まだ続くのかよプロローグ
『次が最後の召喚みたいだから、溜まりに溜まったチートをうまい具合に纏めちゃうね』
そういって女神様は俺に両手をかざし、目を閉じて何かを唱え始めた。
(うおぉ、睫長い…)
『どうでもいいこと考えてないで』
あ、心読まれてた。
『じゃあ、召喚されたらすぐにステータスを見ることをお勧めするわ。多分ステータスの項目を右目の鑑定能力で見れば、細かいことも分かるから』
至れり尽くせりな心遣い有り難いです。
俺の足元から紫色の光が立ちこめる。
最後くらいは立ち上がった状態で召喚されるかな。
最後の召喚だと思うと、なんだか感傷的になる………事もないな。早くベッドで寝たい。
『じゃ、がんばってね。こんなに長く他人と話すなんて久しぶりだったから、楽しかったわ』
「いや神様ってどんだけ暇なんだよ。ま、俺もこんな美人と話せて楽しかったよ。んじゃな」
『ええ。また会うことがあったら』
正直もうここにくる事態なんて御免だけどな……
そう思いながら、俺は最後の世界に飛び立った。
「ようこそ!勇者様方!」
最近の俺的流行語大賞である。
ふざけてるね全く。
「な、なんだここは!?」
「龍斗?葵?」
「珠希ちゃん!」
む?傍らがうるさい。
横を見てみると、俺と同い年くらいの三人が騒いでいた。
「む?勇者は三人という伝承だが……」
ふむ。
勇者は三人。
俺と一緒に召喚された三人は、お互いが知り合い。
俺は他人。
ふむ。
「最後の最後で巻き込まれ召喚かよ!!!」
叫んだ。
「ということは、こちらの三人が勇者様で、お前さんは巻き込まれただけの一般人だと?」
「そう思います。ほぼ確信を持ってます」
最初に出迎えてくれた、多分国王様と会話。
ちなみに他の三人はまだ茫然としている。
「ふむ。とりあえず、この石版に触れてくれるかの。これは勇者様に贈られた加護を識別するものなのだ」
国王様が石版を持ってくる。
「じゃあ、とりあえず俺から触れてみますね」
「頼む」
石版に触れると、石版がわずかに光り、文字が表示された。
探知
簡潔!!
たった二文字かよ!?
「探知、探知か……」
「加護はあったみたいだが……これは……」
勇者かどうかはこれでは判別できないな。
国王と二人で頭を悩ませている間に、どうやら残る三人が復活したようだ。
「あ、あの、状況を説明してほしいのですが……」
「む、すまん、忘れとった。こやつがやたらと状況にとけ込んでおったからつい、な。詳しい話は、あなたがたを召喚した、ワシの娘、第一王女に聞くがよい」
そういって国王様は後ろを差す。
そこには金髪ツインテールで少し小柄な少女が立っていた。
「ふん!あなたたちが異世界の勇者ね?私が召喚してあげたのよ?感謝なさい!」
ザ・生意気お姫様 キターーーーーーー!
「さあ、はやく私の前に跪きなさい!」
そう言われ、俺たち四人はチミッコお嬢様に跪く。
さっきから動いていないが、結構大目の騎士達が俺たちの周りを囲んでいるのだ。
どっかのラノベの主人公様はここでタンカ切りそうなもんだが、賢くいくなら素直に従った方がいい。
ちなみに姫様はロングなスカートを履いているので、跪いてもスカートの中は見えない。
チッ
第一王女は小柄で幼く、俺のストライクゾーン外だが、将来は美人になることが確信できる。
超絶美少女だ。性格がキツいことが唯一の欠点か。
それもどっかには需要がありそうだが。
「じゃあ、あなた達の状況を教えてあげるわ。感謝なさい!」
何回感謝すればいいんだろう。
「まず、今いるここは私達の王国、ライジングサン王国よ」
テーテーテーテテーー テテテーテテテーテテ テーテー
テーテーテーーテテー テテテーテテテーテテ テーテー
は、歌ってしまった。
いや、国名にキラキラネームって存在するんだな。
「またの名を、日の出ずる国よ」
やめて日本を巻き込まないで。
「この世界には、人間、亜人、魔族がいるわ。そのあたりの話はまた次の機会にするわ。その、魔族は人間の敵で、魔王を頂点に国を作り、私たち人間の領土を侵略しているの」
