食い物にする第十一話


 三日後。

 数日の実戦を経て、ようやく《行動予測》と《見切り》のスキルを手に入れた。スキル習得ってこんなに時間がかかる物なのか。

 そしてどうやら、シスター師匠との修行はここで終わりらしい。強化合宿が二日後に迫っており、そのための準備で忙しくなるそうだ。


「短い間だったけど、師匠としては楽しかったよ」

「へいへい。せいぜいと合宿で扱かれてこい」

「えへへ」


 なにわろとんねん。

 まあともかくとして、これでようやく昼寝酒飲み三昧な日々に戻れるわけだ。

 溜まりに溜まった寝不足を解消してやる!

 ということでシスター師匠と別れた後すぐに宿に戻り、布団にくるまって寝ましたとも。

 睡眠欲は三大欲求なんだよ。生物としての根源的な欲求なのだ。


 そして起きたら日没な件。

 もう殆ど丸一日寝ていたようだ。どんだけ寝たかったんだろう俺。

 腹減ったんで何か食いたい。というか吸いたい。血を飲みたい。

 スケルトンの骨髄でも貪ろうかと思っていたが、そういや影空間に大量の虫の死骸があることを思い出す。

 いや、虫のステータスはVIT特化なのだが、いかんせん数が多いのだよ。すべての血を飲んだら確実に全てのステータスが爆発的に増加する。そのため飲んでしまったらシスター師匠に怪しまれること間違いないのである。

 だがもうシスター師匠との修行は終わった。これで私は自由なのだ。例え密かにステータスが爆増していた所で分かる奴は誰もいない。

 早速外に出よう。そして吸おう。

 ん? 虫の血を飲む事への抵抗感? 有りませんが何か?

 いや戦いながら虫を食いちぎっていたアリーヤに勇気有るなぁと評価を下していたが、別に自分だってやれることだ。女子にしては、という但し書きが必要だろう。

 というか現代でも地域によっては虫食ってあるし? イナゴ美味しいし? エスカルゴとか美味すぎるし? コオロギの素揚げ的な奴も余裕で食ってましたが何か?

 まあ虫の血って赤色じゃないし成分も違うので、虫の血を吸血して効果は有るのかと疑問に思う所は無いわけでもないが、アリーヤは回復していたらしいので問題なかろう。


 というわけで街の外に出ました。

 血を吸いました。

 ステータスが激増しました。

 結果は以下の通り。



高富士 祈理

魔族 吸血鬼(子爵級)

Lv.20

HP 15230/15230(+500+8824)

MP 58971/58971(+5000+10797)

STR 12774(+500+5429)

VIT 18667(+500+12069)

DEX 6830(+500+622)

AGI 11472(+750+2215)

INT 14695(+1500+356)


固有スキル

《成長度向上》《獲得経験値10倍》《必要経験値四半》《視の魔眼》《陣の魔眼》《太陽神の嫌悪》《吸血》《子爵級権限》《スキル強奪》《闇魔法・真》《武器錬成》《探知》《レベルアップ》《スキル習得》《王たる器》《武術・極》


