元婚約者候補の第十一話


「で、何で大零創造神様とやらが、こんな所で武器屋やってんだ?」

「少々下界に散歩を」

「えぇ……?」


 あっけらかんと答えるジジイ。いやさすがに冗談なのだろうが。


 いつまでも森の中にいる訳にも行かなかったので、俺とジジイは広場に戻ってきた。一通り作業を終えたところで、俺とジジイは隣に座って駄弁っている。

 俺達の話し声は周囲にもれない。それどころか、まるで他愛もない世間話をしているように、他の人には聞こえるという。話している内容を偽装しているとか。

 何でもありか、この大零創造神ジジイ


「……で、本当は?」

「一つは貴方の視察ですな」

「俺の?」

「8回も召喚された日本人。今までに類を見ない異例です。転魂の女神から報告を受けたので、興味を持ちました」

「興味ねぇ……」

「私としては、期待しているのですよ」


 期待? 神様のトップとやらが俺の何に期待しようというのか。


「その理由は……まあ、今は言わないでおきましょう」

「勿体ぶるんだな」

「今私と貴方が戦っても、私の圧勝で終わりますから」


 ……よく分からんが、俺が強くなるのを待ってくれてるってことで良いのか? 戦いと期待の理由がどうつながるか分からんが。

 まあ、今戦ったら負けるのは目に見えてるってのは事実だな。勝てる気がせん。というかまず勝つ負けるの土俵にない気がする。


「で、もう一つは?」

「これは貴方とは別件ですよ。魔王イグノアとの接触を図っています。ドイルに向かうのもその為ですね」


 魔王イグノア……おっさん魔王のことか。


「おっさんはレギンにいるんじゃないのか? 何でドイルに?」

「それが、どうやらいつの間にかどこかに出立なさったそうで。手がかりをかき集め当たりをつけ、追っているところでございます」


 ……そういえば魔物暴走スタンピード以降姿を見てなかったな。まさかあの後すぐに居なくなっていたのか。


「おっさんにはどんな用があるんだ?」

「少々神々の事情になりますが……元々この世界は要注意のものであったのですが、それに加えて神における犯罪者のような存在が逃げ込んでいる可能性が浮上してきたのです」


 神々の間にも犯罪とかあるのか……ずいぶんと世俗的というか。


「本当はこの世界の女神から情報を得たい所なのですが、その肝心の女神が接触を断っていまして。この世界で最も女神達と関わりが深い者にあたってみようかと」


 それが魔王イグノアだったってわけだ。


「彼の者は器以上の強大な力を手にしています。或いは、彼にその存在が宿っている可能性もある……どちらにせよ、魔王イグノアが大きな手掛かりであることには違いありません」

「ほーん」


 あのおっさんに、何かついてるようには見えなかったがね。


「そんな大事な用件なら、俺に会うより先におっさんと話したほうが良かったんじゃないのか?」

「いえ。あくまで魔王イグノアの件はついでなのですよ。私にとっては、貴方のほうが優先順位が高いのです。そもそも今回の神々のいざこざに関しては本来、転魂の女神の管轄なのですよ。私の仕事ではございませんので、ついでの手伝いという側面が強いですね」