亜人はどこいったんだろう。
「そこで、人間の国家連盟の宗主、マッカード帝国が各国に呼びかけたの。勇者を召喚するようにとね」
よかった、この世界にはまともな国名が存在するんだな。
「勇者を召喚できるのは、王族である女性のみなの。つまりワタクシの事よ! 感謝なさい!」
はいはい感謝感謝。
「そしてその勇者達を各国で育て上げ、勇者軍を作り、魔王軍に対抗するという寸法よ? どう? 素晴らしいでしょ!」
まさかの「質より数作戦」だったとは。またの名を「下手な鉄砲数打ちゃ当たる作戦」。
「それで、あなたたちが召喚されたというわけ。さあ、ライジングサン王国の代表として恥じない強さになって、魔王を打倒しなさい!」
やめて。その国名聞く度に吹く。
「す、すみません、第一王女様。一つ質問宜しいですか……?」
勇者三人組の一人、男だから、さっき龍斗と呼ばれていた彼が口を開いた。
龍斗の見た目は、ザ・主人公だ。
勉強もできるスポーツマンって感じ。
「いいわ。発言を許します。感謝なさい」
「我々は、元の世界に帰れるのですか?」
再びのテンプレ質問キターーーーーーー
いや、なんか召喚され続けてて忘れてたわその質問。
「無理よ。帰る方法なんて無いわ。むしろあなた達は、誇りあるこのライジングサン王国の勇者となれるのよ?感謝すべきであって、帰る必要など無いのではなくて?」
帰る方法無いのかよ。
ハイゲン王国のサービス精神見習えよ。
ていうか自分勝手すぎるなこのお姫様。
「なっ……」
龍斗がキレそうになったが、後ろの騎士が一斉に抜刀したのを見て口をつぐむ。
賢いぞ。ここでこいつに激昂しても意味はない。
「ま、いまの無礼な態度は私の寛大な心で見逃してあげるわ。感謝なさい」
このお姫様ひたすら感謝を聞かせとけば満足するんだろうか。
それとも新興宗教でも作ろうというのだろうか。
「無いとは思うけど、他に質問は有るかしら?」
「んじゃ、俺からいいですか?」
そう言って、俺から質問する。
「どうぞ。許してあげるわ。感謝なさい」
「はいはい感謝感謝、圧倒的感謝」
俺の不遜な態度に、後ろの騎士がざわつく。
そして横の龍斗が小声で(こいつ、このタイミングでカ○ジのパロネタをっ……!?)って呟いている。
お前、もしや隠れオタだな。
「この世界に、レベルとかステータスってあるんですか?」
「は?何言ってるの?」
「いや、何でもないです」
そう言って引き下がる。
勇者三人組の女子二人は、非常に冷ややかな目で俺を見ている。
そして龍斗は(わかるよその気持ちー)って感じの目で見てる。
なんだこいつ。
そして俺は、姫様の答えに内心ほくそ笑んでいた。
これなら、ある程度は強くなれるかも知れない。
思惑が当たってたらだけど。
「では、諸君等にはまずこの石版に触れてほしい。その後、体力測定、魔力測定をおこなう。これは、三人の勇者が誰なのかを判断するものだが、勇者で無かった者を邪険に扱うことはしないから安心せい」
国王の最後の台詞は俺に向けてだな。
ま、勇者でなくても加護という人外能力を備えているから重要な存在に変わりないんだから、丁重に扱うべきではある。
「じゃぁ、僕がやってみます」
龍斗の加護は『限界突破』だった。
ちなみにこの石版で分かるのは加護の名前だけで、その詳細は分からない。
そのため、ステータスが二倍になるとかいう「火事場の馬鹿力」的なアレか、種族の限界を越えるとかいう「俺は人間をやめるぞ!ジ○ジョ」的なアレかは分からないのだ。
まあこの世界にステータスが無い以上、後者の可能性が高い気もするが。
ついでに、他の二人の女子の加護は『魔力親和』と『結界術』だった。
ちなみに前者が珠希で、後者が葵だ。
つまり、龍斗が剣士、珠希が魔法使い、葵が結界師的なアレになれって事だろう。
参考:俺、探知。
なんだかなぁ、この仲間外れ感。
俺は盗賊になれと。斥候しろと、そう言うことかな?
