めっちゃ召喚された件 ~世界法則無視のチート権化~
さいとうさ
ライジングサン編
長すぎるプロローグ
いつも通りの休み時間だったはずだ。
しかし、突然教室の床に、青白く光る魔法陣のような幾何学図形が現れたかと思うと、部屋全体が白い光に包まれた。
目を覚ますと、だだっ広い、白い空間が眼前に広がっていた。
「な、なんだこれは!」
「きゃあああ!」
「おい!? どこだここ!」
周りの男女が自分の置かれている状況を理解できずに騒いでいる。
彼らは俺と同じクラスメートだ。だからといって話したこともほとんどないが。
いや、別につるむのが嫌とか、一人が好きというわけでも、ましてやハブられたり虐められたりしているわけでもない。
まあ簡単に言えば、休み時間も寝続けていたから話す機会がなかっただけだ。ちなみに授業はまじめに受けてるぞ?成績もいい方だ。
と、そんなことはどうでもいい。
あいつらみたいに騒ぐ程じゃないが、俺としても理解不能な現状だ。
まあでも予想としてはこれから……
『落ち着きなさい』
……女神が出てくるよな。うん、知ってた。
俺らの前に突然現れた、白の羽衣に身を包んだ、気品溢れる風格の美しい女性。
顔立ちもくっきりしていて、スタイルもいい。後光が白い肌を艶めかしく撫でている。
すっげー美人だな。
ほら、さっきまで騒いでいた男達が顔を呆けさせて、ある者は顔を赤らめて見とれている。
女子でさえ少なからず魅了されているようだ。
俺?
もちろん顎に手を添えて冷静にガン見ですが?
うむ。悪くない。胸の大きさはもう少し小さくても良いかもな。
羽衣が胸元で大きく開いているせいで、谷間がはっきり見えている。しかしそこは主張しすぎな気もするな。巨乳はある程度隠してこそ魅力がある。
顔は目鼻立ちがはっきりとしていて、かわいい系というよりも美人ってかんじだ。
ええもちろん欲望にはある程度素直ですとも。
だからといって、顔を赤らめたり動悸を早くしたりテンパったりはしないが。
『私は、あなた達が女神と呼ぶ存在。そしてここは世界の狭間とも言うべきところです』
再び話し出した女神の声で、見とれていたクラスメートがハッとする。
ある者は顔を赤らめて目線を彼女から逸らした。
俺?
未だにガン見継続中ですが何か?
『簡単にあなたがたの状況を説明します。あなたがたは、異世界より、魔王を倒す勇者として召喚されました。これからあなたがたはその剣と魔法の異世界「ベルーゼ」の「ハイゲン王国」に転送されます』
「……勇者召喚……」
クラスメートの誰かが、思わずというように声を漏らした。
しばしの沈黙。
クラスメートの一部は、この状況を冷静に思考しようとしているが、そのほかの人間は唖然として声がでないだけのようだ。
「……いくつか、質問することはできますか?」
学級委員長が
だが、女神は沈痛な表情で、首を横に振った。
『ここは世界の通り道。あなたがたがここに留まれるのはほんの僅かな時間だけなのです。現に、あなたがたは、あと数十秒後に異世界に行くことでしょう。質問の時間は取れません』
「そう……ですか……」
『では最後に一つだけ、私から「ギフト」を差し上げます。これはあなたがたの行く世界に合った、特殊能力のようなものです。どうか力に溺れぬよう、正しい道をもって、民を導いてください。あなたがたの未来に幸あらんことを』
俺たちの体は白い光に包まれ、異世界へと飛んだ。
「はあ……、はあ…、…せ、成功です………」
もう一度視界が戻ったとき、俺たちはでかい部屋の中心にいた。
内装は中世ヨーロッパっぽい。縦に模様が入った大理石の柱とか、かなり高級かつ荘厳な部屋だ。
目の前には息を荒げた少女がいた。青い神官服に身を包み、白い肌には汗が浮かんでいる。
「成功だ」
「成功した!」
「勇者」
「救世主だ」
周りがめっちゃざわついてる。高級そうな服に身を包んでいるあたり、実に貴族っぽい。
文官か何かかな?
そんな浮ついた周囲の様子に、クラスメート達は警戒心マックスだ。
すげーな。ラノベ的展開なのに誰も浮ついていたりしない。頼もしい限りだ。
「静粛に」
俺たちの正面にいた、大柄で髭を蓄えた40過ぎ位の男が、低く響く声で貴族連中を静めた。
部屋の奥、大層な椅子に座っているこいつは恐らく国王なのだろう。
「よくぞ異世界よりきてくれた、勇者諸君。私はハイゲン王国国王、リゼン=ハイゲンである」
やはり国王だったな。
「勇者諸君。我々ハイゲン王国は、諸君らを盛大に歓迎する。この世界に蔓延る悪、その主、魔王を、是非とも倒してほしい」
そう言って国王が頭を下げると同時に、その場にいる全員が俺達に向かって跪いた。
ほほう。毒された貴族かと思っていたが、そうでもないようだ。
勇者召喚ものでは王国が悪役だったりするが、見た感じはそうでもないようだ。
まあどんな裏があるかは知らんが。
「国王様。頭をお上げください。そして恐れ多いが、一つだけ質問したいのです」
「ああ。なんだ?」
「私達は、地球に、元の世界に帰れるのですか?」
ああ。最初にする質問だな。もはや様式美だ。
そして答えはもちろん……
「問題なく帰れる」
帰れな……え?