一般スキル

《剣術 Lv.8》《隠密術 Lv.9》《投擲術 Lv.10》《短剣術Lv.8》《飛び蹴り Lv.10》《詐術 Lv.8》《罠解除 Lv.6》《飛行 Lv.7》《罠設置 Lv.6》《噛みつき Lv.10》《跳躍 Lv.10》《回避 Lv.9》《姿勢制御 Lv.8》《糸術 Lv.8》《弓術 Lv.4》《杖術 Lv.3》《拳術 Lv.3》《棍術 Lv.3》《盾術 Lv.5》《刀術 Lv.3》《槍術 Lv.5》《射撃 Lv.3》《火魔法 Lv.1》《水魔法 Lv.1》《風魔法 Lv.1》《土魔法 Lv.1》《光魔法 Lv.1》《闇魔法 Lv.1》《魔力操作 Lv.1》《鎧術 Lv.3》《歩法 Lv.4》《暗殺術 Lv.5》《暗器術 Lv.3》《料理 Lv.4》《掃除 Lv.4》《洗濯 Lv.3》《運搬 Lv.3》《裁縫 Lv.4》《奉仕 Lv.3》《商売 Lv.4》《暗算 Lv.4》《暗記 Lv.4》《介抱 Lv.3》《策謀 Lv.3》《達筆 Lv.3》《速筆 Lv.3》《農耕 Lv.3》《並列思考 Lv.4》《速読 Lv.3》《手品 Lv.3》《酒乱 Lv.5》《性技 Lv.7》《思考加速 Lv.5》《空間把握 Lv.5》《宴会芸 Lv.3》《ペン回し Lv.3》《ボードゲーム Lv.3》《賭事 Lv.3》《強運 Lv.3》《凶運 Lv.3》《女難の相 Lv.3》《絵画 Lv.3》《演奏 Lv.3》《建築 Lv.4》《歌唱 Lv.3》《ダンス Lv.5》《宮廷儀礼 Lv.3》《ポーカーフェイス Lv.6》《反復横飛び Lv.3》《縮地 Lv.3》《早撃ち Lv.3》《二刀流 Lv.3》《緊縛 Lv.4》《ナンパ Lv.3》《ウィンク Lv.3》《作り笑い Lv.3》《我慢 Lv.3》《恐怖耐性 Lv.3》《痛覚遮断 Lv.5》《毒耐性 Lv.7》《魅了耐性 Lv.3》《熱耐性 Lv.3》《物理耐性 Lv.3》《寒耐性 Lv.3》《行動予測 Lv.1》《見切り Lv.1》《変身 Lv.2》《狂化 Lv.10》


称号

魂強者 巻き込まれた者 大根役者 ジャイアントキリング クズの中のクズ スキルホルダー 殺戮者 殲滅者 無慈悲 無敵 進化する者 天災 創造者




 

 VITがぁぁぁ!

 AGIとINTを上げたいという成長方針は何処へ!? 息してますか!? 完全にVIT独走状態なんですけど!?

 どうも1レベル上がっていたようで、その上昇幅を見れば分かるのだが、他のステータスの上昇幅は五倍に増えているのに対し、AGIとINTは7.5倍、10倍に増えているのだ。

 恐らく爵位が上がったときに、高いステータスがあれば上昇幅が特化してくれるらしい。

 それはいいんだが、次に爵位があがるまでにステータスをどうにかしないと、上昇幅がVITに特化してしまう。

 良いんだよVITは上がらなくても! 上がったら上がったでうれしいが、それよりも上がって欲しい子達が居るんだよ!

 正直当たらなければどうということはないし、あたってもただメインカメラがやられただけなら問題ないのだ。

 まあVITがえげつないほど上がれば、堅いのに傷つけてもほぼ無限に再生し、かつHPが殆ど減らないいやらしい奴が完成するだろう。しかも長期戦になれば、吸血でHPもMPも回復するのだ。短期決戦も長期戦も許してはくれない。プレイヤー殺しの敵誕生である。

 だがやはり個人的にはAGIを上げてなるべく攻撃はかわしたい。何故ならこの世界には「絶斬之太刀」のような、防御力無視のチート兵器が古代兵器アーティファクトとして存在しているのだ。もう他には無いかも知れないが、あるかもしれない。それならば防御力を特化させるよりも速度を特化させた方がいいだろう。


 ということで成長方針の修正は急務だ。なるべくAGIとINTのある敵を見つけて吸血しなくてはならない。そういう敵の巣とか何処かにないだろうか。


 そして深刻なDEX不足! 射撃などに関しては《闇魔法》の「支配」で事足りるのだが、もしかしたら体を上手く操れなくなる可能性が存在している。

 自分のステータスに振り回されて、敵に突撃とか嫌すぎる。こいつも早々に上げておきたい所である。


 計算してみるに、どうもVITやSTRの吸血による上昇幅が少ない? VITに関してはこの五倍くらいは上がっていてもおかしくなかった。いや今でもおかしいのだが。

 恐らく虫は千匹以上居たと思われる。逆算すると、虫達のVITは1200位しか無かった計算になるのだ。だが実際は5500。何故だろうか。

 予想でしかないが、『魔王の加護』が関係しているのではないかと考えられる。『魔王の加護』は言わば、ステータスのバフなのだろう。そしてあくまでバフなので、その身体能力自体に影響される《吸血》では上昇幅に影響しなかったのでは無かろうか。