この後、体力測定、魔力測定を行った結果、龍斗は体力測定で人外の能力を示し、葵、珠希は魔力測定で非凡な、特に珠希は人外な結果を示した。
俺?ズタボロだったよ。
魔力はあるにはあるが、操作の才能がゼロ。成長の見込みなし。
体力はむしろ召喚前の方が高かった気がする。全く力が出ない。
それに体力測定の時やたらと頭痛がした。
なんか吸血鬼になって体力が上がっていると推測したんだが、もしかしたら外れているのかも知れない。
あの殴られた近衛騎士が弱すぎただけなのかもな。何で近衛やってんだアイツ。
そっからは祝宴の席に呼ばれ、さして旨くもない飯を食べつつ(他の三人はやたらと美味しそうだった。味覚大丈夫か。)国王様から励ましの言葉を貰い、第一王女から蔑みの言葉を貰ったりと大変だった。
その後、俺たち四人にはそれぞれ王城の一室が貸し与えられ、侍女も一人ずつ遣わされた。
なんだかんだで待遇いいよな。
他の召喚系主人公みたいに突然やっかい払いされたり、強制転移させられたり、信じていた第一王女に裏切られて身ぐるみ剥がれたり、クラスメートに裏切られて古代迷宮に閉じこめられたりしないだけましだ。
そういや好き好んで出て行った奴もいたな。やたら空文字する人。
まあ、彼らより現時点でいい状況なんだから前向きに考えよう。
彼らは決まって最強になったり成り上がったりするが気にしない。
さて、俺たち四人は今、龍斗の部屋に集まっている。八畳くらいの部屋に、ベッドが一つ、少々の家具って感じだ。
「これからの事を、皆と話し合いたい」
龍斗が切り出した。
「てゆーか、何でこいつまでいるわけ?」
女子の一人……珠希だったか、そいつが俺を指差して言った。
なんだよ、「人を指差してはいけません」って小さい頃母親に習わなかったのか?
そしてそう言うときは、こう返答するといい。
「じゃあ何で人差し指って言うの?」ってな。
これ試験にでるぞ。
「こいつは勇者じゃないんでしょ?戦力にならない奴まで巻き込むのは良くないわ」
一見、傲慢で自分勝手な発言に思えるが、脳内で『この子は勇者じゃなくて、無関係なのよ?戦えない彼の命を、危険にさらす必要なんてないわ。戦うのは、勇者になってしまった私達だけで十分なのよ。』と変換するといい。
そうか、こいつツンデレだったんだな!
珠希は少し茶色がかった髪を後ろで一つに束ねている。
胸は……壁だ。制服のワイシャツに膨らみが見えない。
だが、俺は胸の大きさで善し悪しを決めるような浅はかな人間ではない。
細身だが、華奢というよりは、引き締まっているという感じだ。
健康的な血が巡り、薄く焼けた肌を一層彩っている。
首筋はきれいで、キリリとした、気の強そうな目をしている。
「いや、そんなことはない 『探知』は重要な能力だと、僕は確信している 間違いなく彼は必要な存在だ。むしろ最もこの三人の中で実用的な能力を持っていると思うよ。彼だけを除け者にする必要はない」
まあそうだろうな。
斥候だけではなく、見張り、夜戦、乱戦でも大助かりだ。
「でも、コイツが足引っ張って、私達がかばって全滅なんて、嫌よ私」
かばう前提なのが、良い奴感染み出てるよな。
さすがあの姫様とは違う、真のツンデレ。
「ああ。戦闘力は無いみたいだから、結界師である葵が守ってくれ」
「龍斗君がそういうなら、頑張る」
活発な珠希と対照的に、葵は無口だ。
まあ無口なだけで、表情は豊かだったりと可愛らしい。
そして胸デカい。
ワイシャツが張り裂けんばかりである。
ベストを着ているが、それでは隠せないほどの迫力がある。
白い肌は、その下に通る血液が薄く桃色づかせ、不健康に感じさせない。ワイシャツの襟からチラチラと見えるうなじが白く輝いている。
改めて見るとこの三人、美男美女の塊である。
なんだこいつら、リア充か、勝ち組か。主人公か。
「はあ、あんたは甘いわね」
「いつものこと」
「なんだよ、お前ら」
あー、なんか三人の世界作ってるー。
除け者にされてないはずなのに除け者にされてる感ー。
