つっこみどころの第二話
「ひゃっはーーー!! 汚物は消毒だぁぁ!!」
祈里です。
現在昼間のストレスを発散中でござる。
昼間の出来事を簡単に説明すると、シスター師匠に連れて行かれる→しごかれる→疲れ果てて寝る→すぐに夜になり、眠れなくなる→寝不足。
そう。寝不足である。吸血鬼は夜に眠くならないのだ。珈琲を飲んだように眠れなくなるのである。寝溜めはできない。
いつも通りに影移動を使いまくって、転移で街の外まで出てきた。まあいつもより早かったため、アリーヤには会わなかったのだが。
今日は魔物狩りでストレス発散したいので、《性技》のスキル上げはお預けである。良かったなアリーヤ。今日は気絶するように眠らなくて良いぞ。
なお現在の《性技》のレベルは5である。
ちなみにスキルのレベルは俺の感覚で言うと、
レベル1,2 …初心者
3,4 …中級者
5,6 …上級者
7,8 …達人
9,10 …神
大体こんな基準である。
つまり俺は、《性技》は上級者レベル。《跳び蹴り》《噛みつき》《跳躍》は神レベルな訳だ。……神レベルの跳び蹴りって何。
さて、まあスキルのことは置いといて魔物狩りに集中しよう。
なおレベルは上がらない。どういうことだ。《成長度向上》さん息してますか?
15レベルになると必要経験値が莫大になるのか? せめて経験値が可視化できると良いのだが。
まあレベルには不満はあれど、今は良い。どうせ俺にはどうしようもできないことだ。俺はとにかく魔物を倒すのみである。吸血すればステータスは上がるのだ。問題はない。
遠くの方に魔物を発見する。
常人には見えない距離だが、《視の魔眼》の「遠見」があれば余裕である。
スケルトンのようだ。
辺境であり未開拓地であるからか、どうやら死者がそこそこ居るらしく、このあたりはアンデッドが良く湧くのだ。
なお、《男爵級権限》でアンデッドを従えることは出来ない。クーデターの時は
つまり、俺が生み出したアンデッドは従えることができるが、この世界で生まれたアンデッドは従えることができないのだろう。
……《男爵級権限》、微妙である。微妙に使えない。
ていうか、この階級上がらないのだろうか。俺は何時までも男爵なのだろうか。そもそも上げ方が分からない。
例えば、俺を吸血鬼として召喚した世界における、何らかのプロセスがあった場合、俺はほぼ恒久的に権限を上げることが出来ないのである。これはつらい。
っとまあ、それは今はいいのだ。
とりあえず眼前(?)のスケルトンをどうするか。いや、まあ倒すという一択なのだが。
装備から大体どんなスケルトンかは予想がつくが、とりあえず「鑑定」してみようか。
No name
不死系魔物 メイジスケルトン
HP 50/50
MP 1580/1580
STR 50
VIT 93
DEX 452
AGI 65
INT 1023
加護
なし
称号
なし
やはりメイジスケルトンでしたか。杖を持っていたからそりゃそうだと思うが、以前そのまま杖で殴りかかってきた近接型のスケルトンも居たのだ。
なんにせよ、MPとINTが高い魔物は大歓迎だ。AGIも鍛えたい所ではあるが、MPが増えれば転移可能回数が増えるし、INTが増えれば「遠隔操作」で操れる対象の数が多くなる。
つまり、どちらもめちゃんこ重要なのだ。
メイジスケルトンと俺の周りに他の魔物や人間が居ないか、《探知》のスキルで確認する。
大丈夫だ。問題になるほど近くには居ない。
いつもなら、より効率的に狩る方法を使ったり、あるいは試験的に戦略を立てたりするのだが、今回はストレス解消したいので別だ。
作戦は、まっすぐ行ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす。これのみ。
では行こうか。
「絶対目測」によると、奴と俺との距離は1523m。
そんな距離俺の
俺はクラウチングスタートの姿勢をとり、地面を抉る勢いで足を蹴り出した。
一歩ごとに、加速、加速、加速。
俺の体は一気に亜音速の領域に達する。周り景色が恐ろしい速度で後ろに流れていく。
メイジスケルトンはようやく接近する俺の姿を捉えたらしいが、遅すぎる。
俺は握り締めた拳を頭蓋骨の鼻っ柱にねじ込んだ。
骨が砕け、爆ぜる感覚が手に伝わる。
骨の組織が砕かれる音がした。
謎の爽快感を感じながら、俺は言った。
「……やったか?」
あえてフラグを立てていく俺です。
体を減速させ、反転する。
「……やってたか」
メイジスケルトンの頭蓋骨は、跡形もなく弾け飛んでいた。全身の骨も粉砕はされていないものの、あっちこっちに飛び散っている。
まあ所詮魔法職。堅くもない体など、この程度のものだ。
ちょっと物足りなさを感じながら、俺はバラバラになった骨を集め始めた。
では、《吸血》によってスキルとステータスを頂きますか。
何? 血がないから吸血出来ない?
