怒涛のエピローグ


 レギンの街、南門。


「……行くのか」

「うん。神様の信者として、神様が何を望んでおられるのか、知らなければどうしようもないしね」


 ファナティークは曖昧に笑いながら、俺にそう言ってきた。


「君のやったことは許せた事じゃないけれど、今は君逆らうことは出来ない。だから本当の神の信者となった暁には、神の名の下に神罰を下しに行くよ」

「は、上等だ」

「じゃ、またね」


 短く別れを告げると、ファナティークは召喚したユニコーンに乗って、レギンの街から出る街道を走っていった。

 その姿を門の付近で見守った後、アリーヤがぽつりとこぼす。


「私、彼女はこのまま私達に付いて来る流れだと思ってました」

「……俺もそう思っていた」


 テントの中で起こったエラーというのは、彼女の事であった。

 かなり手をかけて、しかも彼女には特別に言葉責めもしてやったというのに、「精神干渉魔法」に不完全ながら抵抗したのだ。


 面倒くさい事ではあるが、同時に興味深い事でもあった。

 そのため、龍斗の時と同様に、俺のことを口外しない等の催眠をかけたまま、保護しておいたのだ。


 いくら「精神干渉魔法」に抵抗していたとは言え、あの惨状に神を否定されて言い返せなかったのだ。いつかは覚醒するかと思っていたが、それまでは心の頼りどころもない中、無気力に俺達に付いて来ると思っていた。


 というかそういう流れだった。ラノベなら確実にヒロインの一人になってハーレムの入り口となるレベルのフラグだった気がする。


 だが彼女は別行動、つまり旅に出ることを選んだのだ。


 俺にハーレムフラグは立たないらしい。


 彼女曰わく、神の真意を知るため、ほんとうの神官になるため、旅をするのだという。

 まあまともな奴が聞いたら、もう一回聞き直すか、鼻で笑うような話だ。

 いくら求道者でも道標もない中、荒野を迷いなく突き進めるなど正気の沙汰ではない。

 というかやろうとしていることが、教祖のそれだ。


 ……本当に、後々面白くなるかも知れん。全く興味深い奴だ。







 魔物暴走スタンピード(笑)の騒動から数日。レギンの街の情勢は激動した。

 教会組織が街から消えたのである。


 まず数日前の騒動で重鎮と英雄が消えた訳だ。単純に組織として崖っぷちである。

 その上、教会のこの街における権威が失墜した。上手くやれば、命を省みず街を救った亡き英雄に云々と口実を垂れて、丸め込めたかも知れない。だが重鎮が消えていたことで、残された下っ端神官にそんな迅速かつ柔軟な対応は不可能だった。

