能力を把握したい第一話

 龍斗の部屋で一悶着あったあと、俺は用意された自室のベッドで寝ころんでいた。

 たしかステータスは、念じればでたはずだ。


(ステータス)







高富士たかふじ 祈理いのり

魔族 吸血鬼(男爵級)

Lv.1

HP 815/815

MP 8067/8067

STR 956

VIT 856

DEX 935

AGI 1056

INT 2556


固有スキル

《成長度向上》《獲得経験値5倍》《必要経験値半減》《視の魔眼》《陣の魔眼》《太陽神の嫌悪》《吸血》《男爵級権限》《スキル強奪》《闇魔法・真》《武器錬成》《探知》《レベルアップ》《スキル習得》


一般スキル

なし


称号

魂強者 巻き込まれた者





 ん?能力は軒並みあがってるぞ?

 ていうか殆ど十倍。MPに至っては80倍くらいに跳ね上がっている。

 それなのに、何故体力測定の結果が芳しくなかったんだ?


 俺はベッドから体を起こし、そのベッドを持ち上げてみる。

 軽々と持ち上がった。

 スクワットもできる。

 片手で持てる。


 となると、何かしらの原因があるはずだ。


 ステータスを眺めていると、気になる項目があった。

 確か右目で見ると、詳細が分かるんだったな。




《太陽神の嫌悪》


 神に背する夜の種族。

 日中のステータスが十分の一になる。スキルの使用制限。




 これだ。

 確かに体力測定の時は昼間だった。

 今は夕方だが、もう日が沈んでいる。

 日光に弱い吸血鬼ならではのデメリットだな……


 ああ、そうか、俺は吸血鬼だった。理解したつもりでいたが、どうやら分かっていなかったらしい。

 吸血鬼といえば、十字架に弱く、ニンニクを嫌い、日光に当たると灰となり、銀の武器で殺される、人の血を吸う存在だ。

 体力測定のとき頭痛がしたのは、日光に当たったから。

 飯をまずく感じたのは、ニンニクが使われていたから。

 思い返せば、珠希や葵を見る目も、うなじや皮膚の下に流れる血に惹かれていたかも知れない。


 オッドアイといい吸血鬼といい、どうも自分のこととなると見落としがちになるな。

 なまじ探知の能力で外に注意を向けていたから、内を意識していなかった。

 人間は、内か外かのどちらかにしか意識を向けられない。

 まずは彼を知る前に己を知らねば。


 それなら、いったんスキルを全部詳しく見てみよう。




《成長度向上》


 能力、レベル、技能の全てにおいて、上向きの補正が入る。また、種族の限界を突破する。



《獲得経験値5倍》


 生き物を殺したときの経験値が、本来手に入るはずの量の五倍になる。また、スキル習得のための習練においても、入る経験値が五倍となる。



《必要経験値半減》


 レベルアップ、スキル習得に必要な経験値が半分になる。



《視の魔眼》


 視ることを極めた魔眼。

 絶対動体視力(どれほど速く動くものでも、精密に捉えることができる。)

 絶対目測(目で見るだけで大きさの測量を行える。)

 遠見(遠くの物を詳しく見れる)

 顕微(小さな物を詳しく見れる)

 闇目(どれほど暗くても見える)

 鑑定(人間のステータスを表示する。物の詳細を表示する)

 千里眼(第三者視点で遥か遠くの物も俯瞰できる)

 幻滅(幻覚を消滅する)

 透視(物理的に隔てられた先を透かして視ることができる)

 映像記憶(見た物を映像として記憶する)

 外線視(不可視光線を見ることができる)



《陣の魔眼》


 目で見た魔法陣を瞳にうつし、任意のタイミングで視点に魔法陣を発動できる。この場合消費MPは十分の一、無詠唱で実行できる。ストック数は一つ。別の魔法陣を見てうつすことで上書き可能。