あ、ああ。帰れるのか。
「それは、くわしくは召喚した聖女に聞くがよい」
青い巫女服の女性は聖女様でしたか。
ふむ。白い肌は召喚の疲れか、未だに上気している。巫女服の濃青と白い肌のコントラストが素晴らしいな。胸は小ぶりで僅かな凹凸がうっすら影をつくっている。
折れそうなほど細身で、顔は黒目がちに筋が通っているが大きすぎない鼻、ピンクで小さい唇とうっすら桃に染まった頬、さっきの女神様と対照的に、可愛い系の顔だ。
その聖女が国王の呼びかけで一歩前にでる。
「私は聖女のルイシアです。帰ることは、結論から言えば可能です。すぐにではありませんが、一月後の、次の満月の日に元の世界に帰ることができます。そのため、魔王討伐を希望しない方は、1カ月間王城に滞在してもらってから帰ることになります」
あ、すごく簡単に帰れるなそれ。
「その場合地球でも1カ月経っているのですか?」
「いえ、召喚のタイミングで帰ることになります。あちらの世界の時間軸は変わりません」
至れり尽くせりすぎるだろ。この世界俺たちに甘すぎないか?
「では、1カ月後に帰る事を希望する方はいらっしゃいますか? 例えこの場の全員が帰ることになっても、私たちは止めません。……ですが、お願いします。私達を、この国を、世界を救ってください!」
聖女様泣き落としにかかる。
ここで調子に乗った勘違い自己中自称勇者がクラスメートに現れて、皆を鼓舞するのがテンプレだが。
「「「………………」」」
いやなんかいえよ。
「すいません。多分皆、すぐには決められないと思うので、その一ヶ月は様子見としても良いですか?」
クールだな君達。
まあ俺もそうするが。
「わかりました。では、仮として皆様には強くなる訓練を受けていただきます。説明は、騎士団長からさせていただきます」
「紹介にあずかった、ハイゲン王国騎士団長、ルガリオだ。よろしく頼む」
屈強な鎧に包まれた兵士たちの中から、特に強面の髭をたくわえた茶髪の男が前に出た。
「といっても、詳しい説明は本格的に訓練をしてからにする。今回は、各々の能力を把握してもらう」
「能力を把握、ですか」
委員長が聞き返す。君、合いの手うまいね。
「そうだ。『ステータス』と言葉に発するか、念じてくれ」
ほう。そういうタイプか。
呟くとウィンドウがでるってこったな。
「ステータス」
人族 人間
Lv.1
HP 105
MP 103
STR 105
VIT 96
DEX 110
AGI 121
INT 106
加護
《成長度向上》《獲得経験値5倍》《必要経験値半減》
「それぞれの数値は、平均的な成人男性を100と基準にしています」
ふむ。最初から高ステータスってわけじゃないんだな。
どうやら皆も同じくらいらしい。
俺だけ落ちこぼれ展開を予想してみたが、無駄だったか。
「加護というのは神様からのギフトです。勇者様のような、異世界からの来訪者は、皆持っているということです」
どうやら全員共通して《成長度向上》は持っているらしい。
成り上がる勇者ってわけだな。
俺の他の二つは俺特有の物らしい。
ほかの奴らは、《想像魔法》とか 《限界突破》とか《結界》とか、チート奴が持っているスキルを獲得していた。
俺のは完全に成り上がり型だな。
っていうか凄く勇者っぽい。
実はこういうクラス召喚って、《錬金》とか《強奪》とか、隠しスキルを持っている奴が後々無双しそうなものだがな。
「では、勇者諸君。一ヶ月後に、勇者の契約をするか、送還されるかを選んでくれ。今日は祝宴だ。思う存分楽しんでくれ」
ほんと至れり尽くせりだな。
異世界の料理か。非常に気になるな。
非常に旨いルートか、文明レベルが低く素朴なルートか。
やっぱり旨いほうがいいなぁ。
俺の足元に魔法陣が現れ、光り出す。
へえ、祝宴の会場までは転移魔法か。
転移魔法は廃れてるとかじゃないんだな。
まあ勇者召喚できる時点でそれはないか。
「お、おい……高富士……」
隣の男子が俺に声をかけてくる。話したこともない奴だ。
不思議に思ってそちらを向くと、そいつは俺の足元を指差しながらふるえていた。
なんだ?転移魔法が怖いのか?
召喚なんてものを経験したんだから怖くないだろう…………
……
……………
…………………
………………………?
「………………あれ?」
ようやく気づいた。魔法陣が現れているのは俺の足下だけだ。
他のクラスメートの足下には、なにも現れていない。
「え?なにこれ?」
未だに混乱から脱せない俺の視界は、黄色い光に包まれた。
視界が開けると、そこは白くだだっ広い空間だった。
『こんにちは。私はあなた達が言うところの女神という存在です。あなたの現状を簡単に説明………………あら?』
あ、お久しぶりです女神さん。
十数分ぶりですかね。
『さっきあなたここに来なかった?』
尊大な口調が崩れてますよ女神様。
「ええ。マジで俺の現状を簡単に説明して欲しいのですが」
未だに混乱から脱せない。
え?何これ?俺どうなるの?死ぬの?