いやいや。骨だけのスケルトンでも、やりようはあるんですよ。
まずは大腿骨っぽい太い骨を手にとり、縦に割る。まあ少し難しいが、俺のナイフを使えば何とかなる。
骨の中にあるのは、造血器官である骨髄だ。白骨化しているから、赤くもないし液体も滲みでたりしないが、それでも元々血液と造血器官であったことには変わりない。
これをナイフの刃先ですくい、食べる。
造血器官である上、魔法職の魔物となっていたためか魔力の味が濃い。
珍味、という奴かもしれないな。
少々面倒であるからここで全てを頂くことは出来ないから、影空間にしまっておくことにする。
さて、では次の獲物を探そうか。
──『あらあら、面白いことしてるわね』
ファッ!?
突然聞こえてきた艶やかな女性の声に驚く。
と同時に《探知》を展開。
しかし案の定、近くに生命反応も無いし、魔力的な異常もない。
近く、といっても、俺の《探知》の範囲はかなり広い。俺の視界を覆えるくらいだから、相当なものだ。
そんなに距離が離れている所から、何の魔法も使わずに声を届かせるなんて不可能だ。
『驚いてしまったかしら? ふふふ』
なにわろとんねん。
「いきなり話しかけてくるなよ、失礼な奴だな」
内面の動揺を見せないように、『声』に対して返答する。
『あらごめんなさい。自己紹介をしておきましょうか? 私はフルス。よろしくね』
「顔も見せずによろしくできるか」
『名乗ってくれないの?』
「素性も姿も分からん奴に、易々と名乗る度胸はないね」
『あら残念。でも、姿を見せるのは勘弁してね。色々準備が必要なのよ』
会話を続ける中で、俺は思考を巡らしていた。
フワフワした様子だから分かりにくいが、この様子だと俺の思考を読むことは出来ていないようだ。
《探知》が利かない力。俺は昼間の教会での出来事を思い出していた。
まさか、これも神の仕業なのだろうか。
神にしては友好的すぎる気もする。
「それに俺としては、あんたの名前よりもこの手品のトリックを教えてほしいな」
『手品? ……あぁ、この会話のこと?』
「魔力的な揺らぎもないし、近くに誰かがいる気配もない。できれば方法を教えてほしいね」
『魔力や気配も察知できるの……それなりの手練れっぽいのに、
む? 彼女(多分)の口振りだと、そう珍しい事でもないようだな。
だとしたら、やはり俺はこの世界のことを知らなすぎる。
『まあ、人間には精霊魔法を使える人はほとんどいないから、当然かもね』
「精霊魔法か。それに、人間にはってどういう事だ」
さっきから質問してばかりだが、勝手に話しかけてきたのはあちらだ。これくらい許してほしい。
『ええ。私はエルフなのよ。これは精霊魔法、というか、風の精霊に頼んで声を届けてもらっているだけよ』
精霊を扱い、人間とは違う種族といったら、確かにエルフだろう。
人間に精霊とコミュニケーションをとれるものや、精霊を見ることが出来る者はほとんどいないようで、精霊魔法に関する文献は見つからなかったのだ。
しかし、精霊というタネは分かったが、《探知》は精霊を感知出来ないのだろうか。
だとしたら、昼間の教会のあれも、精霊の仕業だったのか?