《吸血》


 生物の血を吸うことでHP、MPを回復、また各ステータスに上方補正。その生物の致死量以上の血を吸うと対象が喰屍鬼グール化する。人間の血を致死量吸い、自分の血を流し込むと対象が処女或いは童貞の場合、吸血鬼化(下僕状態)する。処女、童貞で無かった場合は喰屍鬼グールとなる。生物を殺した後、自分の血で染めると眷族化する。その生物の血を全て吸い尽くすことで、対象の記憶を得る。



《男爵級権限》


 吸血鬼の弱点を軟化。また男爵級以下のアンデッドを下僕にできる。



《スキル強奪》


 対象の血を吸い尽くすことで、対象のスキルを奪う。スキルを持たない場合は、対象の秀でた能力をスキルとして変換し、奪う。一般スキル、固有スキルは問わない。



《闇魔法・真》


 闇魔法の極地。闇魔法を最大効率、無詠唱、最大自由度で使用可能。また、『シーナ』の闇魔法に関する知識を引用できる。MPを大幅に向上。



《武器錬成》


 素材から、魔力を消費して武器を作り出す。形状は自分のイメージで決定し、完成度に補正が入る。自分の知識に応じて能力付与が可能(この場合消費魔力が加算される)。



《探知》


 自分の認識できる範囲で、生き物の気配を察知できる。また、命の危険が迫ると警鐘が鳴る。気配察知、魔力察知、視力、聴力、嗅覚、第六感の大幅補正。



《レベルアップ》


 生き物を殺すと経験値が手に入り、その経験値に応じてレベルが上がる。



《スキル習得》


 一定行動により熟練値がたまり、その熟練値に応じてスキルを習得できる。







 《成長度向上》と《獲得経験値五倍》、《必要経験値半減》はスキルにも適用されるらしい。

 そして《視の魔眼》が便利すぎるな。

 《吸血》はややこしいな。とりあえず血を吸いたいときは、致死量吸わなければアンデッドにならないってことかな?

 《スキル強奪》は少し内容が変わっているな。もともと触れるだけで良かったのが、吸血する事によって発動するようになっている。

 血を飲み干すと記憶が手に入るようだから、それをスキル強奪に利用したのかもな。

 とにかく、スキルが無い世界でもスキル強奪できるのは良いことだ。

 《武器錬成》は素材が必要なのか。

 MPがやたらと高いのは、《闇魔法・真》のせいみたいだ。


 しかし、未だにMPが高く、魔力操作もできるはずなのに魔力測定で結果が出なかったのは謎だ。


 《レベルアップ》と《スキル習得》は後付け能力っぽいな。

 きっとこのレベルアップとスキルがない世界でも使えるように、女神様が調整してくれたのだろう。


 ギフトとしてもらった能力はすべて固有スキルという形にされているみたいだ。

 うん。そっちの方がわかりやすくて良い。





 さて、夜のうちに能力をいろいろ試してみたいんだが、この部屋で実験できる物は何だろう。

 成長系は試しようが無いとして、《闇魔法・真》?危険か。自由に操れるとあるが、初めてで慣れていないから暴発するかも知れない。

 《吸血》も論外。魔法陣の知識もないから《陣の魔眼》も無理だな。

 《探知》は散々使っているし……

 となるとまずは《視の魔眼》かな。


 一つ一つ試していこう。


 絶対動体視力(どれほど速く動くものでも、精密に捉えることができる。)


 十倍に上がったステータスで、手を最速でブンブン振ってみる。

 おお、見える見える。ぼやけることもなく、ワイシャツのシワの一つ一つまでクッキリだ。



 絶対目測(目で見るだけで大きさの測量を行える。)


 部屋に備えられているタンスを見てみる。192cmかな?

