様から魔動具について聞かれました。訓練では、まだ魔動具はつかっていないのですか?」


王女の質問に、イージアナは微笑みながら答えた。


「まだ一日目です。体術の基礎も出来ていない段階から、魔動具に触れさせるのは良くないと判断いたしました。」

「魔法や体術で魔物と対抗できるなんて、この国の一部の人間だけです。他の国では、魔動具の存在は絶対視されています。魔動具がなけれは、魔王はおろか、魔物にさえ戦いづらいと思います。」

「確かに魔動具の使い方も大事でしょう。しかし、基礎となる体術があれば、より効率的に、魔動具を扱うことができるはずです。」

「それでも、魔動具がなんたるかくらいは教えてもいいのでは?魔動具の使い方なら、あなたの方が詳しいと言うからあなたに任せましたが、基礎知識くらいなら私達でも……」

「魔動具は、たしかに強くはなれますが、同時に心の甘えともなります。今はその甘えを取り除き、心身ともに徹底的に鍛え上げるべきです。」

「………」


王女はイージアナに口をつぐんだ。

イージアナは僅かにため息をつき、王女の目を見て言った。


「第二王女様。王女様方は、何も心配しなくていいのです。これは私たちの仕事です。王女様方は、授業をしてくださるだけで多大な貢献をされております。後は我々に任せていて下さい。」

「………わかりました。要らぬ心配だったようですね。呼び止めてすみませんでした。」


第二王女はぺこりと頭を下げて、再び仮面のような微笑で起き上がった。


「……第二王女様。王女様は、もう昔のように笑って下さらないのですね。」

「私は今でも笑っているつもりです。では、失礼します。」

「……………お待ちください。」


立ち去ろうとする第二王女を、騎士団長は呼び止めた。


「…第二王女様は、女王陛下をどう思っていらっしゃるのですか?」

「何を当たり前のことを。才能があり人望があり信念があり理性がある、素晴らしい、陛下の座にふさわしい方だと…」

「それはあなたの本心ですか…!?」


悲しそうな顔をするイージアナに、王女はふたたび同じ顔を作った。


「それはどういう意味ですか?騎士団長。どこに聞き耳を立てている輩がいるかもわかりません。あまり女王陛下を言うと、不敬罪にとわれますよ?」

「…………はい。」


第二王女は再び後ろを振り向き、元来た道を帰って行った。


(第二王女様、アリーヤ様。その心配はありません、無いのです……)


騎士団長はしばらく悲しげな視線を、第二王女が角に消えた回廊に送っていた。


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