『ごめん。私もわからない』
「よくわからんが、俺はまた召喚されるのか?」
『多分。……とりあえず規則としてギフトをあげなきゃいけないから、あげとくわね。よくわからないけど頑張って』
俺の視界は再び黄色い閃光に包まれた。
「召喚に成功したな」
「ええ。実験体12号と名付けましょう」
足元にまだ魔法陣が光っている。
そういえばさっきのハイゲン王国に召喚された時は、青白い魔法陣だった気がする。
そして今回は黄色だ。幾何学模様も違う気がする。
……とか言ってる場合じゃないな。
実験体とか言われてる時点でいやな予感しかしない。
「攻撃系の魔眼を持ってるかも知れない。ルイージ、『拘束』だ」
ルイージって、緑の服着たヒゲの弟かよ。
……とか言ってる場合じゃないな(二回目)。
ルイージと言われた騎士風の男(髭はない。何故だ)は俺を鋭い眼光で睨む。
次の瞬間、俺の体はピクリとも動かなくなった。
「念のため拘束具をつけろ」
俺の正面に立つ厳つい男が周りの人間に命令すると、彼らはキビキビと俺の体に、黒金の鎖がついた腕輪やら足輪やら首輪やらを装着した。
抵抗しようにも不思議な力で動かない。
しかも拘束具をつけられた瞬間に体から力が抜ける感覚がした。
バッドステータスのついた魔道具って所か?
ただの憶測に過ぎないが。
「ケヒヒヒヒッ。よくやったぞ、ルーガン」
「博士」
「ようし、これでまた実験が出来る。ケヒヒヒヒッ」
きっしょく悪い笑い方だなこいつ。
博士とか呼ばれてたか。
ガリガリの体に白衣を着て片眼鏡をつけている。
ぱっと見、博士っていうかマッドサイエンティストだな。
あー、冷静に観察しているが、これかなりピンチだよな。召喚直後にピンチとか止めてくれマジで。
さっきのハイゲン王国がマジで天国に見えるぜ。
「ケヒヒヒヒッ、異世界からようこそ、少年」
いやらしい笑みを浮かべて顔を近づけてくる。
すまん、そっちの趣味は無いし、あったとしてもお前だけは選ばん。
「ウホッ、いい男」ではなく「ウワァ、きも男」って感じだぞ。
「君は比較的落ち着いているね? それとも状況が理解できていないのかな? 恐怖で動けないのかな? 放心状態なのかな?」
質問されたので答えようとするが、体が動かないだけでなく口も動かないらしい。
ピクピクと震えるだけだ。
まあそれなら仕方ない。睨みを返事にしてもいいが、ここでにらむ意味もないしな。
代わりに俺は溜め息をついた。
「ふむ? 諦めているのかな? 中々聡明な子だ」
諦めている、か。まああながち外れちゃいないな。
ていうか何かしようにも何も出来ないし。
そんなことに精神的ダメージをくらうなら、抵抗をあきらめた方が聡明だ。
まあ諦めたからと言って、生きることを諦めることはしないが。
今すべき事は、誰かが助けに来たり、偶然この施設が壊れるなどの、彼等にとって不都合で俺にとって好都合な楽観的事態が起こったときに対処できるよう、心構えを作っておくことだ。
無論俺に不都合な事態が起こるかも知れんがな。
「ケヒヒヒヒッ瞳に力強い意志が見える。君は不思議な子だな?今から君を実験すると考えると興奮が止まらない」
だからそっちの趣味はないって。
しかし何で、異世界人を召喚して実験なんかするんだろうな。
「これからする実験というのは、君の持つ魔眼の実験だ」
魔眼?
そんなもの持ってはいないはずだが。
「異世界から召喚された人間は、例外なく魔眼を持ってあらわれる。世界を超える時に与えられたと考えられている。そしてそれを実験するのが私達の仕事なのさ」
ああ。
きっとその「魔眼」が、この世界に来るときのギフトなんだろう。
あの美人女神さんは俺にギフトをよこしたらしいし、俺も魔眼を持っているという事か。
「博士。無駄話をしていないで、実験に取りかかってください。我々マラン国騎士団は国王の命令により、あなたの実験に従っているが、無駄話に付き合うつもりはありません」
「失敬。冥土の土産にと思ってね。まあ冥土にいくのはまだ先だとは思うが」
その言い方だと、俺は実験のためにしばらく生かされるということか。
それなら誰かが助けに来てくれる可能性はあるかもな。
しかし、これは国が公認している実験なのか。
騎士団とかが助けに来てくれる展開は無さそうだな。ていうか助けがこない確率がむっちゃ高くなった。
厳つい男(多分、騎士団長)と話していたきも男こと博士は、俺に向き直ると手をかざした。
「なにぶん、暴れられたり狂人になられても困るのでね、催眠状態になってもらうよ。ケヒヒヒヒッ」
そう言うと、彼の手の前に黄色い魔法陣が現れる。
先ほどの召喚魔法陣よりも大分シンプルだ。魔法陣の構造が、その魔法の難易度なのか?
何かが脳内を侵食してくる感覚がする。
意識に靄が、というか、自分以外の何かがかかってくる。
なるほど、精神干渉系の催眠魔法といったところか。
催眠術というよりかは、隷属的なイメージがする。
俺の意識を、奴の命令が支配しようとしてくる。
いやな感じだ。
逆に言えば、いやな感じくらいしかしない。
とりあえず、意識を覆おうとしてくる靄は追い出し、奴の命令は無視。
この程度で俺をどうにかできると思うなよ?