……いや、あれと今のこれは、全く次元の違うものの様に感じる。まあ、ただの直感なんだが。
「便利そうだな。俺に教えてくれないか」
『人間なんでしょ? まずは精霊の姿を見るか、声を聞けなきゃ駄目なのよ。難しいと思うわよ?』
「やっぱり精霊ってのはいるものなのか。見たい。どこに行けば見れる?」
『ちょっと何か勘違いしてるわよ? 精霊はね、どこかにいるんじゃなくて、いつだって私達の周りにいるのよ。空気にも、湖にも、地面にもね。属性は違えども、精霊のいない場所なんて無いわ』
なるほど。世界中に、空間中に精霊はいるわけだ。
すると、やはり俺の《探知》では見つからないのだろうか。
少し《探知》への好感度が下がっているんだが。いざって時に信用ならないとは、後一歩使えないスキルである。
……いや、逆に考えてみよう。
世界中に溢れているからこそ、俺の《探知》では見つからないんじゃないか?
正確には識別か。
海の中でコンタクトレンズを探すのと同じ……いや、ちょっと違うか。
とにかく、そこら中に当たり前のように精霊がいたから、ずっと《探知》できていたから、それが精霊だと分からなかったんじゃないだろうか。
俺の《探知》は、生命反応、魔力だけではなく、地面、空気や水までをも把握できる。俺は今まで、普通に地形の把握だと思っていたが、これが精霊そのものであったなら?
その可能性は、ある。確かめてみる価値は充分にある。
『さっきから私が質問されてばかりじゃない。私からも聞いて良い?』
いや、検証は後にしようか。とりあえずこのアマを何とかしないと。
『あら? 今何か失礼なこと思わなかった?』
「きのせいです」
『怪しいわねぇ。……まあいいわ。さっきあなた、スケルトンの骨を食べたりしてたでしょう?』
知られてたよ。見られてたよ。
ちょっとやばいなこれは。《探知》でこのエルフがいる場所が分かったなら、速攻で殺して口封じするくらいやばい。
『夜に狩りをするなんてのも珍しいのに、普通の魔導具よりもいい性能らしいし? ただ者じゃないわよね』
俺が魔動具を付けていないことは一目瞭然だ。ズボンとワイシャツと手袋しかつけていないのだから。
となると、彼女は俺の姿を見えていない?
或いは精霊に情報を話してもらっているだけで、彼女自身が見ていない、かな。
『私も話したのだから、あなたも教えてくれても良いんじゃない?』
「やだね。情報の価値が違う。あんたが話したのは、それがエルフなどの精霊魔法使いにとっては一般的な技術だからだろう? 俺のは企業秘密なのさ」
『……そう。残念ね』
おや、わりとあっさりと引き下がったな。
『ま、もともとちょっかいかけるぐらいのつもりだったし、話したかっただけなの。無理矢理情報を聞き出そうとはしないわ』
「そりゃ助かる。……もう行って良いか? そろそろ
『ストレス発散って……あなた本当に面白いわね。良いわ、また会える日を楽しみにしてるから』
その言葉を最後に、彼女の声は聞こえなくなった。
不穏なことを言い出すエルフだ。
正直言えば、しばらく会いたくはないな。
まあそう会うことは無いだろう。人間とエルフは敵対関係だ。街の中にエルフが入ってくることは出来ない。というか、入ろうともしないだろうし。
……そのエルフが人間(違うけど)に話しかけてきたのは、あいつが変人だった、と言うことで片付けよう。
「しかしうれしいな! まさかまた教会に行こうなんて、君から言ってくれるなんて!」
シスター師匠が輝くような笑顔で俺に言ってくる。
そうだ。今日は俺から教会に行こうと言い出したのだ。
……別にシスター師匠の
敵情視察、とでも言えばいいのだろうか。
確かに教会と神が密接な関係にあるというなら、そこに易々と行くのは宜しくない。
しかし、それで教会を避け続けるのはただの逃げでしかないのだ。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
無意味な危険は侵さない。だがこれは、十分に価値のある危険なのだ。
俺はシスター師匠に連れられて昨日と同じ道を歩く。
しかし、昨日に比べてやけに人が多い。
「おっと」
あやうく人にぶつかりそうになった。なかなかに鬱陶しいものだ。
くそ、これが夜間なら、人混みの中をステップを刻んで抜き去ることも、むしろ当たった奴を悉く弾き飛ばすことも出来るのに。
「休日だからか、人が多いようだね」
しかしシスター師匠はするすると人混みを抜けていく。
やはり魔動具によって身体能力が高まっているからか。
そう思っていると、シスター師匠はこちらを向いて、左手を差し出してきた。
「ほら、これだけ人が多いとはぐれそうだろう? 私の手を握っていなよ」
「ん、ああ」
頷きながら、俺は彼女の左手を右手で取った。
……む? いや、手をつなぐ必要は無かったんじゃないか?