「なら潜入捜査みたいにコソコソ調べるんじゃなくて、丸ごと解決したらどうだ? 大零創造神様なら出来るだろ?」

「出来はしますが……規則違反となりますから」

「違反しようが問題ないように聞こえるが」


 なにせトップは大零創造神こいつだ。違反しようが力技でどうにもなる気がするし、何なら規則の方を変えることも出来るのではなかろうか。


「いえ。例え私であっても、己が定めた規則には従うべきなのですよ。そうでなければ、世界は徐々に崩れてしまう」


 そういうものなのだろうか。世界とか全く実感が湧かんので、俺には抽象的な捉え方しかできない。

 と、そこで別の所から声が聞こえてきた。


「セバスチャン様、少し宜しいですか?」


 話しかけてきたのは暗殺メイドだった。どうやら見張りからの報告らしい。


「とある貴族の方が通りがかられて、我々の状況を見兼ねて、責任者とお話がしたいと仰っております。近くに所有されているお屋敷があるそうで、そこにお招き頂けると」

「おや、貴族の方が……それは断る理由もありますまい。では、祈里様、暫く席を外させていただきます」

「ほーい」


 そのまま街道の方へ向かう二人。

 こんな街道の中途に貴族が、しかも俺達みたいな冒険者と商人に話し掛けてくるとは。しかも泊めてくれるって事か? 随分と寛大なものだな。

 ……あるいは、暗殺メイドがその貴族に手を回した可能性もあるか。コミュ障勇者は腐っても勇者だし。

 とりあえず「千里眼」で見張っておくか。


 ついでに上がったステータスを詳しく見ていこう。



高富士 祈理

魔族 吸血鬼(伯爵級)

Lv.36

HP 32295/32312(+7000+17)

MP 98971/183500(+70000+23)

STR 28196(+7000+190)

VIT 39046(+10000+196)

DEX 24321(+7000+170)

AGI 36060(+10500+178)

INT 52592(+21000+19)


固有スキル

《配下代替》《獲得経験値20倍》《必要経験値0.125倍》…


一般スキル

《地脈予測 Lv.4》《脅迫 Lv.3》《瞑想 Lv.2》…


称号

天災 道化師 魔族の天敵…



 随分とスッキリした。

 あのうざったくなるような量の、スキル称号群が嘘のようだ。女神さんによるアップデートのお陰である。

 さて、取り敢えず上から見てみよう。まず当然ながら、爵位が伯爵級まで上がっている。そしてレベルが無茶苦茶上がっとる。前回見たときは28だったかな? あれから神官魔族としか戦っていないから、あの戦闘だけで8もレベルアップしたということになる。

 どんだけ経験値持ってたんだあいつ。

 そんで、そのせいかレベルアップによるステータス上昇が偉いことになっている。えーっと、HPは爵位上がる前の上昇幅が500で、2つ上がっているから+1000。残りは爵位上がったあとの上昇だから、上昇幅は1000になった訳か。

 上昇幅は全部二倍になっているのかと思いきや、VITは1500になったっぽい? 大量の虫のお陰でAGIに並んだからかな?

 当初VIT不足気味でも良いかなとは考えていたが、あるにこしたことはない。ないのだが……DEX不足が甚だしいですね。

 射撃投擲には《闇魔法・真》を使えば百発百中だからDEXは必要ない、と考えていたのだが、ここまで高ステータスとなると体を操るのにも一苦労なのだ。神官魔族との、お世辞にも格好いいとは言えない戦闘は、DEX不足が一因でもある。あの時は相手も不慣れだったようだから助かったが……。俺と同等のステータスで洗練された戦闘をするようなやつが現れたら不味い。DEXを上げるか、何かしら対策しなければならないだろう。

 吸血によるステータス上昇は普通に神官魔族のステータスの百分の一って感じだな。HPMPがバグったりはしないようだ。……どうせならバグっても良かったのに。


 スキルや称号は3つずつ表示されるようだ。手に入った順でも、最新3つでもなさそうだ。多分、新規か更新が入ったものから順に表示されている感じだろうか。三点リーダーの部分をタッチするか凝視すると、省略された物が見られるようになるみたいだ。

 とりあえず固有スキルがどう変化したのか、アナウンスの履歴と並行して確認していく。


《成長度向上》

 こちらは先程見たとおり、ステータスの上昇幅が上がっている。


《獲得経験値20倍》《必要経験値0.125倍》

 見たとおりだな。必要経験値に関しては、前は四半だったのが0.125倍と少数表記になった。八半とするのが変だったから、ということだろうか。女神さんの苦労が伺える。


《視の魔眼》

 視点が増えたみたいだ。複数の視点から同時に「千里眼」を使えたり、一つは「外線視」で全景を、「千里眼」で特定の箇所を……のように、マルチで使えるという事だ。これは有り難い。今までも細かく切り替えて擬似的にマルチで使っていたが、結構集中力が必要なのだ。INT(並行処理能力)は少し持て余し気味なくらいなので、使うぶんには困らなそうだ。