俺を支配しようとしてきた眼前のキモ男を、そんな怒りをもって睨みつける。
キモ男はそんな俺の様子を見て、笑みを剥がして怪訝な顔をし始めた。
「あれ? 効きが悪いな……っていうか効いてない? 結構上級の使った筈なのに」
あれで上級なのか。
ちょっと自分を保っただけで抵抗できたんだが。
「うーむ。そういう魔眼を使っているのかな? ルイージ君の『拘束の魔眼』で魔眼は封じているはずなんだが。実はそれもレジストされていたのかな?」
「いや、博士。私の魔眼はちゃんと効いていますよ」
「じゃあ精神干渉系に特化しているのかね? ……マリーオ君。君の『鑑定の魔眼』で彼の能力を鑑定して見たまえ」
マリーオ君て。
ルイージ君と兄弟なのかな?
彼等の両親はネタに走ったのかな?
まあこっちの世界でマ◯オブラザーズネタが通じるとは思わないから偶然なんだろう。
マリーオ君が俺の両目を見つめてくる。
「…………身体能力、魔力ともに一般人レベルですね。それ以外の能力も特にありません」
あれ?ハイゲン王国に召喚されたときに成長系のギフトをもらったはずなんだけど、それはどうしたんだ?
この世界の鑑定だと見られないのか? それとも魔眼のギフトの代わりに剥奪されたのか?
「魔眼は、右目が『視の魔眼』、左目が『陣の魔眼』です」
「ケヒヒヒヒッ。
え?俺の目、黒眼じゃないの?
オッドアイなの?なにその漂う中二病。
目立ちまくるじゃんやだなそれ。
「それで、各々の能力は?」
「『視の魔眼』は、私の『鑑定の魔眼』の上位互換とも言える能力です。鑑定以外にも、千里眼、動体視力、映像記憶など、ただただ『視る』事に特化した能力です」
うぇーい。なにそのチート。
「ケヒヒヒヒッ、素晴らしい素材だな」
それな。
「で? 左目は?」
「はい。『陣の魔眼』は、魔法陣を眼にストックする魔眼のようです。実際に視た魔法陣を眼にストックし、本人の意志で視点に魔法陣を発現させる能力のようです。ストック数は一つですが、上書きが可能で、発動する魔法もタイムラグなし、必要魔力十分の一という性能です」
うわめっちゃ使い勝手いい。
いい能力が手に入ったな。あとは拘束されてなければ万々歳なんだが。
「ケヒヒヒヒッなんとも素晴らしい! これからする実験に心が躍る! ……だが、催眠魔法にレジストした原因は分からんのかね?」
「残念ながら。可能性としては、彼が催眠に屈しないほど強い精神力を持っている、というくらいですか」
「ふむ。まあ実験に支障はない。精神力が強いなら、これからの人体実験も、廃人にならずに耐えられるだろう。ケヒヒヒヒッ、さあ、こいつを実験室に連れて行ってくれ」
俺は力が入らないので、両側から騎士が支え、無理やりたたされて歩かされた。
うーむ。これから実験か。
多分実験という名の拷問なんだろう。
拷問を受けた主人公はそのストレスで白髪となり覚醒し……なんて展開があるが、俺にそれはないだろ。
ぶっちゃけ、拷問されても耐えられる自信はある。
抵抗はしないが、諦めることはしないのだ。
俺は、拘束具がつけられたベッドが中心に置かれ、様々な器具や試薬が並べられた薄暗い部屋に連れて行かれた。
わーい。ここで実験するのか。
お注射怖いよー。
「ケヒヒヒヒッ、さあこいつをベッドに寝かせるのだ! 実験の始まりだ! 始まりだ! ケヒヒヒヒッ」
ダメだこいつ。早くなんとかしないと。
あー、突然ハプニングが起きて、こいつ死なないかな。
いやらしい笑みに割と素で思ったとき、俺の足元が緑色に光り始めた。
周りの人間も、俺も突然かつ予想外のハプニングに驚愕し、動けない。
俺の足元に広がっていたのは、緑色の魔法陣だ。
あれこれ何てデジャヴ……
そう思った瞬間、俺の視界は眩い光で埋まった。
『え? これで三回目よ? 何、あんた私の事好きなの?』
いえ。自分の意志で来たのではなく、不可抗力です。
俺がいるのは、もうお馴染みとなった、女神のいる白い世界だ。
いや何回召喚されるんだよ。
人生で一回あったら驚愕な事がなんで三回も起こるんだよ。
まあ今回のはかなり助かったが。
とりあえずあのキモ男にはザマァと呟いておく。
「女神さん、なんか心当たりとか無いすか?」
『うーん。こんな異常事態初めてだから何とも言えないわ。ちょっと私の方で調べてみるから。また機会があったら教えてあげる』
もう完全に素の口調でござる。
女神さんと仲良くなってどうするんだ俺。
ていうかまたの機会って……
……ありそうだな。
二度あることは三度あるって言うが、三度どころじゃ済まなさそうだ。
そしてまた俺は緑色の光に包まれ、白い世界から新しい世界に転移する。
「はぁ、はぁ、先生……どうですか?」
「ええ。召喚成功です」
はい。三回目でござる。
もう召喚直後に放心状態にはならないでござる。慣れって怖いね。
あれ?最初のころから放心状態にはなってなかったか。
目の前には息を切らした少女と、茶髪で背が高く眼鏡をした女性がいた。
恐らく俺を召喚した少女は、金髪縦ロールで、貴族風の煌びやかなドレスを身にまとっている。
大きな青眼がかわいらしい。美少女だな。
美しい金髪と、華やかな服がキラキラと光り、彼女の存在をより美しく映えさせている。
少々小柄だが、体の発育は素晴らしい。
一切露出のない服を着ているのに、そのスタイルがはっきりわかるのだ。やはり巨乳はある程度隠してこそ素晴らしい。
あの女神さんも見習ってほしいものだ。
そして服から僅かに見える素肌は透き通るほど白く、綿密だ。お嬢様だな。いかに大切に育てられていたのかがよくわかる。
茶髪の長身スレンダー女性は、おそらく先生と呼ばれていたことから指導者なのだろう。
胸はあまり大きくないものの、その細身、くびれには魅力がある。
うなじや鎖骨、体のラインなど素晴らしい。モデル業もできそうだ。
キリッとした目の美人。
よく見たら耳が長いな。エルフってやつか?