 あ、だめだこれ定規がないから正確さがわからない。しかもこの世界だと単位が違うだろうし。

 まあ178cmの俺の身長と比べてみると、大体そんな感じがする。ってそれくらいなら誰でも出来るだろ。



 遠見(遠くの物を詳しく見れる)


 窓から景色を見てみる。夜だから暗いな。


 闇目(どれほど暗くても見える)


 ついでに闇目も試してみる。眼下に広がるのは王都。王城から離れるにつれ家は小さくなっていく。やはり階級で立地が変わるのだろうな。縁まで行くと、庶民の家のようだ。所々壊れていたり、寂れている。衛生状況も悪そうだ。まあまだ水洗トイレでは無いようだからな。

 王都は盆地に有るらしい。城壁の先に山が見える。集中すると、その木の葉の一枚一枚まで見れる。すげーな遠見アンド闇目。



 顕微(小さな物を詳しく見れる)


 布団を見てみる。繊維の一本一本までくっきりと。

 これはハウスダスト的なあれかな?これはノミの死骸か何かか?

 まるで顕微鏡のように見れるな。さすがに原子レベルで見ることは叶わなかったが。



 鑑定(人間のステータスを表示する。物の詳細を表示する)


 さっきのステータスを詳しく見た能力はこれだな。

 ベッドの布団を見てみると、




最高級羽毛布団。(ライジングサン王国製)

品質 B+  値段 125000デル

ケッチョーの雛の羽毛が使われている。非常にふわふわで、殺菌効果がある。王城の中でしかお目にかかれない。 




 と出てきた。これ雛の羽毛なのかよ。ケッチョーってなんの鳥だ?魔物か?あとデルってなんだ?この国の金の単位だろうか。

 もう少し詳しく鑑定したいところだが、ステータスと違って視界に現れたわけではなく、脳内に情報が浮かんだ感覚だ。視界にあるわけではないので、鑑定はできないようだ。



 千里眼(第三者視点で遥か遠くの物も俯瞰できる)


 これは使い方がわからない。とりあえず、目を閉じて集中してみる。するとブワッと視界が広がり、上昇した。そのまま視界を移動できる。ドローンを飛ばしている感覚だ。

 視点は壁を通り抜けることは出来ないようで、窓から外にでてみる。後ろを振り向けば立派な王城。さっき窓から眺めた王都が眼下に広がっている。

 そのまま山まで来れた。見たこともない動物がいる。これが魔物だろうか。どこまで行けるか試したいが、キリが無さそうなので止めておく。

 ほんとに千里(4000km)まで行けたらどうするんだ。ちなみに地球の一周は約40000kmな。



 幻滅(幻覚を消滅する)


 試しようが無い。アル中が見る幻覚も対象内なのだろうか。



 透視(物理的に隔てられた先を透かして視ることができる)


 ドアを注視してみると、その先の廊下が透けて見えた。待機中のメイドさんも見える。

 ちなみに日本のメイドカフェにいるようなミニスカメイドではなく、ちゃんとしたメイドな。 日本のアレは別物。メイドではない。



 映像記憶(見た物を映像として記憶する)


 目を閉じて今日の出来事を思い出してみる。おお、まるで録画したビデオを見るように鮮明に思い出せる。珠希の叫んだ瞬間の大きく開いた口から、歯の数を数えられそうだ。


 「俺君の歯の数まで知ってるんだよ」ってか?ストーカーだよこのやろう。



 外線視(不可視光線を見ることができる)


 すごい。サーモグラフィーできる。赤外線と紫外線も見ることができるようだ。こう、表現しがたい色なんだが。

 さすがに電子線は見れないか。電子顕微鏡よろしく、原子レベルで見ることも叶わないようだ。





 これらは組み合わせることも出来るようだ。

 つまり、





 ドアの先を透視!

 メイドさん発見!

 鑑定!ナーラさんという名前が判明!

 絶対目測!身長161cm スリーサイズ上から79、61、80!

 更に透視!下着は黒!


 これ以上は見ません! 完全に変態になってしまう!

 俺ルールとして、透視で見るのは下着までとしよう。歯止めが 効かなくなるだろうしな。何より服の上から視姦するというのも楽しいのだ。

 ていうかメイドさん、おとなしそうな顔しておいて下着は黒かよ。良い趣味してるな。







 後は、《武器錬成》をやってみるか。

 机の上にあった蝋燭立てから蝋燭を抜く。


 鑑定してみると、銀製らしい。やべえ、吸血鬼の天敵じゃねえか。


 とりあえず、ナイフでも作ってみるか。知識は無いだろうから能力付与は無しで。

 《武器錬成》!