《陣の魔眼》

 更に必要MPが半分に。すると……転移回数に換算すると通常状態で367回、狂化状態で1101回って所か。そろそろ回数制限とか気にせず転移しても良さそうだな。


《太陽神の嫌悪》

 日中選べる使用可能スキルが5つになった。やったね。


《吸血》

 吸血速度が上がり、口からだけではなく肌からも血を吸えるようになったらしい。例えば血溜まりに手を突っ込むだけで吸血できる訳か。いよいよ俺が生物としての体をなしているか分からなくなってきたな。


《伯爵級権限》

 はいはい。どうせ効果変わらん。


《スキル強奪》

 確率で2つ強奪だったのだが、確実に2つ奪えるようになったみたいだ。ステータス表示のアップデートでごちゃごちゃしなくなったし、今までは狙ったスキルが手に入らない事があったから、有り難いっちゃ有難い。


《闇魔法・真》

 影空間の体積が増大したとか。ぶっちゃけ俺の影空間は俺のMPが天井知らずで伸びてるから、もうほぼほぼ無制限なんだよな。メリットをあげるとすれば、他の物の影に潜りやすくなったことか。


《武器錬成》

 錬成の速度が上がったようだ。まあだからといって、俺と同等の身体能力を持った相手との戦いで使用するには遅すぎるだろう。便利になったなってくらい。


《探知》

 「神権所有者及び近似存在の隠密に対する感知試行の追加」……と、アナウンス・ログには書いてある。どゆこと。……多分、先日の白ローブみたいな奴も感知できるようになる……と捉えたいところだが、「試行」なんだよなぁ。完全に感知できるって訳では無さそう。まあ、努力してるだけ有難い。ああいう本当に危険な存在に限って探知出来なくなるから、正直「要らない子」のレッテルを貼ろうとしていた。汚名返上に期待したい。


《レベルアップ》

 さらにレベルアップ速度二倍に。本当はレベルが上がれば上がるほど、上げにくくなるものだと思うのだが、今のところその感覚がない。爵位上がるたび八倍になってるからな……。


《スキル習得》

 こちらも習得効率が向上している。


《王たる器》

 配下の能力を増強。奴らもドンドン強くなっている。良いことだ。


《武術・極》

 プログラミングなる機能が追加されたらしい。いよいよAIだな。初期の能力の特性どこ行った? まあ、俺にとっては都合のいい進化方向なんだが。


《配下代替》

 こちらは新スキル。神官魔族から手に入った代物だ。眷属及び下僕のHPMPを、俺のステータスと入れ替えることが出来る。……デメリットしかなくないかそれ。がーん、だな。


 固有スキルはこんな感じか。神官魔族から手に入ったスキルが微妙な性能だったのは正直アレだが、随分レベリングさせて貰ったし、良しとする。意外と目ぼしい変化はないな。

 一般スキルは、大体一様に1ずつレベルが上がっている。魔法系の伸びは相変わらず悪いが、そんな所か。神官魔族を一回一回殺すたびにレベルが上がっていたから、スキルも大量に手に入っているのかと思いきや、そうでもなかった。

 あの神官魔族の仕組みは未だよくわからん。アリーヤから聞いた話も踏まえると、魔族の信者たちの魂を引っ張ってきては次々に神官魔族に宿らせていたみたいだが……技術的な記憶は蓄積させていたのだろうか。


 と、取り敢えず一通りの確認を終えたところで、アリーヤがこちらに向けて走ってきた。さっきまで暗殺メイドやら神ジジイの所へ行って、貴族を見に行っていたみたいだが……姿を確認するなり踵を返したようだ。

 ちょっと気が向いて、アリーヤを鑑定してみる。



アリーヤ

魔族 吸血鬼


HP 3000/3009

MP 20954/20960

STR 2576

VIT 1827

DEX 27652

AGI 3710

INT 18025


加護

《魔女の血》《天才》…


称号

 ライジングサン王国王女 悲劇の王女 人形姫…



 強くなったなぁ。

 俺の《王の器》によるステータス向上もあるだろう。だが黒狼を見るに、その効果は二倍だ。そこから先は彼女の努力の結実である。レベルシステムもないのにこれだけ能力を上げるのは、素直に称賛する。