というか道は知っているから、はぐれても問題はない。
しかし、ここで手を離すというのも不自然だろう。それに、彼女の手の柔らかさが伝わってくる。
うん。悪くない。
取りあえず現状維持を選択したところで、ふと視線が一つの物陰にいった。
人混みで気づかなかったが、その物陰にはアリーヤがいたのだ。
そういえば、昨日シスター師匠とアリーヤが言い合った後で俺が連行されてから、今まで一度も会っていない。
空がしらけ始めてから宿に帰ったが、アリーヤは居なかったのだ。どうやら早朝に咲くある薬草の採取依頼を受けていたらしい。
色々とアリーヤに確認したいことがあったのだが、出来ずじまいだった。ちょうど会ったところだし、確認しておこうか。
シスター師匠がいるから、それなりに限定した内容になってしまうが。
右手はシスター師匠とつないでしまっているため、左手を上げてアリーヤを呼ぶことにする。
しかし俺が手を上げようとすると、アリーヤはすぐに物陰に隠れてしまった。
……なんなんだ?
「キリ? どうしたんだい?」
「……いや、何でもない」
不思議そうに聞いてくる彼女に、俺は首を振って答えた。
まあ、隠れるようなら、無闇に話すべきでもないだろう。
その後は特に何事もなく、シスター師匠と俺は教会の礼拝堂についた。
やはり休日だからか昨日よりも人が多い。しかし、それでも礼拝堂は静寂そのものだ。
また探られる危険性があるので、拒絶の意志を常に持っておく。
さっきから俺につながろうとする力があるが、たどり着く前に防げているようだ。
昨日よりも繋がろうとする力が強い。これは完全にあちら側に関知されているな。
とりあえず礼拝堂の奥にある女神像を鑑定してみることにする。
《探知》では神が何をやったかを感知することは出来なかったが、違う世界の力である「鑑定」ならばどうだろう。
光の女神像(リーン聖国製)
品質 C+ 値段 240000デル
光の女神を想像で象った彫刻像。リーン聖国が主導で制作している。
これは特に怪しいところがないのか、あるいは「鑑定」ですら神の力に及ばないのか。
とにかくこの礼拝堂の中を鑑定しまくろう。
目をつぶって祈りを形だけ捧げている間に、「千里眼」と「鑑定」を併用し、礼拝堂の中にある女神像、絵、台座などを片っ端から鑑定する。
そして、見つけた。
聖光の石(リーン聖国神樹産)
品質 SS 値段 ???デル
神樹の根元に出来る石。教会にはこれを台座に置くことが義務化されている。女神の力の媒介装置となる。
女神の力の媒介装置。そして辺境の一教会に見合わぬ品質。値段が表示されないこと。全てにおいて怪しい。
なにより、《探知》で探ってもただの石としか分からない。
ほぼ決定でいいだろう。この世界の女神は、あの聖光の石が置かれている教会で、信者を探っている。
少なくとも教会という場で何かをしていることは間違いない。
本当はあの石をもう少し調べたいところだが、周りに人が多すぎる。
まあ、あの石の存在を知れたってだけで良しとしますか。
「祈りは終わったかい? 昨日もだけど、随分と熱心にお祈りするんだね」
昨日と同じく、シスター師匠が小声で聞いてくる。
俺は礼拝堂の外へ先に出ようとしながら、小声で返答した。
「というか、この静かな空気が好きなんだ」
「きっかけはなんでもいいさ」
いや、まあ教会でこそこそと調べものしたり小細工するような連中を信じろって言ったって、土台無理な話だが。
常時開かれている礼拝堂と廊下を分ける扉をくぐって、礼拝堂の外に出る。
「あ」
ふと、シスター師匠が声を漏らした。
彼女の視線の先を見てみると、神官っぽい男が歩いていた。
横にはお付きのようなシスターがいる。
「誰?」
「神官騎士第四隊長の、レイブンさんだよ。私達神官騎士の間では有名人なんだ」
シスター師匠の声が少し興奮の色を帯びている。有名人に会ったときのファンのそれだ。
しかし、イケメンかと言われるとそうでもない。というかそもそも、中年だと一目でわかるくらいには年をとっている。
髭面で、威厳は凄くあるんだがな。真面目で堅そうな人物だ。
「有名人ってのは?」
「十年前、このレギンで
シスター師匠が言うには、レギンというのは女性神官騎士の試練の場らしい。
他の街である程度訓練された神官騎士は、このレギンでレイブンの指導の元、強化合宿のようなものを行うそうだ。脱落者は多く、ほんの僅かな女性が一人前の神官騎士となり、そしてさらに極一握りの選ばれた者が、レギンの神官騎士となってレイブンの下で働けるとか。
なんか、よくわからん世界だな。
「男性の神官騎士ってのはいないのか?」
「女性よりも多くいるよ。その人達は別の場所で、より過酷な訓練をうけるんだ」
男女で訓練する場所が変わるのは分かるが、街まで違うものなのか?