 代わりに街の住人のケアをしたのが冒険者ギルドである。冒険者ギルドに信用が傾いても仕方がないのかも知れない。


 まあしかし、それだけなら聖国の教会本部から人材が派遣されて、権威の立て直しを計るって所だっただろう。

 なにせレギンは聖国にとっても、教会にとっても重要な場所だ。

 辺境でありながら、街道の中継地という謎な立地。

 そして教会にとっては、神官騎士にとっての憧れの場である。

 ある程度無理をしても、確保しておきたい土地だ。


 だがここで問題が生じた。教会の援軍の後に冒険者ギルドからも冒険者が派遣されたのだが、その冒険者が裸の教会重鎮やら女性神官騎士やらを目撃したのだ。

 それだけは何とかしようと教会は動いたのだが、何故か「教会は強化合宿と称して乱交していたのではないか?」という下品な噂がまことしやかに囁かれるようになったのだ。


 その上、噂の拡大が加速する加速する。

 音速で広がった噂を、幹部を失った教会はどうにも出来ない。本部から人材派遣しても後の祭りだ。


 レギンの教会には本部の人間も居た。

 その中で「強化合宿」が看過されていたのは、見て見ぬ振りをしていたからだ。というかあんな穴だらけで大規模な話、本部が関与していない訳がないのである。

 このままこの街の教会を本部が支援すれば、教会全体、引いてはリーン聖国まで影響が及ぶ。レギンの教会に捜査が入れば、すぐに何かしらの証拠は見つかるだろう。


 よって教会本部は、「聖光の石の管理不届き、紛失」という名目でレギンの教会を潰した。

 即行で教会の建物を取り壊したのである。

 云わばトカゲの尻尾切りと言ったところか。

 まあレギンから完全に教会勢力が消えても困るから、小さい教会を後々新しく建てるらしい。


 ……ちなみに、「強化合宿と称して乱交していたのではないか」という噂を流し、加速させたのは他でもない俺です。

 夜に民家に《隠密》と「転移」で侵入し、住民を起きしなに「精神干渉魔法」で催眠して、噂を流させるだけの単純な作業です。

 能力が暗殺者向きと言ったが、工作員向きでもあるな。


 証拠は残していない、というか「精神干渉魔法」でごり押しして消したつもりだが、まだ見逃している可能性が僅かだがあるのだ。

 しかし教会が潰れたことで、証拠の類は消え去った。その上騒動と噂を収めるため、聖光の石の盗難の捜索は後回しになった。

 晴れて事件は迷宮入りと言うわけだ。


 もうこの街には用がないので、宿も引き払って、すぐにでも立ち去る予定である。

 だが、どこでもいいのだが、次の行き先を全く決めていない。


「出来るだけ強いモンスターがいる所に行きたいな」


 いや、別に「オラつええ奴と戦いてぇ」とか思っていない。強いモンスターが居たところで「わくわくすっぞ!」なんて事はない。強敵がいたらわくわくするかもしれないが。


 強いモンスターが居るところに行きたい理由は、単純にレベル上げの効率化である。

 正直もう、このあたりのモンスターじゃあ効率が悪すぎるのだ。どうせ一撃で殺せるなら、レベル1のモンスターよりもレベル15くらいのモンスターの方が効率が良いに決まっているのだ。


「辺境レベルで物足りないとなると、場所は限られますね」


 顎に手を当てて思案しながら、アリーヤは言う。


「どこか当てはあるか?」

「人間の都市に限りますと、ここよりも上があるとは言え、五十歩百歩という感じですね」


 だよなぁ、五百歩位は欲しいところだよなぁ。


「魔族の土地なら、魔物も強いですよ?」

「魔族に挑むために力をつけようって話なんだが……」


 神の前に魔族と戦う方が現実的であり、イレギュラーでも無い限りその順番でいくべきだ。

 魔族の土地に行くのは、少々時期尚早だろう。


「やっぱり駄目ですよね……うーん……」

「その手前とかはどうだ? 魔族の土地周辺も、魔物が強力だったりしないか?」

「魔族の土地に接した国となると……ドイル連邦の、ギャリ辺りでしょうか?」


 ギャリ、か。

 確か先代勇者の伝記の後半で出てきた村だったかな?

 近くに町でもあればいいが。


「確かに魔物は強力ですが、少々問題が」

「問題?」

「まず、ここからかなり距離が離れていることですね」


 まあ国を一つ横断することになるからなぁ。

 俺が全力で走れば、時間はあまり掛からない気がするが。多分音速超えられるし。


「次の問題は、辺境も辺境なので、ドイル連邦に入ってからほとんど途中に町村が無いことです」

「それは何とかなるだろうな」


 食糧などの一般的な旅における問題点も、影空間一つあれば解決である。

 レギンにたどり着くまでに野宿をしなかった事の問題点は、俺の昼の脆弱さにあったのだが、今はかなり解決している。

 昼間のステータスも今や、召喚されたときの夜間のステータスを遥かに超えているのだ。守ることに専念すれば何とかなるだろう。

 野宿を繰り返しながら旅をすることは出来るだろう。


「最後に、これが一番の問題ですが、ドイル連邦は魔族の土地との国境付近と首都周辺に入場制限がかけられています」

「ん? 戦争中でもないのにか?」

「ドイル連邦は魔族の土地と接しているため、常に戦時下にあるような状況なのです。防衛ラインを確固たる物とするため、限られた交易商人、ドイル連邦からの紹介を受けた者しか出入りできません」