 今なら聖剣持ちの勇者とも、まともに戦えそうだ。「絶斬黒太刀」も、そろそろ万全に扱えそうなのだが、まだイージアナのレベルには遠く及んでいない様子である。DEXとINTはもうすでにイージアナを上回っているはずなのだが

……こういう魔力操作には、ステータス以外の何らかの要素も関与するのだろうか。


 ところで別の話だが、どうやら称号などの省略表記は、他の人物を鑑定した時も適応されるようだ。アリーヤの加護と称号の後にも三点リーダーがある。

 まあそれはいい。問題なのは、アリーヤには加護が2つしかないのに、三点リーダーが付されていることだ。タップしても何も起こらない。

 どうやら省略されてなくても、全ての項目の末尾に三点リーダーがついてしまうらしい。これは仕様のミスだな。次の機会、女神さんに直してもらおう。


「祈里、ちょっと良いですか?」

「ほいほい。何よ」


 俺の方に来たんだから、何か俺に聞きたいことか報告したいことがあるのだろう。考察をやめて彼女に向き直る。

 ちょっと焦った様子で、アリーヤは言う。


「件の貴族なのですが、見覚えがあります。ライジングサン王国でのパーティーの参加者です」

「え、マジで?」


 もう一度千里眼で確認してみる。

 うーん、この豚みたいな顔、確かに見覚えがある。「映像記憶」の中から、一致するものを探してみる。

 ついでに鑑定。



シュテルク・グレーステ

人族 人間


HP 115/135

MP 224/244

STR 211

VIT 160

DEX 12015

AGI 26

INT 13920


加護

なし…


称号

旅貴族 マッカード帝国伯爵 豚貴族…


 なんじゃこのDEXとINT。他の数値はカスみたいな数字なのに……。

 んで加護が「なし…」ってなんだよ。そんな所まで三点リーダーつけてやるなよ。哀愁漂うじゃないか。


 ……んで、顔と名前の方は分かった。あれだ。隣国の勇者の……伊達正義だったか?の鑑定をしようとしたとき、間違えて鑑定してしまった豚だ。あの時は名前しか見てなかったが、こんな尖ったステータスだったのか。


「旅貴族ってのは?」

「あの豚は、マッカード帝国の国家魔動具技師で、現在の魔動具技術を牽引している存在なのです」


 アリーヤに聞いた話を要約すると、技術を買われて名誉爵位をゲット、領土を治めるかわりに技術提供よろしく、とそんな感じか。それで、各国を渡り歩いて魔動具技術を伝えて回っているということらしい。


「国交に制限をかけていたライジングサン王国も、魔動具技術が生命線であったため、あの豚に自由出入国許可を与えたのです。なんなら取り込もうとさえしてましたから……」


 アリーヤが苦い顔で言う。ていうか「あの豚」て。随分と口が悪いな。


「それで、その貴族がここにいるのが、なにか問題なのか? お前は髪色も目の色も変わっているんだ。早々気づかれることはないし、気づかれたとしても他人の空似で通せないか?」

「……あの豚は、元私の婚約者候補の一人だったのです。ライジングサン王国があの豚を取り込む策の一環で」


 えぇ……。年齢離れ過ぎて無いか? 見たところあの豚貴族は白髪だし。魔動具で染めてるのかもしれないが。


「殆どの候補は私の容姿と性格を目の当たりにして、あちらから断ってくれていたのですが、あの豚に関しては珍しくも私を気に入ったようでして……裏から手を回して、あちらから断るよう仕向けるのは、本当に苦労しました」


 そんなに嫌だったのか、あの貴族との結婚。


「ですので、もしかしたら目と髪色が変わっていても、気づかれる可能性があります」

「……とはいえ、姿を見せないわけにも行かないだろう」


 聞いている感じだと、話は順調に進んでいる。豚貴族が所有する別荘に、今夜は泊まることが出来そうだ。その上出立の際には、馬車と馬をくれるとか何とか。

 いや、厚遇されすぎだろう。やっぱり暗殺メイドが手を回した線が濃いな。豚貴族もマッカード帝国の貴族だし。


「勘付かれても、他人の空似と言って誤魔化すしか無さそうだな。一応昼に使用可能なスキルの一つに、《詐術 Lv.10》を入れておいた。余程のことがなければ多分騙せる」