「そうすると、あんたは極一握りの選ばれた人間ってことか?」
「いいや? 私はつい最近ここに来たばかりさ。強化合宿に参加するためにね」
強化合宿は10日後から始まるらしい。
故に、それまではそこそこ暇なのだ。その間に俺を鍛えようと思ったとか。
俺は暇つぶしの玩具か何かか。
しばらくそう話していると、そのレイブンとかいう神官がシスター師匠に気づき、手招きした。
「あれ、呼ばれている。……ごめん、ちょっと長く話すかもしれないから、先にギルドに戻ってくれるかい?」
そう言ってから、シスター師匠は急いで彼の下に行く。
既に面識はあるようだな。
さて、変える前にあのレイブンとやらを鑑定してみますか。まだ俺に礼拝堂で探りを入れていたのが神官だという可能性も、微粒子レベルで存在しているのだ。
ついでにシスター師匠も鑑定しましょう。
ファナティーク・ラセホス
人族 人間
HP 72/72
MP 563/563
STR 102
VIT 79
DEX 467
AGI 93
INT 326
加護
《神託(小)》
称号
リーン聖国神官騎士 篤信家
シスター師匠のステータス自体はアリーヤよりもかなり下だな。戦闘もだいたい魔動具頼みらしいし。
魔動具がステータスに反映されない以上、人間を鑑定したときのステータスはあまり当てにならないな。
神託ってのは、神官にはよくある加護だ。(小)っていうのは、力が弱いと言うことだろうか。
この神託を通じて神がなんかしてきたりしたら困るな。まあ彼女といても探られる感覚はないし、(小)だからあまり心配いらないかもしれないが。
レイブン・ヴィージン
人族 人間
HP 173/173
MP 926/926
STR 296
VIT 241
DEX 650
AGI 103
INT 755
加護
《神託(中)》
称号
リーン聖国神官騎士第四隊長 レギンの英雄 処女食い
おい! なんかヤバい称号があるんだが!?
ステータスに関しては、まあ人間にしては強い方だなってぐらいだ。
それよりも称号である。処女食いってあんた……。
いや、一般人ならさして問題ないのだが、処女であることが条件な女性神官騎士の隊長だという立場を考えると、どう考えてもヤバいだろう。
確かに横の神官騎士であるはずの女性からは、処女の匂いが感じられない。
──「透視」!
おい! なんか腹に居るぞ! 妊娠してんじゃねえか。
なんか教会がどんどんキナ臭く……いやイカ臭くなってきた気がするんだが?
真面目で堅そうな雰囲気だしといて、随分とやっているじゃないか、あの英雄!
シスター師匠はそのままどこかに連れて行かれた。ある扉の前で、魔動具の鎧を外して預けている。
まさかそのまま食われるんじゃないか? そんな事を考えている間に、彼女の姿は見えなくなった。
……千里眼で観察するのもありだが、やめておこう。他人の情事を覗くとか、趣味じゃないしな。
とりあえず、武運を祈るぞシスター師匠!