「となると、難しいかねぇ」


 俺単独なら幾らでも侵入できるだろうが、アリーヤが問題である。

 アリーヤは魔法に長けているが、隠密の技術があるわけではない。持ち前(?)だった影の薄さも、今はない。

 侵入者を感知する魔動具でもあれば、一発アウトである。


「……まあここにいても意味はない。とりあえずドイル連邦に向かうだけ向かうことにしよう」











「このような理由で、是非ともこの機会に、キリ様への貸しを返していただこうと考えている次第で御座います」


 いつも通りの恭しい態度で俺に言う、白髪の執事服を着た老人。

 俺が老執事と呼んでいる、武器屋の店主である。


 冒険者ギルドの、少し浮ついた雰囲気の中、俺はジョッキを傾けてを飲む。


 ふらっと冒険者ギルドに立ち寄った所、何故かまた老執事が中にいたのだ。

 そして俺に頼みがあると言うので聞いてみると、その内容というのが


「護衛依頼、ねぇ」


 という事であった。


 詳しく説明すると、元々護衛を請け負っていた冒険者パーティーの片方が、取り下げてしまったらしい。

 原因は、例の魔物暴走スタンピード騒動で、冒険者が緊張気味なのだと言う。


 今回の魔物暴走スタンピードは不明瞭な点が多い、と巷では言われているので、また魔物暴走スタンピードが起きても可笑しくないという状況なのである。

 この街ではないが、魔物暴走スタンピードが短期間で続けざまに起こったことがあるらしい。

 それ故に、一度魔物暴走スタンピードが起こると、しばらくは厳戒態勢が続くのだという。


 冒険者ギルドが妙に浮ついた雰囲気なのも、これが原因だ。


 いつ大量の魔物に襲われるか分からない護衛依頼、受けたくなくなる気持ちも分かる。

 結果、需要と供給に差が出来てしまったのだ。ほうしゅうがそのままでは割に合わなくなったわけだ。


 報酬を上げれば良い話だが、老執事にもそれほどの余裕は無いらしい。

 そこで、報酬はそのままの護衛依頼を、俺達に受けて欲しいのだという。

 信用できない俺達を雇うより、多少でも報酬を上げて、もっと信用できる冒険者に直談判してみてはどうかと思ったが、黒薔薇の二つ名を持つアリーヤがついてくるなら信用できるのだという。

 俺はおまけですか。


「俺達さえ雇えば足りるのか?」

「一パーティは残っていただけましたので。そちらも実力的には問題が御座いません故」


 ていうかこの状況で一つは下りなかったのか。


「日数は?」

「1ヶ月程かと」


 長いな。相当遠くまで行くらしい。


「行き先は?」

「ドイル連邦の、辺境を予定しております。場合によっては首都になります」


 何?


「その辺りは入場が制限されているんじゃ無かったか?」

「御心配なく。私は交易商人として入場資格を持っております。仮入場資格を限定的にキリ様に差し上げることも可能です」


 これはなんとも……

 渡りに船という奴だな。


「……ちょうど連邦に行こうと考えていたんだ。受けさせてもらう」

「有り難う御座います」

「いつからだ?」

「申し訳ありませんが、明後日に出発する予定で御座います」


 かなりギリギリだったようだ。

 間に合って良かったな。


 その後、明後日の集合時間と場所を確認し、彼には用事があるとのことで、そこで別れた。


 アリーヤに言っておかなければならない。さっさと宿に戻るとしようか。








 老執事の件を一通りアリーヤに話し終え、自分の部屋に戻る。

 諸々の準備は明日行うことにした。

 食糧はあちら持ちらしいが、吸血鬼としては血も欲しい。道中狩ればすむことだが、念のため明日の内に魔物を狩りまくり、影空間内に保存しておくことにした。


 宿は明日主人に引き払うことを話し、朝出て行くと同時にチェックアウトという形にする。


 夜になったので、ステータスを再確認だ。神官騎士を何人か捕らえ、血を吸っておいたから新しいスキルを強奪したのだ。





高富士 祈理

魔族 吸血鬼(子爵級)

Lv.21

HP 15780/15780(+500+50)

MP 64233/64233(+5000+262)

STR 13367(+500+93)

VIT 19228(+500+61)

DEX 7419(+500+89)

AGI 12301(+750+79)

INT 16398(+1500+203)


固有スキル

《成長度向上》《獲得経験値10倍》《必要経験値四半》《視の魔眼》《陣の魔眼》《太陽神の嫌悪》《吸血》《子爵級権限》《スキル強奪》《闇魔法・真》《武器錬成》《探知》《レベルアップ》《スキル習得》《王たる器》《武術・極》