 つまり、『魔王の加護』持ちと戦うのはコスパが悪い。あくまで《吸血》の側面だけで考えるならば。レベルアップのための経験値は相当分得られていることを願おう。


 称号には「天災」と「創造者」が追加されている。「天災」はあの岩落としの件だろうか? まあ確かに端から見れば天災に見えなくもない。「創造者」は「原子錬成」しまくったからだろうか。

 あ、あの岩落としの技の名前は「ストーン・バレット」に決定です。アリーヤとシルフに猛反対を受けたが決定ったら決定です。フェンリルは興味なさげだったが。

 ていうか破壊力大な攻撃にかっこいい名前をつけようとする思考が分からん。名前とか不意打ちに取り入れるしか無いだろうが。しょぼい攻撃に大層な名前をつけてはったりかまし、大規模攻撃にしょぼい名前付けて不意打ちするのは定石です。

 「ストーンバレット!」とか叫んだら完全に土属性の初級魔法だと思うだろ? そこに上から大質量超級物理攻撃が降ってくるんだぜ? 全滅するだろう? しかもあくまで石(巨大)の弾丸(巨大)だから間違ってないしな。

 名前は記号でしか無い分、非常に重要なのだ。相手の思考内の想像と現実との乖離は隙を生む。最小限のリスクで最大の効果を生む手段に他ならない。

 詠唱なんかもそう思うんだがなあ。せっかく無詠唱が出来るなら、ずっと無詠唱ばっかやるんじゃなくて、フェイクの詠唱と混ぜて効果的に使用するべきだろう。何故そうしない、ラノベの主人公諸君。

 まあ俺は殆ど魔法使えないんだが。


 さて思考が横道にそれまくったが、話題をステータスに戻そうか。一般スキルが四つ増えているようだ。

 《行動予測》と《見切り》は昼間の修行で手に入れたもの。これからレベルが勝手に上がっていくだろう。

 そして《狂化》。これはバーサクワーム達の《吸血》で《スキル強奪》したものだろう。数が数だけにあっさりカンストしているが。

 狂化。ゲームやラノベ、漫画だといくつか種類があるが、鑑定してみるにどうも、思考を狂化させてステータスを全体的に増加させるタイプらしい。

 つまりあれか、ヒャッハァァア! ってなる代わりに強くなるのか。正直ヒャッハァしながら涎撒き散らして目を見開くのは勘弁したいところなのだが。


 やってみるか。


 《狂化》



「………ひひひ……………うひゃハハ……ハハハハハハ! ゲハハハハハ!! ヒャァァアッハァアアア


…………ぁぁぁあっ……ふうぅぅん」


 落ち着いた。落ち着きました。

 いやマジか。正直狂うことなんて俺には無いだろうから、スキルは不発になるかと思っていたのだが、あっさりヒャッハァしてしまった。なんとか押さえ込んだが。

 正直二回目の召喚で「精神干渉魔法」かけられた時よりも危なかった。まさか俺が最初抑えきれないとは。


 まあ慣れましたが。


 現在ステータス増加中です。三倍くらいになってます。ヤバい。

 一応思考能力が狂っているはずなのだが、なんとか抑えられている。なのにステータスは増加している。大丈夫かこれ。バグとかじゃないだろうか。


 とりあえず《狂化》解除。

 解除してみたが、ステータスが元に戻っただけで減少はしていない。しかもクールタイム無しとか。精神的には多少疲れたが、問題無いレベルである。

 つまりあれか。俺はノーリスクで《狂化》し放題ってことか。いいんですかねそれ。バーサーカーなのに全然バーサクしていないんですが? もう強さを求めるために常時バーサーカーになっちゃうよ? やっちゃえバーサーカー。


 まあとにかく使えることは分かったので、ガンガン戦闘に取り入れていきましょう。変身とか最終形態が残っているなら最初からそれでいろなんて意見も有りますが、個人的にはオススメしません。