「あ、おっさんいた」
シスター師匠の別れに涙した後(嘘)、言われたとおりにギルドに戻ってきた。
もしかしたら何時間と待つことになるかもな。まあそれで訓練がつぶれるなら、良しとするか。
「ん? またサボったのか?」
「酷いじゃないか。なんかあの人は用事があるらしくてな」
用事がなんなのかは言わない。
またいつも通りにおっさんの向かいに座る。
俺とおっさんの間に会話はない。別段話すことがない限り、俺達は黙って酒を呑み続けるのだ。
頼んだ酒が運ばれ、俺は再びチビチビと飲む。
味が悪い、ただ強いだけの酒なのだが、慣れてくるとこれもこれで良いと思うようになってきた。
おっさんも強い酒を頼んでいるが、俺ほどじゃない。というか俺が飲んでいるのは酒じゃない。多分毒の領域だ。飲むだけでスキルアップするんだからな。
ガヤガヤと騒がしい酒場の中で、おっさんと俺の周りの空間だけが、ぽっかりと静かだ。
外のざわめきが、対岸の火事のように他人事に思え、同時に周りの空間だけが酒場と隔絶しているような錯覚に陥る。
これもまた、悪くない。
最初の頃はすこし慣れなかったが、慣れてみると心地いいものだ。
ふと、ギルドの扉が鈴を鳴らしながら開く。
そちらに視線を向けてみると、銀髪で長身の女性が入ってきた。
ギルドの酒場は静寂に包まれた。
彼女がレギンでは見ない姿だから、というのもある。しかし何よりの静寂の理由は、その容姿にあるだろう。
その長く美しい銀髪は、太陽光をうけて煌めく。垂れ目がちな目の瞳は、花のように黄色い。肌は白くなめらかなで、顔立ちは鼻筋が綺麗な美人顔である。
はちきれんばかりの巨乳を覆っているのは薄い布の服で、大人の色香がにじみ出ていた。
スカートのスリットから、艶めかしい細く長い足がチラリと見える。
つまり、非常に美人と言うことだ。
しかし、やはり余所者というのが大きいのか、冒険者達はその美貌に目を奪われるという事はなく、むしろ少し距離をとるような反応をした。
そんな冒険者には眼もくれず、かの銀髪の女性は冒険者ギルドの中を見回す。
そして俺の姿をその眼に捉えると、俺をジロジロと見つめ始めた。
なんやねん。恥ずいやろ。
その眼から逃げるように、俺はそっぽを向いて再び酒を飲み始める。
しかし銀髪の女性は、俺に駆け寄ってくる。こんな言葉を口に出しながら。
「ダーリン!」
……ん? 聞き間違いかな?
俺はいつから彼女持ちになったというのだろうか。
俺の困惑を余所に、彼女は飛びついて、俺の体を抱きしめた。
ちょうどその豊満な胸に、顔が包まれる形となった。
柔らかい感触は良いものだが、正直その興奮より困惑が勝っている。
呼吸も苦しくなってきたので、彼女の体を強引に引っ剥がすことにする。
「おい離れろ。誰だおまえ」
「もう、水臭いんだから。昨晩も逢瀬した仲でしょうに!」
昨晩? こいつは何を言っているんだろうか。誰かと勘違いしているんじゃなかろうか。
大体昨晩は、俺は女になんて………………いや、まさか。
──鑑定
フルス
亜人族 エルフ(精霊憑き)
HP 65/65
MP 7012/7048
STR 57
VIT 42
DEX 2364
AGI 56
INT 2846
加護
《精霊友和》
称号
精霊の巫女
や、やはり昨日のエルフだ。
昨晩突然精霊を使って俺に話しかけてきた女だ。
エルフの特徴である長い耳は見当たらない。魔動具か何かで隠したのだろうか。
「なぜここに?」
「あなたに会いに来たのよ。また会える日を楽しみにしてる、って言ったでしょ?」
そうだね。それでもさすがに翌日のこととは思いもしなかったよ。
しかし、この人死ににきたのか? エルフが人間の街に入ってくるなんて自殺行為だし、俺の情報をそこそこ持っている以上、俺としても殺してしまった方が都合がいい。INTも高いから旨い獲物となるだろう。
一応状況をうっすら理解できた俺に反して、周りはざわついている。
一昨日からどうも俺は注目を集めすぎている気がする。まあ一昨日のは完全に自業自得な訳だが。
さて、収拾つかない状況をどうしようかと言うところで、彼女は少し俺から距離をとって、言った。
「今日は顔を合わせに来ただけよ。あなたも目立ちすぎるのは好きじゃないみたいだし」
それなら最初から目立つ行動をしないでもらいたい。
嫌われる方向で目立つなら大歓迎だが、こういう目立ち方はよろしくない。
「大丈夫。他の男なんかに引っかかったりしないから。極力人目は避けておくわ」
さあ一体何が大丈夫だって言うのか。まるで俺が束縛癖のあるしつこい男みたいじゃないか。
……いやもしかして、俺以外の人間とは関わらない、と言いたいのか?