っと、そういえば聞きたいことがあるんだった。
「すまん。俺が、君たち三人と同じ出身だって言う保証はあるか?」
「へ?」
「だって、どう見ても日本人の高校生じゃない」
女子二人は訳が分からないといった顔をしている。
しかし、龍斗は考え込んでしまったようだ。さすが隠れオタ。その辺のテンプレは拾ってくるね。
「国とかそういうレベルではなく、世界単位で違わないかって事。つまり、パラレルワールドみたいな」
「あ」
「ふーん」
パラレルワールドって考えは、一見信じられない事のようだが、現に異世界に来たのだから信じられなくもない。
何度も召喚されている俺は、よりその考えを当たり前だと感じている。
パッと龍斗が顔を上げた。
「それって、今論ずる必要があるかい?」
「わからん。わからんが、常識や認識が多少ズレている可能性もある。それが重要な局面で露見すると、取り返しの付かないことになるかもしれない」
他人との差違を、人間はなかなかどうして認めがたい物だ。しかしその差違を、異文化の問題、ひいては異世界の問題と一線を引けば、すんなりと受け入れられる事もあるのだ。
「しかし、どんな方法で確かめるんだい?持っている知識をすり合わせるかい?」
「いや、そんな無駄な時間を費やす必要はない。とりあえず、仮でも良いから一緒の世界だという確信がほしいんだ」
しかし、どうすればいいものか。
………そういえば、
「……お前はトマトか」
「俺はポテトだ!」
ガシッ。
突然手をがっちりくみ交わした俺たちを、女子二人は怪訝な顔をしてみていた。
「で、このままこの国にいて良いと思う?」
珠希が質問してくる。
だが、
「なにを言っているんだ。この国は素晴らしいじゃないか」
俺は笑いながら、スマホに文字を打ち込んで、三人に見せる。
「ああ、しっかりと勇者としての責務を果たすべきだ」
そう言いつつ、龍斗が画面を覗き込む。
さすが。こいつはこれだけで察してくれたみたいだ。
『盗み聞きされている。よけいな話はするな』
俺の加護、探知が早速大活躍だ。
この能力はすごい。壁の向こう側まで、人や生物の気配を感じ取れる。
そしてそれを頼りにするなら、この部屋の扉の近くで、一人が聞き耳を立てているのだ。
ちなみに部屋のメイドには全員出払ってもらっている。
「話すべき事はもうないんじゃないか?これからは何か遊んで、親睦を深めるとしよう。丁度トランプを持ってきているから、ウインクキラーでもして遊ぼう」
少し話の流れが強引な気がするが、まあ気にしない。
俺は発言しながら、新しく文字を打ちこむ。
『葵、防音の結界を作れないか?』
ちょっとダメ元だ。
作れなかったら、布団に潜って話し合うしかないが。
葵はやってみる、というように頷き、両手を天井に掲げた。
次の瞬間、探知にピリッとした感覚があった。
「成功した。でも、慣れてないから、余り長い時間は保てない」
「いや、十分だよ葵。ありがとう」
「えへへ」
龍斗に誉められ、だらしなく笑みを浮かべる葵。
いちゃつくのは結界の外にしてくれませんかねぇ。
どうやら加護の能力の使い方は本能的に理解できる物らしい。
ちなみに防音結界をはると、多分外に音が漏れなくなり怪しまれるが、そのためのウインクキラーだ。
あれは喋ってなくても不自然じゃないからな。
唯一不自然なのは、四人でやることくらいか。……大問題だな。
ま、こっちの世界にウインクキラーが存在するとは思えないから、それとなくあちら側にアレンジしたウインクキラーのルールを伝えるとしよう。
「で、なんでこんな面倒な事したのよ」
珠希が不機嫌そうな顔をして聞いてくる。
「なんで盗み聞きされると思う?ちなみに恐らく国側の人間だ」
俺は逆に聞き返してみる。
別に、あっちに思考させることで云々とか、そういう目的はない。
ぶっちゃけ、全部説明すんのが面倒なのだ。
「…国家に反する存在か否かを確かめるため、かな」
「私もそう思う」
「は? 何でよ?」
珠希がさらに聞き返す。
もしかしてツンデレだけじゃなくて、アホの子属性ももっているのか?