 物語的な展開という要素を除けば、戦闘中に突然敵のステータスが増加するのは脅威なのだ。それまでの戦闘のリズムが変わるのだから。使う側が慣れてしまいさえすれば、急激なステータス増加は十分戦略や不意打ちに取り入れられるのだ。使わない手はない。


 さて残るスキルは《変身》。これは《飛行》と同じで、吸血鬼に元々備わっている能力だと思う。爵位が上がったことで使えるようになったのだろう。

 ただ、レベル2だと別人や別の動物になることは出来ない。精々髪や目の色を変えられる程度だ。しかも黄色い左目の色は変えられない。何故だ。

 それでも非常に使い所があるのでガンガンスキルアップしたいのが、なかなか上がってくれない。その上変身中はMPをそこそこ消費する。なかなか本腰入れて練習できないスキルだ。


 ステータス確認はこんな所か。

 では爆増したステータスや、新しいスキルの使い心地を確かめるとしよう。さあ何処にいるのだメイジスケルトン。狼系でも良いですよ? あ、タンクスケルトンは要りません。これ以上VITはいりません。

 いらないんだってば。








 執務室の中は静寂であった。

 ただ紙とペン先が擦れる音が、部屋の六面の壁に反響する。この執務室の主がペンを脇に置けば、コトッという物音の後すべての音が消え去った。グラスを傾け中の液体を口内に流し込み、再び机の上に置けば、またコトッと音が鳴る。

 いつもならば男の傍らには、神官騎士で男の秘書であるシスターが居るのだが、今日は用事があって休養中であった。その休養というのもこの男が原因である。秘書が孕んだ事を知った途端、男は堕ろすように強要したのである。涙ながらに秘書は嘆願したが、男の権力と暴力を以て、ついには従う事になった。

 この世の終わりを目前にしたような濁った目をしていたが、それが男の琴線に触れることはなかった。男は生来堅物であり、女性には殆ど興味を示さない。たとえ幾ら女が泣き、その涙の原因が彼に有ろうと、興味を示す対象とはなり得ない。

 男は女には興味はなかったが、初物を自らの手で食い破ることには狂気的なまでの快感を覚えた。それは言わば処女厨と称される性癖と言っても過言ではない、いや、それよりも狂っていると言えるだろう。食い破った後には、路傍の石を見るが如く、興味を示さなくなるのだから。

 女性神官騎士は処女でなくてはならない。では孕んだ秘書の中にいる物の親は誰となるのか。疑問に思うまでもなく、この男に他ならない。彼女の処女を食い散らかしたのは彼であり、彼女が今までに肉体関係を結ぶことになった男も、彼ただ一人なのだ。

 だが男の心は痛まない。同情もしない。彼は生来の堅物ではあったが、正義などという志は持ち合わせては居なかった。彼の目には、次の獲物達しか見えていないのである。


 部屋が静寂であるが故、来客が扉を叩いたとき、そのノック音が明瞭に響く。


「どうぞ」

「失礼する」


 入室してきたのは教会の重鎮が一人であった。また男の同士とも、共犯者とも言える存在である。 

 身分はあちらが上であるため、執務室の主である男はペンを置き、会釈した。


「何か御用で?」

「レイブン・ヴィージン……。いや、大したことではない」


 男──レイブンの問いかけに、重鎮は手を振って否定する。


「ただ、宴の準備は順調かと、気になったものでね」


 ああ、とレイブンは一人内心で納得した。

 この男とて、実際は準備が順調かどうかなど、さして気にしては居ないのだろう。ただ、来る宴に高ぶり、落ち着かなくなったがための徘徊なのだ。その気持ちはレイブンもよく理解していた。今でこそ慣れたとはいえ、昔は前日に体を駆けめぐる興奮を抑えるのに苦労していたものだ。