そして足下にはお馴染みの召喚魔法陣がある。
「しかし、素晴らしいですね。最初の召喚から人型のモンスターを召喚するとは。やはりリーデは才能の塊です」
エルフ(?)先生の言葉に疑問を覚える。
モンスター?そりゃいったい誰のことだ。
「本当にモンスターなのですか?一見して人間にしか見えませんが」
否、我が輩は人間である。
「いえ。魔物特有の魔力を持っています。私はエルフですから 魔力感知はかなり得意です」
やはりエルフでしたか。
しかし、俺は人間のはずだぞ?魔力がモンスターっぽいって、匂いが獣臭いっていわれるくらい失礼な気がする。
「では何という魔物なのですか?」
「魔物というよりは、魔族でしょうか。恐らく『
ヴァンパイア? 吸血鬼? ドラキュラ?
いや人間だぞ?
「あのするどい牙のような八重歯が特徴です。」
そう言われて自分の歯に触る。
うわ、本当に牙がある。
それに、目の前の女性達の血が美味そうとかいう感覚がある。
特に金髪の方がうまそうだ。
処女と非処女ってやつかね。
えー、クラス転移、召喚即拷問ときて、今回は人外転生かよ。
ていうか人外転生って、前世で死んでからがふつうじゃね?
俺死んだ覚えないぞ?
「魔族ですか。それなら喋れないのですか?」
「魔物よりも高い知能を備える魔族といえ、喋れるのは上位種のみです」
「いや普通に喋れますが?」
「!?」
キェァァァァァァァァァシャァベッタァってか?
今まで黙っていたのは喋れないからじゃなくて、ただ集中して聞いていただけなんだが。
「あら、本当ね。私はリーディアナ。リーデと呼んで頂戴」
「ああ。よろしく。俺はイノリだ」
「こ、こんな流暢に喋れるなんて……もしかして伯爵級?でも、魔力量は少ないし男爵級以上には見えない……それに
エルフ先生がなんかぶつぶつ言っているのを放っておいて、俺とリーデは自己紹介をする。
しかし
「ねえ先生。先程からおっしゃっている、男爵級とか伯爵級というのはなんですの?」
「…いやしかし………ハッ!あ、あぁ、お嬢様、それは魔族における階級でございます。といっても、人間のような貴族制ではなく、強さにおける指標と言うものです。魔族は強さによって序列が決まりますから」
魔族の世界単純過ぎか!
そもそも言葉を喋れるのが少ない時点で社会が成立しないと思うのだが。
「なるほど。わかりました。それで、先生。私はこの後どうすればいいのですか?」
「あ、すみませんリーデ様。私としたことが動揺して、教えていませんでしたね。これから彼と、従魔の契約をしてもらいます」
うーむ。服従か……
このリーデお嬢様は結構良いやつ、っていうか純真な少女って感じで、今のところは信用できる。
ただ、今の会話だけで俺がどれほど特殊な存在なのかがわかった。
それに、彼女が信用できても、彼女の家が信用できるとは限らない。
なにより、俺が服従するという事実が受け入れられない。
プライドとかそう言うものではないが、なんというか、俺は非常に自己中心的なのだ。
俺は俺であり、俺以外の何者でもなく、俺は俺自身のものだ。
彼女のものになるというのはよろしくない。
ただ、ここから逃げ出しても、全く無知な状況なので、逃げられる気がしない。
俺の強さや能力も把握できていないからな。
契約の方法は簡単。
俺の血を、彼女に飲ませれば良いらしい。
エルフ先生が、俺の手を取り指に針で穴を開けようとする。
うー、打つ手なしか。まあ生きていけるだけで良しとするか。 服従からは逃げたいが、生きるのが最優先だ。
前回の世界よりもましだと思えば、我慢できる。
俺が覚悟を決め、針を甘んじて受けようとしたとき、俺の足元の魔法陣がふたたび輝きだした。
いや、今回は赤色の光りだし、用意された魔法陣のうえに、全く別の魔法陣が輝いている。
突然の出来事に反応できない目の前の二人に、またこれか、と察しがついた俺は苦笑した。
「あー、なんかすまんな。」
俺がそう呟いた瞬間、俺の体は赤色の光に包まれ、その世界から姿を消した。
「また来たぜ!」
『良く飽きないわね。そしていつの間に人間やめたのよ』
はい。女神さんの白い世界でござい。
そして十数分前と同じように、女神さんが立っていた。
いや、なんか服着替えた?
『ええ。さっき着替えたわ』
おう。俺口に出していなかったよな?