 体から何かが抜ける感覚がある。これが魔力かな?

 持っていた蝋燭立ての形が歪み、次の瞬間ナイフの形になっていた。

 装飾も無い、飾りっけの無いナイフだが、切れ味は鋭そうだ。

 鑑定してみるか。




銀のダガーナイフ(作者 高富士 祈里)

品質 B+  値段 15000デル

純銀製のナイフ。完成度は高いが、銀で出来ているため実用性がない。装飾もなく、飾りとしても役に立たない。




 そりゃそうでしょうね。銀は柔らかい金属だから、装飾品でもない限り価値はない。

 でも品質はさっきの最高級羽毛布団と同じだ。《武器錬成》で作る武器は相当完成度が高いらしい。


 消費MPは50くらい。常人だと二回しか使えないようだ。

 刃に触れてみると、すぐに皮膚が切れた。切れ味はかなり良いらしい。


 じゃあ、蝋燭立てに戻しますか。

 《武器錬成》!



 ………………アレ?



 《武器錬成》!




 ………………



 《武器錬成》!《武器錬成》!《武器錬成》!



 …………………





 なんだ?MPも足りてるし。

 一回錬成した武器は、もう一度武器錬成出来ないのだろうか…。



 あ!

 そうか、蝋燭立ては武器じゃない!


 《武器錬成》って武器しか作れないのか!

 そりゃそうだよな。じゃないと「武器」って名前にならないだろうし。

 え?じゃあ何?蝋燭立てに戻せないの?

 俺はこのナイフをどうすればいいんだよ。監視が付いてる中こんな武器隠して持っていたら目を付けられるじゃないか!



 ……………



 ………閃いた!


 《武器錬成》!


 うむ。俺の手の中には、元の蝋燭立てと寸分の狂いもない蝋燭立てが握られている。

 鑑定してみよう。





蝋燭立ての仕込みナイフ(作者 高富士 祈里)

品質 A  値段 50000デル

一見蝋燭立てにしか見えないが、内部に特殊なギミックが仕込まれており、持ち手のボタンを押すと、蝋燭を差す針が飛び出てナイフになる。





 すまない。メイドさん。

 部屋の蝋燭立てが一つだけナイフになってます。


 バレない。バレないよね!?


 ていうかさっきのダガーナイフよりも品質も値段も良いんだが……

 納得行かない。













「リュウト シンザキ!」「はい!」「タマキ カラサワ」「はい!」「アオイ イソガイ」「はい」「イノリ タカフジ」「うっす」


「よし、全員いるな?私が君たちの体術訓練を指導する、ライジングサン王国騎士団長、イージアナ・イェーツだ。イージアナでもイージーでも団長でも、好きに呼ぶと良い」


 翌日、俺達の体術訓練が始まる。

 龍斗と葵は眠そうだ。寝付けなかったか。

 ま、こんな事態になって、ぐっすりと眠るなんて無理だろうな。

 反対に珠希はすっきりとした表情だ。図太いなお前。

 ちなみに俺も寝不足である。いや、緊張してとかではなく、種族的に。

 さすが夜行性。夜は全く眠くなくて眠れなかったのに、昼になると一気に眠気がきた。

 今も半目である。しかも訓練場は外にあり、がっつり直射日光を受けている。頭痛い。


 目の前の騎士団長は女性だ。騎士の鎧にスカートをはいていて、ドレスアーマーっぽくなっている。

 長く美しい金髪を後ろで一つに束ねている。眼光は鋭いが、笑みはとても美しい。胸は鎧の上からだから分からないが、普通くらいのサイズだ。素晴らしいね。

 身長は171cmだって。女性にしてはかなりでかい。珠希や葵と頭一つぶんの差があるし、172cmの龍斗とあまり変わらない。

ちなみに絶対目測の力である。

 肉体労働の騎士であるはずなのに、綺麗な白い肌と柔らかそうな手はどう言うことだろう。魔法の力だろうか。


 しかし、一国の騎士団長が女性ってのはどういうことだ?