一般スキル

《剣術 Lv.9》《隠密術 Lv.10》《投擲術 Lv.10》《短剣術Lv.8》《飛び蹴り Lv.10》《詐術 Lv.9》《罠解除 Lv.6》《飛行 Lv.7》《罠設置 Lv.6》《噛みつき Lv.10》《跳躍 Lv.10》《回避 Lv.9》《姿勢制御 Lv.8》《糸術 Lv.8》《弓術 Lv.4》《杖術 Lv.3》《拳術 Lv.3》《棍術 Lv.3》《盾術 Lv.5》《刀術 Lv.3》《槍術 Lv.5》《射撃 Lv.3》《火魔法 Lv.1》《水魔法 Lv.1》《風魔法 Lv.1》《土魔法 Lv.1》《光魔法 Lv.1》《闇魔法 Lv.1》《魔力操作 Lv.1》《鎧術 Lv.5》《歩法 Lv.4》《暗殺術 Lv.5》《暗器術 Lv.3》《料理 Lv.4》《掃除 Lv.4》《洗濯 Lv.3》《運搬 Lv.3》《裁縫 Lv.4》《奉仕 Lv.3》《商売 Lv.4》《暗算 Lv.4》《暗記 Lv.4》《介抱 Lv.3》《策謀 Lv.3》《達筆 Lv.3》《速筆 Lv.3》《農耕 Lv.3》《並列思考 Lv.4》《速読 Lv.3》《手品 Lv.3》《酒乱 Lv.5》《性技 Lv.8》《思考加速 Lv.6》《空間把握 Lv.6》《宴会芸 Lv.3》《ペン回し Lv.3》《ボードゲーム Lv.3》《賭事 Lv.3》《強運 Lv.4》《凶運 Lv.4》《女難の相 Lv.3》《絵画 Lv.3》《演奏 Lv.3》《建築 Lv.4》《歌唱 Lv.3》《ダンス Lv.5》《宮廷儀礼 Lv.3》《ポーカーフェイス Lv.6》《反復横飛び Lv.3》《縮地 Lv.3》《早撃ち Lv.3》《二刀流 Lv.3》《緊縛 Lv.4》《ナンパ Lv.3》《ウィンク Lv.3》《作り笑い Lv.3》《我慢 Lv.3》《恐怖耐性 Lv.3》《痛覚遮断 Lv.5》《毒耐性 Lv.8》《魅了耐性 Lv.3》《熱耐性 Lv.3》《物理耐性 Lv.4》《寒耐性 Lv.3》《行動予測 Lv.5》《見切り Lv.5》《変身 Lv.3》《狂化 Lv.10》《神具 Lv.1》《召喚 Lv.1》《乗馬 Lv.1》


称号

魂強者 巻き込まれた者 大根役者 ジャイアントキリング クズの中のクズ スキルホルダー 殺戮者 殲滅者 無慈悲 無敵 進化する者 天災 創造者 暗躍者 神の敵対者




 まず此処数日の魔物狩りで1レベル上がった。

 神官騎士の吸血で増えたステータスはそれぞれ10以下だった。本当コスパ悪いな人間は。


 スキルレベルはそれぞれチョコチョコと上がっているのだが、正直分からん。スキルが多すぎて何にもわからん。

 次爵位が上がったら、女神様にスキルを整理してもらおう。そうしよう。


 そして新しく手には入ったスキル、《神具》と《召喚》だな。どうもレイブンの他にも神具を使える奴が居たらしい。

 まあ《神具》の方は使わんだろう。使う予定もないし、使える気もしない。魔法スキルと同様、全くスキルレベルが上がらなくても不思議じゃないな。


 《召喚》ってのは、召喚術の方じゃないらしい。あれは魔法であって、こっちは神官が使う不思議な神の力の方だからな。ファナティークがユニコーンを出したのがこれだ。

 うん。多分このスキルもお蔵入りだろう。というか召喚するための石みたいなのも無いし。


 そして謎の《乗馬》である。このタイミングでこれである。

 ライジングサン王国王城の貴族やら騎士やらを殺しまくった時にこのスキルを手に入れられなかったのが不思議だった。

 どうもこの世界で乗馬というのはあまり良く思われてないらしい。貴族の趣味にはならないようなのだ。

 馬に乗るのは、下賤な平民か、戦争へ向かう騎士か、というイメージがあるのだという。

 騎士を殺して手に入らなかったのは、多分乗馬以上に得意なことを全員が持っていたからじゃないかと思う。

 実際、このスキルを強奪した奴も、乗馬以外に得意な事があったようだ。

 ではなぜこのスキルを獲得できたのかというと、確率でスキルを二つ強奪できるようになったからである。

 そう、二つ目のスキルとして、《乗馬》を手に入れたのだ。

 こんな所にも爵位が上がった恩恵があるとはな。

 さらにスキル欄が複雑化することは、想像に難くない。

 早く整理する方法を見つけねば。


 あ、アナウンスは重宝してます。戦闘の間に、一々レベルが上がったか確認しなくて済むからな。


 称号に暗躍者と神の敵対者が増えている。

 暗躍者は、まあ、今回の騒動で暗躍しまくったからだろう。

 神の敵対者はうれしいな。ついに敵対したのか。そうかそうか。

 オラわくわくすっぞ!