俺がもしもこいつを殺したとしてその死体を隠しても、彼女が突如居なくなったとすれば、まず怪しいのは俺だ。
「故郷の人達にも挨拶しておいたから、心配しないでね。定期的に手紙のやり取りもしているから」
挨拶っていうのが、俺の存在まで知らせているとしたら? 手紙のやり取りが途絶えたとき、まず怪しまれるのはこの場合も俺だろう。
こいつを殺した後で、実はこいつエルフでしたって証明しても、人間ではなくエルフが俺を怪しむだろう。
どちらにせよ、俺は誰かから怪しまれる、あるいは犯人だと確定される。
そんな危うい殺人は犯したくない。面倒なことになりかねない。
それを見越して、ちゃんと自分が殺されないように作戦を練ってから、俺に接触してきたという事だ。なんと用意周到な。
「ならさっさとどっか行け」
「ええ。また会いましょう」
マジで会いに来るだろうな。しかも、次は俺の泊まっている宿に直接来そうな予感さえする。
クソエルフは周りのあらゆる視線を気にすることなく、ギルドから出て行った。
「誰だったんだ?」
さして興味なさげに、おっさんが俺に聞いてくる。
ちなみに、先ほどのエルフは終始このおっさんの傍には近寄ろうとしなかった。初対面のエルフにも嫌われるおっさんは流石です。
「あんま詮索すんなよ」
「元カノとかか?」
「……まあ、そんな所だ」
全然違うけども。
というかこの世界にも元カノなんて言い方があるんだな。……この思考は少し現実逃避か。
考えてみると、昨日から教会の繋がりといい、処女好きの英雄様といい、精霊魔法といいエルフといい、色々と驚かされてばかりである。
すこし油断しすぎているのだろうか。片っ端から人物を「鑑定」していれば、これほど驚くことも無かったかも知れない。……そうでもない気がしてきたが、細かく鑑定していくことは悪いことではないはずだ。
この世界に来た当初はそうやっていたんだが、文字酔い数字酔いしそうで止めたんだよな。それからは気が向いた時か必要な時に鑑定するようにしていた。
だが、これからは文字酔いをしないよう、慣れていく必要があるかもしれない。外面だけでは、その人物について分からないことが多いのだから。
そう思いながら、目の前のおっさんをチラリと見る。
このおっさんを鑑定したことは無かった。戦闘能力はありそうだな、と思っているぐらいだ。
だが、この冒険者ギルドに居る人間はおろか、初対面のシスター師匠や先程のエルフにまで遠巻きにされるというのは、少々異常だと思う。
鑑定してみよう。
しかし、心の準備が必要だ。
フラグクラッシャーの名に恥じぬリアクションをとるべきである。
昨日からの流れだと、おっさんは実はロリコンでしたとか、死んだと思われていた剣の達人とか、ドワーフとか、呪われている勇者とか、あるいはこのレギンの領主だとか、このギルドのギルドマスターとか、どこかの国王だったりする可能性さえもある。
正体は、全く証拠のないものまで、予測しておこう。
絶対に俺はこのおっさんの鑑定内容にはつっこまない。絶対にだ。
絶対につっこんでやるもんか。『あ、やっぱりね』ってリアクションを内心で取るんだ。
心の準備は出来た。さあいくぞ。
──鑑定!!
イグノア
魔族(?) キマイラホムンクルス(魔人16.66% 竜人16.66% 獣人16.66% エルフ16.66% ドワーフ16.66%人間16.66%)
HP 1200000/1200000
MP 7200000/7200000
STR 50000
VIT 50000
DEX 50000
AGI 50000
INT 50000
加護
《魔王の格》《六柱の神罰》
称号
今代魔王 先々代魔王 最凶の魔王 絶望の権化 暴君 天災級脅威 破壊者 殺戮者 殲滅者 絶対者 魔王の風格 残虐の極 サラリーマン 転生者 神罰を下されし者 嫌われ者
………………既に五、六ヶ所ツッコミたい。
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