 それにまあ、屋敷で一泊する際に、豚貴族含めた面々に催眠かければ万が一にも大丈夫だろう。


「会うしかありませんか……」

「どんだけ会うの嫌なんだよ。あの豚貴族の何がそんなに嫌なんだ?」

「容姿です」

「正直だなぁ……」


 デブだっていい漢は居るんだぞ。









──マッカード帝国、ボンド砦──



 ボンド砦、その地下室の石壁にカタカタと声が響いた。


「ククク……狂信者共は『神の怒り』とやらで突然死したようですがぁ、未だに儀式・・の方は滞りなくできるようで安心しましたよぉ」


 ネオンは抑えきれぬ笑いを漏らす。彼の前には、龍斗の体が寝かされていた。背中にはドラゴンのような翼が生えている。人間であった彼の体は、既に魔人となってしまっていた。

 突然金属製の扉がノックされ、ある女性の魔族が部屋に入ってきた。


「ネオン様……声が廊下まで聞こえていましたよ」

「おや、ナトゥーリじゃないですかぁ。それは失礼……そこまで大きな声を出していたつもりはないのですがぁ、どうやら声が漏れやすい構造のようですねぇ。人間達ももう少し考えて作ってくれればよいのですがぁ」


 ため息をつくネオン。実はこの地下室は捕虜を収監するための部屋であり、声が漏れるのは仕様なのだが、今は魔人化の儀式のための部屋として使われていた。

 人間を魔人とするのに必要なのは、魔法や技術ではなく、儀式、祈祷なのである。そしてその儀式の一環には、魔人となる対象者の動きもあるので、結果として合意が必要となる。

 ナトゥーリはチラリと龍斗の姿を見て、呆れたように言った。


「この勇者、本当に魔人にできたのですね。よく騙せたものです」

「ククク……これで敵方の勇者が一人減り、逆に我々の戦力を増強できましたぁ。本人曰く魔族を軽く殺せるとの事ですのでぇ、魔人となり力を増せば、その戦力は計り知れませんねぇ」

「本当に軽く殺せるほど強いかは疑問が残りますが……既にフローリンが殺られたことを考えれば、妥当かもしれませんね」

「しかし、そのフローリンを倒した勇者も、我が催眠の手に掛かりましたのでぇ、敵方のパワーダウンは甚だしいものでしょう」

「流石、ネオン様です」


 実際には、勇者は突然倒れたのであるが、ネオンは自分の功績として説明していた。事実、ネオンは召喚魔法と共に催眠系の魔法にも精通する、闇魔法の魔法使いである。そのため部下は素直に彼の言を信じ込んだ。

 元々、魔族達は『神の怒り』により混乱していた。ネオンの部下は幸いにも無事であったが、そこでさらに原因不明で勇者が倒れる事態があれば、更に混乱を期す可能性がある。しかしこの戦場は、拙速を尊ぶ。混乱を鎮めるのに時間を取られるよりは、勢いで戦場を終わらせる方に勝算があったのだ。


「ところで、この魔人化した勇者に対し、催眠にかけないという約束をしていたようですが、本当ですか?」

「約束はしましたねぇ。勿論嘘ですけどぉ」


 魔人化した人間に対する催眠、それは使役するという目的もあるが、同時に種族が変わったことによる拒絶反応を無理矢理抑え込むという目的があるのだ。


「騙したのは悪いですがぁ、まあ、裏切るのは変わりありませんし、大丈夫でしょぉ。ここまで来たなら同じ事ですよぉ」

「魔人化しさえすれば、こちらのものですしね」


 ナトゥーリはクツクツと笑い、龍斗の体を見下ろした。

 呼応するように、ネオンも下顎骨を揺らして笑う。


「取り敢えず勇者が起きた瞬間に、催眠をかけますよぉ。作戦はそのままで行きましょうかぁ。敵方の戦力は、今が最低値です。明日、総攻撃を仕掛けますよぉ。ナトゥーリ。準備をお願いしますねぇ」




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なにやら書籍化するらしいとか噂を聞きました

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