 ファンタジーならあり得るかも知れないが。これも財政危機の影響だろうか。

 それともイメージ戦略か?


「では訓練をはじめる。女子二人は魔法に才能があるようだが、体術も最低限身につけてもらうぞ?」

「「はい」」

「本来ならば筋力トレーニングから入るのだが、その三人はその必要は無さそうだ」


 人外ステータスだからな。


「そのため、リュウト、タマキ、アオイは一通りの初級体術を学んでもらい、その後自分に合った物を選択する形をとる。『戦乙女隊』から実力者を連れてきたから、マンツーマンで指導を受けてくれ」

「「「はい!」」」


 戦乙女隊なんてのもいるのか。女騎士軍団かな?


「そしてイノリはまず筋力トレーニングからはじめる。少なくとも平均的な兵士の実力まではつけてもらうぞ」

「うっす」


 筋トレか………


 眠い。逃げよう。


「私が直々に監視してやる。しっかり励め!」


 キシダンチョウ カラハ ニゲラレナイ!










「コラ!イノリ!寝ているんじゃない!!」


 ……はっ!

 いかんいかん。また寝てしまったようだ。


「また0からやり直しだ。しっかり顎を地面につけるんだぞ?腕立てたったの100回だ!さっさと終わらせろ!」


 いやぁ、寝不足、頭痛、弱体化の三拍子でやばいんですよ。


「たったの30回しか出来ないとは、お前はアオイやタマキ以下だな」


 人外ステータスと比べないで。


 ちなみに勇者三人は両手剣術を習っている。もう素振りをマスターし、実践的な指導に入っているようだ。

 加護はなくとも成長補正があったのか、もともと才能がよかったのか。


 三人を鑑定してみると、ステータスが表示された。





新崎 龍斗

人族 異世界人

ライジングサン王国勇者

HP 1023/1024

MP 1056/1056

STR 1523

VIT 1249

DEX 1115

AGI 1098

INT 1078


加護

《限界突破》


称号

なし



唐沢 珠希

人族 異世界人

ライジングサン王国勇者

HP 895/896

MP 8962/8962

STR 762

VIT 853

DEX 1508

AGI 756

INT 3568


加護

《魔力親和》


称号

なし



磯谷 葵

人族 異世界人

ライジングサン王国勇者

HP 562/563

MP 6082/6082

STR 563

VIT 1432

DEX 874

AGI 593

INT 2430


加護

《結界術》


称号

なし





 ぶっちゃけ俺の夜のステータスと変わり無い。

 むしろ俺の方が負けている気がする。

 まあ俺はレベル上がるし?別に悔しくないし。


「よそ見をするな!」


 ついに団長さんに叩かれた。

 ひどい。母さんにも叩かれたこと無いのに!





イージアナ・イーツェ

人族 人間(混血 1.5%エルフ)

ライジングサン王国騎士団長

HP 512/512

MP 4562/4562

STR 765

VIT 659

DEX 10032

AGI 1523

INT 9637


加護

無し


称号

英雄 混血者 裏切者 武を極めし者




 団長さんも充分化け物ステータスだな。

 ていうか僅かだけどエルフの血が混ざっているのか。

 MP、DEX、INTの高さがすごいな。

 レベルが無い世界だと、器用さや魔法の使い方が伸びるのかもしれない。

 魔力は増やす方法があるのだろうか。それともエルフの混血だからだろうか。

 ていうか称号……


「ぼさっとするな!」


 痛っ。


「リュウト、タマキ、アオイ!」

「「「はい!」」」


 突然団長さんが勇者三人を呼びかける。

 お、俺の筋トレは終わりですか?


「イノリは続けていろ」

「………うっす」

「さて、剣術に関しては初級者、いや、中級者程度の力をつけたはずだ。そこで、今日の訓練の締めとして、私と1対1で戦ってもらう」

「団長と、ですか」

「ああ。言っておくが、筋力では私の方が下だぞ?強化魔法も使わない。私程度に負けたら恥と思え」


 そりゃ無理でしょう。

 チュートリアルの負けイベント臭がプンプンする。

 龍斗なんて顔青くしてるぞ?