 失笑しつつ、レイブンは答えた。


「宴、ではなく、強化合宿ですよ」

「おお、そうであったな。言い間違えてしまった」


 言い間違いなど有るわけが無いのだが、重鎮は高らかに笑い、レイブンも追従するように笑う。


「用は以上で?」

「ああ、邪魔して悪かったな」


 全くだと、内心では毒づきつつも、レイブンは表面上はにこやかにおさめる。

 彼が帰ろうと扉に手をかけた所で、レイブンはふと気になっていることを思い出し、呼び止めた。


「なんだね」

「いえ。あの娘の件ですが」

「娘とは? どの娘だ」

「背信の娘です。魔物使いの」


 それだけで、教会内の有る程度の地位を持つものは、脳裏に一人の女を思い浮かべる。その名前はクリス・カマセル。教会で飼っている、悪しき魔物使いの娘であった。


「ああ、襲撃の日が来なかったことかね?」

「ええ。こちらの準備が骨折り損となったので、文句ぐらいは言ってやろうと考えているのですが」

「せめて奴の仕事が終わってからにしたまえ。それからならいつものように好きにしてかまわん。奴のことならな、どうも例の日に森で野宿していたけったいな奴が居たらしい。目撃されたため、失敗に終わったのだという話だ」


 重鎮である男は、先日の部下の報告を思い出しながらレイブンに告げる。


「日を改めて行うと言っていたな」

「出来れば強化合宿の前にやっておきたかったのですがね」

「後でもそれ程問題は無かろう。ま、相応な罰は必要だがね」


 重鎮である男は嫌らしく口元を歪めた。脳内で何をするか、捕らぬ狸の皮算用が如く妄想しているようだが、レイブンは冷めた目で見つめていた。重鎮である男と違い、やはりレイブンは処女以外の女性には興味を示さない。それ以外に振るう暴力は、あくまで言うことを聞かせるための最も効率的な手段に他ならない。


「もう聞くことはないかね」

「ええ。では私は仕事に戻らせていただきます」

「しっかり励みたまえ。神の名の元に」

「神の名の元に」


 神に祈りを捧げてから、執務室の扉が閉められ、再び静寂が訪れる。僅かに軋む椅子に深く腰掛け、一息ついた後、レイブンは中断していた仕事に取りかかる。

 神の名の元に。彼らとて自らの行為、所行が、人道的に許されない事であるのは理解している。だが彼らにとっては、人道が許さずとも神が許せばそれでいい。神は子を産み、そのために交わることを推奨している。また間違いを防ぐために、堕ろす事も否定していない。

 神が許せば、彼らにとって彼らの行動は正しいのである。一片の公開もなく、水面のような平然とした心持ちで、レイブンはまたペンを紙上に走らせた。









「どう思いますか」


 アリーヤが、俺の顔をのぞき込みながら聞いてくる。


「どうって? 何が」

例の召喚士クリス・カマセルから聞き出した話です」


 アリーヤの顔は、無表情ながらも何かの感情を堪えているような、そんな印象を受ける。その先、目を見て彼女の心理を知るなんて事は俺には到底出来ようもない。それが出来ないのが俺であるしな。

 まあアリーヤに関しては気にしなくても良い気もするが。


「どう思うか、か。言葉にしろと言われてもな」


 正直明確に思ったことなど無かったから、言葉にしろと言われても難しい。


「……丁度良い、という感じか? 利用してやるというか。まあ俺には都合が良かったな」

「彼女自身に関しては?」

「………何を気にしている?」


 うん。やっぱり他人の感情なんか分からん。基本的に無表情で口調が淡々としているアリーヤなんかよっぽど分からん。

 何か俺に聞きたいことがあるなら、言葉にして有る程度具体化して欲しいものだ。

 アリーヤは幾ばくか迷った後、小さな声で言った。


「いえ。私も彼女と同じように、悪魔に魂を渡した同類ですから」


 ああ、俺が助けることもなく、興味すら示さなかった事に疑問、というか不安を感じているのかね? まあここまで単純な感情では無いかも知れんが。

 やはりおっさんと話してから、妙に不安定な所が見えるな。何の話してたんだろうか。


「ありゃお前とは違うよ。お前は可能性を自らの意志で掴み取った。ありゃ甘言に乗せられて逃げただけだ。あんなちんけな催眠なんかにかかってたしな」


 まあどちらにせよ、俺がやることは変わらん。


「とにかく明日のための準備を進めることだ。俺の目的のためにキッチリと利用しなきゃならん」

「……そうですね」


 アリーヤは何かを思案しながらも、俺の言葉に頷いた。



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