ということはあれか、あるあるの、心を読むってやつか。
『その通りよ』
「しかし、なんで着替えたんだ?」
彼女はあの露出率が高い衣から、しっかりと身を包んだ青色のドレスに着替えていた。
服が素晴らしい巨乳を押さえつけ、よりいっそう妖艶さを生み出している。
『あなたが「巨乳は隠した方が魅力ある」っていうからね』
あ、あの時も心を読んでいたんですか。
ということは、あのときの女神さんへの賛辞もだだ漏れってことだったのか。
『恥ずかしい?』
「いや、俺は素直にそう思っていたから、別に。
『あなた凄いわね。いや、だからか。ところでどうよこれ、似合ってる?』
俺はその質問に、笑みを浮かべ、親指を立てて答える。
それを見た女神さんがへへーん、とどや顔してくる。
かわいい。
まじかわいい。
「で、この異常事態の理由とやらはわかったんすか?」
『ん、まあ大雑把な事はね』
「なぜなんだ?」
『時間がないから要約するけど、召喚っていうのは魂が強い人を選ぶの。世界を超えるには強い魂がいるからなんだけど。で、あなたは滅多にないくらい強い魂を持っているのよ』
「それで俺ばかり選ばれると」
『契約とかで、その世界に魂が固定されたらこんなことは起こらないわ』
なるほど。しかし、そんな強い魂を持っているのか俺は。
別に善人でもなんでも無いつもりだが。
『善人かどうかは関係ないのよ。簡単に言えば自我の強さだしね。と、そろそろ時間ね』
その言葉通り、俺の体は赤い光に包まれ始める。
『じゃ、またね』
「ああ。……ん、また?」
『あ、召喚している世界があと4つあるから』
え? まじで?
それを言葉にする前に、俺は白い世界から消える。
『でも、強い魂ってのは、人にとっては良いことでも無いのよね』
俺の居なくなった白い世界で、女神はそう呟いた。
「勇者様! 夜分によくぞこの世界に来てくれました。私はサルフィア王国の第一王女、カンナ・サルフィアです。どうかこの世界をお救いください!」
はい四回目。さっきまで昼だったが、夜なのか。
「そうか。困っているのか」
「はい、魔王が世界を……」
「まあその話は置いといて」
「え?」
話を遮られた王女は、俺を見てポカンとしている。
髪型はショートカット、水色の髪に同じ色の水色の瞳がよく似合う可愛らしい少女………
いや、冷静に視姦している場合ではないな。
「俺が勇者と言うことは、それなりの能力があると言うことだ。違うか?」
「いえ、その通りです」
「キサマァ!例え勇者といえど、我が国の王女様になんたる……」
近衛騎士なのだろう男が喚いているが、知ったこっちゃ無い。
敬語を使う余裕もないのだ。
早くしなければまた次の世界に召喚される。
「その能力を知る手立てはあるのか?」
「え、ええ。この宝玉に触れて頂ければ」
「キサマァ! 私の話を聞いておるのか! 平民の……」
なんかまだわめいているが知ったこっちゃ無い。
というか、王女が突っ込んでいないのに、大事な話に護衛が出しゃばるなよ。ちゃんと職務を果たせ。
とりあえず王女が出した宝玉に手を触れる。
すると、その中に文字列が浮かんできた。
ギフト《スキル強奪》
相手に触れる事で、一定確率で相手の持つスキルを奪う。
「スキル……?」
「な、なんですかこの能力は……! みたことも……」
王女は俺の能力に驚いているが、俺にとって今重要なのはそこじゃない。
「この世界にはスキルというものがあるのか?」
「え、ええ。勇者様の世界には無いのですか?」
「無いな。だから説明よろしく」
「キサマァ「うるせぇ!」ゴペェ!」
そろそろ鬱陶しくなってきたので殴って黙らせる。
いや、素人の殴打に倒れるとか、近衛失格だろ。
「えー、と、スキルというのは、その人が一定の行動をして熟練度がたまると入手できるもので、それぞれに行動を補助したり、向上させたりします。本人のレベルアップでもスキルの熟練度を上げられます」
おーけー、強力な能力だってのはわかった。
ただ、スキルがない他の世界では通用しないかも知れない。
俺は急ぐため、王女に詰め寄って問いかける。
「勇者の契約というものはあるのか?」
「わっ、あ、あ、あります!」
「どうやってやるんだ!? 今すぐできるか?」
「ち、近いです!」
王女が赤くなって顔を背けるが、今はそのような些事はどうでもいい。
「はやく答えてくれ」
「うぅ……、ち、契りの儀は、隣の尖塔の最上階で行います」
くそ、儀式なんてあるのか。
間に合うか?
「行こう。早く君と契りを交わしたい」
「ちぎっ……!」
「変なことは言っていないだろ。さあ早く!」
王女の腕を掴んで行こうとするが、王女はまだうろたえて固まっている。
「あ、あの、即決していただけるのは有り難いのですが、1月後に送還もできますので、じっくりとお考えに……」
ああ、その優しさが今はじれったい!
「もう俺は決めたんだ。ここで一生暮らし、一生君について行くと。さあ早く!」
「いっ、一生!? ついてくる!?」
この純情娘め!