「では、まずはリュウトからだ。好きにかかってくるが良い」

「は、はい」


 団長さんは訓練場の中心で、両手剣を構える。

 素人目に見て素晴らしい。これが武の極地か。

 対して龍斗はガタガタである。緊張しすぎだろ。


「しっかりしろ!訓練用の剣だ!刃は潰してあるから双方重傷は負わない!」

「はい!」


 龍斗はまだ固いが、目を団長さんに向けた。

 真剣な表情をすると、イケメンである。


「はあ!」


 龍斗は上段から剣を振り下ろした。

 力任せにも見えるが、上段振り下ろしの型どおりである。多分。

 ステータスで勝っているなら、小技ではなく力勝負で。良い判断だと思う。


「ふん」


 しかし団長さんはなんなくそれを受け流す。寸分の狂いもない動きだ。

 龍斗も分かっていたように、姿勢を崩さない。

 そのまま習った通りの型で、高ステータスの力をもって攻撃を続けるが、団長さんは最小限の動きでかわし、受け流し続ける。

 涼しい顔だ。

 対して龍斗は……


 ……なにこいつ。笑ってるよ。


「しっ!」


 なんか龍斗の速さが少し速くなった気がする。

 こいつもしかして戦闘狂の素質があるんじゃないか?


「はあっ!!」


 龍斗が渾身の力で上段から剣を……

 あ、フェイントだこれ。

 振り下ろした剣は途中で軌道が変わり、二本目の攻撃が振るわれる。


「むっ!」


 団長さんが初めて大きくよけた。

 力が入っていない剣だったが、高ステータスならそれでも一般人の攻撃にはなる。

 団長さんがニヤリと口元に笑いを浮かべた。


「では今度は私から行くぞ!」


 先程まで常に受けていた団長が攻勢に入る。


「くっ!」


 団長さんの連続攻撃を龍斗はなんとか受け続けるが、団長さんみたいに受け流せてはいない。闇雲に防御しているだけだ。


 次の瞬間、団長さんの剣が龍斗の首筋に当てられた。


「終わりだ」

「うわっ」


 龍斗は今になって首に刃が当てられていたことに気づいたらしい。


「うわ、最後のぜんぜん見えなかった。どうなったの?」

「わからない」


 珠希も葵も見えなかったようだ。


 最後の団長さんの攻撃は、龍斗と同じフェイントだ。

 団長さんの力が入っているように見えた剣が、流れるように軌道が変わり、龍斗の首筋に当てられたのだ。

 しかも龍斗の力任せなものとちがい、団長さんの二撃目は体重がのった、有効な攻撃だった。

 あのまま団長さんが剣をとめていなかったら、龍斗の頭は胴と離れていただろう。

 団長さんは素人目に見てもかなり強い。というか上手い。気の逸らし方とか。

 これなら騎士団長の職に就いているのも妥当だな。先ほどは失礼しました。


 ていうか団長さんもすごいが、《視の魔眼》半端ねえな。

 全ての攻撃がはっきり見えた。団長さんの動きも事細かく。

 これは戦闘において非常に有利ではないだろうか。団長さんが大きくよけた時にもスカートからチラッと下着が見えたしな。白か。


「……参りました…」

「いや、筋はいい。最後の攻撃は意表を突かれた。てっきり力任せにがむしゃらな攻撃をすると思っていたからな。良い意味で期待を裏切られた。」


 力任せな、がむしゃら攻撃は負けフラグでしょう。





 その後、珠希も葵も団長さんにコテンパンにやられ、途中から寝ていた俺は団長さんに叱られ、今日の体術訓練は終了となった。


 昼飯を食べた後は、魔法と座学の時間である。

 先生はあの生意気お姫様らしい。魔法はともかく座学は大丈夫か?ぱっと見中学生か小学生にしか見えなかったんだが。





 また散々感謝しなければならないのか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る