「珠希、君は実感が湧いていないかも知れないけど、僕達の勇者としての力は、この世界にとって脅威なんだよ。もしかしたら国家を揺るがし得るかもしれない。そんな存在が、国家に反逆的な思想を持っていたのがわかったら?」
「まだ強くならないうちに、その芽を潰す……なによそれ!召喚したのはあっちじゃない!」
ありがとう龍斗。俺の説明を肩替わりしてくれて。
まあ国家の行動としては納得できるが、人徳的には納得できんよな。
「ま、多分、この国も切羽詰まってるんだろうよ」
俺の台詞に三人は疑問符を浮かべた。
これは俺が説明せねばならんか。
「この世界の常識がわからないから確証は持てないが、この国は主に財政的に緊迫していると思う」
「根拠は?」
「まず、王が動きすぎ。家臣に忠誠心がないのか、王に仕えさせる手も無いのかわからないが、どちらにせよ問題だ。あとは、家臣が少なすぎる。料理がまずい。この部屋も、勇者に与えられる王城の一室としては狭すぎる」
こんな所か。
まあ平々凡々な日本人として生活してたら気づかないかも知れない。
俺は、最初に召喚されたハイゲン王国と比較できるからな。
「なるほど」
「でも、料理は美味しかったわよ?」
「うん。素朴だったけど、スパイスやニンニクが効いてて、味が薄いと言うこともなかったけど。派手すぎないイタリアン? みたいな?」
「完食」
あれ?もしかして俺の味覚がおかしいのか?
「ま、まあ、この世界の常識がわからないが、高級食材っぽいのは出なかっただろ?シェフの腕はいいかもしれないが」
「まあ、言われてみれば……」
うん。そういうことにしておこう。
「もしかしたら、この国は滅亡する可能性もあるってこと?」
「ああ。それを脱するための、勇者召喚だったのかもしれないが」
国家連盟の宗主国から報酬を頂くとかな。
俺は一息付いて、三人に言った。
「正直言って、この国を出ることも視野に入れた方がいい。幸い、俺の探知を使えば警備網をくぐり抜ける事も可能だ。元の世界に帰る方法も、それから見つけた方がいい」
元の世界という言葉に、三人がピクリと反応した。
そう、この国にとっては、俺たちが命綱なのだ。多分。
そんな奴らを、みすみす返すわけにはいかないだろう。
例え送還の手立てがあっても、この国が隠している可能性もある。
「ま、今すぐというのは愚策だがな」
「僕もそう思うよ。僕達にはまだ力も知識も足りてない。それに、この国を出て行くことは、最悪、国家連盟を敵に回す可能性もあるしね」
「ああ。しばらくは様子見だろうな」
龍斗がパンッと手を叩いた。
「とりあえず、行動方針は決まったね。しばらくは様子見。でも、その間に力と知識を積むこと。そして何が起きても対応できるようにすることだ。異論はある?」
沈黙が流れ、反論は無しと見なされた。
「じゃあ、他に聞きたいことはある?」
「あ、じゃあ、私良い?」
珠希が手を挙げた。
「ん、何?」
「コイツに聞きたいんだけど」
コイツとは、俺のことだ。
こいつ言うなし。
「何だ? スリーサイズ以外なら教えても良いぞ?」
「誰が聞くか!」
おう。どうやらツッコミスキルもあるようだ。
将来有望だな。
珠希は呆れたように一息付いて、言った。
「あなたの、その左目何?黄色いんだけど」
………
………………
…………………………………
忘れてたーーーーーー!!!
自分がオッドアイだってこと忘れてたーー!
くそ、何でこんなこと忘れてたんだ!
これなら召喚直後から、隻眼のイタいキャラで行けばよかった!
葵も同じ疑問を抱いていたようで、うんうんと頷く。
そして龍斗は、何故か頭を抱えていた。
「………いいかい、珠希。触れてはいけない事ってあるんだよ。彼はそういうお年頃なんだ。少し遅いけど。……放っておいてあげてくれ」
あ、龍斗め、俺が片目にカラコンつけてる中二病だと勘違いしているな?
よし!それでいこう!
「な、何!?」
俺は驚いたように演技し、バッと片目を抑える。
「ま、まさか、俺の邪視眼の封印が解けているのかっ………!?」
あ、体感温度が5度くらい下がった気がする。
「くそ、どうやら、時空の狭間を通ったせいで、封印が解けてしまったらしい! ……おい、珠希。お前は何も見なかった。そうだな? 防音結界を施していて良かった……そうでなくては、奴ら、ブラックエスペリオン(B-E)に、君たちが秘密を知ってしまったことで、殺されていたかも知れない」
俺は三人を見渡す。
女子二人は氷点下の目で、龍斗は顔を真っ赤にして俺を見ている。
なんだ?龍斗にもこういう時期があったのか?
「さあ、話を続けよう。他に質問は無いな?」
俺は何もなかったように、左目を手で隠しながら聞いた。
質問は無く、ただただ直視しがたい目で見られた。
なんか、秘密を守る代わりに、大事な物を失った気がする。
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