もう抱きかかえて連れて行こうかとしたとき、俺の足下が黒く光りはじめた。
黒い魔法陣が輝いている。
「えっ、ええ!?」
「あー、くそ。タイムリミットだ」
このまま召喚の道連れにするのはまずいので、俺は王女から手を離す。
王女が名残惜しそうに俺の腕を見ているが、もう関係ないことだ。
「悪いな王女様。とても短い間だったが楽しかったよ。世界は他の人に救って貰ってくれ」
そういい残して、俺はその場から消えた。
「お、お名前を聞いていない……」
その後王女が場違いな落ち込み方をしたらしいが、俺の知らぬ話だ。
「あー、くそ。惜しかった」
『残念だったわね、王女を落とせなくて』
「いやそっちじゃねえよ」
というか見てたのか、この女神さん。
『やっぱりまた来たわね』
「ああ。もうめんどくさくなってきた」
いっそのことどっしり構えて、とことん召喚されてみるか。
『おかげでチートがたまりまくってるけどね』
「やっぱりたまっているのか」
どうりであの近衛騎士を殴ったとき、気絶させたわけだ。
思い当たるのは吸血鬼化かな。力が強いと言うし。
いや、人間やめて、眼の色も変わってと大忙しだな。
「そういや女神さん、俺の目の色ってどうなってる?」
『右目が黒眼で、左目が金眼よ』
なにそのコントラスト。
「じゃあ、左目を眼帯かなんかで隠せば、目立たないかな」
『でもあまりじっと視られない方が良いわよ?右目の方も、黒眼だから分かりにくいけど、十字みたいな模様が入ってるから』
「うわぁ」
俺は白い地面?床?に寝転ぶ。
『どっしり構えすぎでしょうに』
「もう疲れた。精神的に」
いろいろありすぎだ。
色々って言っても、召喚しかされていないが。
すると、俺の周りに魔法陣が出て、黒く輝き始める。
「後3回か?」
『さらに召喚されなければね』
「不吉なこと言うなぁ」
俺はまた召喚された。
私はシーナ。
世界最高の闇魔法使いだと自負している。
闇魔法は、世間からいい眼で見られないから、たとえ一番闇の適正があっても、他の属性の魔法を習得しようとする者が多い。
そんな中で、ただひたすらに闇魔法を極めた私は、世界の異端だった。
でも、私は研究を続けた。
闇魔法は奥が深い。
もしかしたら、世界を救うほどの強力な魔法となるかもしれない。
だから私は研究を止めなかった。
たとえ世界中が私を異端認定しようと、研究を諦めることは無かった。
研究を続けて二百年。
私の闇魔法は、正に極致に到るまでとなった。
ついに、長年の目標をかなえられたのだ。
だが、この魔法を世界に広めるには、私は老いすぎた。
あらゆる延命治療を自らに施し、人の身でありながら、二倍の長さを生きた。
だがもう限界だ。
見た目だけは若くても、もう体はズタボロだった。
もう私の命は永くない。
私が死んでしまえば、もうこの闇魔法が世界にでまわることは無いだろう。
それだけは許せなかった。
私は後継者を作ることを決めた。
だが、この世界にもう闇魔法を易々と受け入れ、私の教え子になってくれる人など、子など、どこにもいない。
私は異世界から人間を召喚することを決めた。
使う術式は、勇者召喚。
空間魔法は闇魔法ほど得意ではないが、私の残る力を使ってひとりを呼び出すことは可能だった。
かつて、何でも自分の糧にしてしまおうと、あらゆる書物を読み漁ったお陰で、勇者召喚の術式は良く覚えている。
かつての自分の勤勉さを誉めつつ、後継者となる子を召喚した。
召喚は成功した。
成功したのだが………
「うぇーい。五回目~」
現れた異世界人は、名何故か床に気だるそうに横たわっていた。
「え、えーっと……。どうして寝てるの?」
「いや、なんかもうメンドクサくなってきたから」
「は、はぁ」
気怠げに言う少年に、ため息を漏らすしかなかった。
「で? 召喚したからには、なんか用があるんじゃないの?」
「あ、そうだったわね…………コホンッ」
本来の目的を忘れていた。
軽く咳払いして、本題に移る。
「その様子だと混乱していないみたいだけど、私があなたをこの世界に召喚しました。あなたに……、私の闇魔法を受け継いでもらうために」
「はぁ」
「はぁって………まあいいわ。この世界では、闇魔法は疎まれる存在なの」
「ひぇぇ」
「ひぇぇ?……………だけど、私は闇魔法に可能性があると考えたの。世界を救う可能性を」
「ふーん」
「私は二百年かけて研究をつづけ、ついに闇魔法の極致へと至ったわ」
「へぇ」
「でも、そのせいで私にはもう命が残っていない。世界にこの魔法で恩恵をもたらす時間がないの」
「ほぉ」
「だからあなたに、私の闇魔法を、研究成果を受け継いでほしいの!」
「以上。感嘆文ハ行五段活用でした」
「ちょっと! 話聞いてる!?」
ていうかこいつはいつまで寝そべってるのよ!?