 そういえば、スキル《狂化》でステータスが三倍になると言ったが、実際こんな感じになる。




高富士 祈理

魔族 吸血鬼(子爵級)

Lv.21

HP 47340/47340(berserk)

MP 192699/192699(berserk)

STR 40101(berserk)

VIT 57684(berserk)

DEX 22257(berserk)

AGI 36903(berserk)

INT 49194(berserk)




 《狂化》している時は、右側にberserkがつくらしい。

 そして安定の超高ステータスである。既にVITだけならおっさん魔王を超えているという……。

 もしかして、魔族と今戦っても問題ないか?

 いやいや、一応慢心は禁物だ。慎重に慎重を重ねておくにこしたことはない……はずだ。


 《狂化》を解除すると、HPMPの減りも同じく三分の一に戻るようだ。この辺のシステムは、昼間のステータスと同じだな。


 さあ、確認も済んだところだし、魔物を狩りに行くとしようか。











 護衛の出発当日朝。

 俺とアリーヤは、集合場所であるレギン街南門へと歩みを進めていた。

 流石に朝早いとあって、それ程人は多くない。が、ゼロではない。結構レギンの朝は早いのだろうか。それとも、魔物暴走スタンピードが心配で寝付けないとかだろうか。


「もう一つのパーティって、どんな感じなんでしょうね?」


 隣を歩くアリーヤが、質問してきた。


「老執事から話は聞いていないが、まあ性格は予想できるな」


 現在のレギンの状況でも、安い報酬で断らないとなると……


「判断が出来ない馬鹿か、自分の力を過信している馬鹿か、困ってる人を放っておけない馬鹿か、新参者で情報収集もしない馬鹿か」

「……馬鹿ばかりですね。実際に実力があるというのは?」

「それなら他の条件の良い依頼を受けるだろう」


 それでもこの依頼を受けるなら、やはり困ってる人を放っておけない馬鹿だ。


「では、老執事……セバスチャンでしたっけ? 彼の知り合いという線は」

「……あり得るな。まあ老執事の話しぶりから、そんな様子は見受けられなかったが……」


 それでも、そんな奴が一番マシだろう。

 というか俺達だってそんな状況だし。


「……一応警戒しておくか、『千里眼』で確認しよう」


 視界を宙に飛ばし、南門へ向かわせる。

 南門にはそんなに人は居なかった。このレギンの状況で外に出る奴は少ないと言うことだろう。明朝だからという理由もあるだろうが。


 そして南門の手前に、停められている馬車を二つ見つけた。近くに白髪頭の老執事もいる。

 片方に荷入れをしているから、一つは荷物用、一つは護衛用と言うことだろうか。


 そして老執事と話し込んでいる女性が一人。脇に青年もいる。その様子を遠くから見守る二人……この4人がもう一つのパーティだろう。

 ハーレムパーティなのだろうか。女性陣三人は美人揃いだし……。するとリーダーは青年か? それにしては弱気な態度だな。女性陣に尻に敷かれている感じがプンプンする。


 老執事と話しているのは、怜悧な印象の美人だ。場違いなメイド服が目を引く。だが強キャラ感が凄い。

 そしてその横で、メイド服を控えめに掴んで、縋るように、自分のみを隠すようにしているナヨっとした青年。

 黒髪黒目で、少し小柄で……顔の凹凸が少ない…………


 …………い、や、な、予感がする!!





新井あらい 善多ぜんた

人族 異世界人

マッカード帝国勇者

HP 606/607

MP 583/583

STR 539

VIT 456

DEX 892

AGI 492

INT 675


加護

《ヒキニート》


称号

漫遊勇者 ハーレムの主(笑)





 …………なぜ! なぜ勇者が此処に居るっ!!


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