「そんなに怒ると、せっかくの黒髪ロング美人が台無しだぞ?」
「び、びじ……って、だれのせいよ!」
「で、その研究成果ってのはどうやって受け継ぐんだ?」
「話は聞いてたのね…………うん。とりあえず、その能力は既に備わっているはずよ?召喚式にそうやって組み込んだから」
「それが今回のチートか」
「チート?」
なんだろうそれは。
というか、この子落ち着き過ぎじゃない? まるで何度も召喚されてなれてるみたいな。
……まあ、それは後でで良いわ。私にもあまり時間は無いのだし。
「で、受け継いでくれる?」
「んにゃ断る」
あっさりと断られた。
まあ、そりゃそうか。突然異世界に拉致られて、よくわからない研究を受け継げって言われても、断るわよね普通。
「受け継いでくれたら、……この体を好きにしても良いわよ?余命は短くても、体は若いままだし……その、ま、まだ処女だし……」
「非常に興味深い話だが無理だな」
「う、……やっぱり私じゃダメ?」
「いや、あんたみたいな美人はメッチャWelcomeなんだが、そろそろ俺この世界から消えるから」
そう言った瞬間、少年の足元から見たこともないような魔法陣がオレンジ色に輝きだし、その強烈な光が部屋を包んだと思うと、次の瞬間には少年は消えていた。
私は呆然とするしかなかった。
「アイルビーバック……」
『それ今言う台詞じゃ無いでしょ』
女神様につっこまれる。
ええじゃないですか、細かいことは気にしなくても。
『でも、今回の召喚主は可哀想だったわね』
「え? もう一回召喚すれば良いんじゃないか?」
『異世界召喚って、そんな簡単に出来るもんじゃないわよ。あれは彼女の残りの命を魔力にして、無理やり召喚したようなものだから。もう一回なんて死んでも無理』
「あちゃあ」
『きっと彼女は、召喚を悔いながら、悲願を達成できずに、一人寂しく残りの余生を過ごすんでしょうね』
「あーーーーー……」
なんかそう考えると、悪いことをした気持ちになる。
「……ーーーー俺を召喚した奴が悪い。俺は悪くない」
『開き直った……』
何を言うか。まごう事なき正論では無いか。
そもそも俺も被害者側だっての。
『あの子も不幸ね。あと一日召喚する日をずらしていたら、こんな悲劇は起こらなかったのに』
運命のイタズラってのは怖いね。(適当)
女神様と雑談していると、また俺の足元がオレンジ色に輝き始めた。
ちなみにこの雑談のあいだから今まで、俺は寝そべったままである。
立ち上がる気力が湧かない。
その姿勢のまま、俺は新たなる世界へ超短期旅行へと向かった。
「時は来た! 魔王様の復活だ!!」
「魔王様が地獄から蘇りになられた!」
召喚が終わったと同時に聞こえた声で、俺は全てを悟った。
(あ、これ魔王召喚だわ)
「見よ! 魔王様のこのお姿を!」
「おお、何事にも動じないような構え! さすがは魔王様だ!」
なんか寝ているのが都合よく捉えられてる。
いや、メンドクサいから寝そべってるだけです。
「今回は魔王様は、一体どのような武器をお造りになるのか……」
ん? 武器?
魔王が武器? どゆこと?
「魔王様! 気分はどうですか?」
問いかけてきたのは麗しい魔族の美少女
………などではなく、頬の痩けたオッサンだった。
頭から角が生えているから、魔族なのだろう。
「気分は悪くない。それよりも、俺の現状を教えて欲しい」
まぁ、魔王様と崇められているなら、敬語よりも雑な口調でいいだろう。
「ああ、召喚されて記憶が錯誤しておられるようだ」
いやそんなことはないけど。
復活って言ってたって事は、死んだ魔王がいて、それが俺だと勘違いされてるのだろうか。
「ああ、そうらしい」
そう言うことにしておこう。
「では、魔王様の仕事を簡単に説明させて頂きます。魔王様は、魔王軍に武器を授けてほしいのです。そう、魔王様が作る魔剣を! そして我らが魔王軍と、魔王様の武器の力で、弱き人間どもを駆逐するのです! そして我々が世界を手中に治め、魔族が富の限りを尽くすのです!」
魔王様が作った剣、略して魔剣ってか?
まさか魔王が生産職だとは思わなんだ。
「ふむ」
しばし考え、そして答えた。
「皆、俺が魔王だと思っているみたいだけどぜんぜんそんなこと無いから。俺はたしかに魔族だけど、吸血鬼だし、元人間だし、残念な事ながら、過去の記憶は今もしっかりと保持しております。俺はただの、異世界から来た人間なんだよ。勘違いしちゃってるとこすまんな。そして俺はまた召喚されるから、君たちの願いを叶えることはできない。無駄足だったね! じゃあね!」
「は!?」
おう。皆唖然としてらっしゃる。
うむ、その顔が見たかった。
言いたいことを全部言った俺は、紫色の魔法陣と光に包まれ、いつものように別の世界に召喚された。
「Hello world」
『全くこのタイミングの発言じゃないでしょ』
細かいよ女神さん。
『しかし、あなた中々鬼畜ね』
「『魔王として召喚された俺が、隠すべき事を初っ端で全てぶちまけた結果www』ってのをやってみたかった」
もうちょっと反応を見ていたかった気もするけどね。
「そういや、なんで召喚されたのが、死んだ魔王じゃなくて、俺なんだ?」
『もうあの世界の魔王の魂は、輪廻転生遂げちゃったのよ。武器
を造るだけで実際に手を下した訳じゃないし、部下が好き勝手言ってただけで本人は穏和だったから、地獄の刑罰の時間も少なかったのよ』
「で、代わりに魂の強い俺が召喚されたと。とんだとばっちりだな」
『ちなみに魔王は今、その世界の勇者の子供として頑張ってるわよ』
「うわ複雑」
まあ記憶は無いんだろうが……
……いや、有ってもおもしろそうだが。
『さ、次で最後の召喚ね』
そうだ。
次でようやく俺の召喚地獄が終わるのだ。
なるべく楽できる世界で有りますように……
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