異世界ファンタジー部門
大賞
公女殿下の家庭教師
彼の人生はそれまで概ね順調だった。
貧しい平民の出だったが、努力を積み重ねた結果、並みいる貴族の子女達を押しのけ王立学校を次席で卒業。続く大学校も優秀な成績で卒業予定。
このままいけば、エリートである王宮魔法士の席は間違いない、そう誰しもが思っていた。
いやまぁ、落ちたんですけどねー。残念だなー。
ただ、故郷に帰りたいけれど汽車代もなし。
そんな中、教授に紹介されたのは――公爵家息女の家庭教師。何か胡散臭い気配が……。
これは、平凡な人生を送る筈が、思いがけず腐れ縁と教え子の結託する陰謀に巻き込まれ、強制的にのし上っていく男の物語。
……どうしてこうなった。
総評
異世界ファンタジーは現在の、特にWeb小説界隈においては読者の共通認識がとてもはっきりしているジャンルです。
だからこそ、コンテストに応募されていた各作品はオリジナリティを見せていこうという強い意識が感じられる作品ばかりでした。
そのなかで今回大賞を受賞した「公女殿下の家庭教師」は、魔法の設定をはじめとした興味深くかつ親しみやすい世界観のなかで、とにかく読者の「気持ちいい!」というポイントがすべて高いレベルでまとめられておりました。
特に主人公の行動によって影響を受けたヒロインほか登場人物たちの好意・信頼感、そこから生まれる関係性は、ストレートだからこそ万人が楽しめるものであると強く感じられます。
過去に類を見ない奇抜な作品であっても、読み手への配慮がなければヒット作へと辿り着くのは難しいでしょう。
その作品ならではの強みと、純粋なエンターテインメントとしての面白さ。
この二つが両立した作品をこれからもお待ちしております。
ファンタジア文庫編集部
SF・現代ファンタジー部門
大賞
レベルアップは人生を変えた(仮)
天上優夜は、昔からいじめられっ子だった。
彼は、大好きだった祖父の家で一人暮らしをしながら高校に通っている。
いつも通り、激しい虐めにあいながらも高校に通っていた彼は、数少ない癒しの時間である、長期休暇を迎える。
そして、長期休暇を利用して、祖父の家を掃除していたとき、今まで入ったことのない、祖父が生前世界中で集めてきた物を収納している部屋も掃除をすることに。
祖父の収集してきたものを整理しようとすると、その中になぜか、壁からくりぬかれたような扉があった。
好奇心からその扉を開くと、その先は――――。
ステータスという概念が存在する異世界と、地球を行ったり来たりする話。
総評
毎年個性豊かな作品が揃う現代ファンタジー部門。どんな不思議を混ぜるかによって、身近な世界が色合いを変えていく。そんな驚きに溢れた自由な発想が、それぞれの作品に詰まっていました。
そんな中、大賞受賞作となった「レベルアップは人生を変えた(仮)」は主人公の共感性が高く、新しい世界を覗く胸躍る感情が生き生きと描かれていた作品です。
学校にも家庭にも居場所がなく、それでも生来の優しさを失わない主人公は素直に応援したくなる魅力を持っていました。そんな彼は異世界に通じる扉を見つけ、異世界と現代世界を行き来しながら「レベルアップ」し、今まで浴びることのなかった賞賛を向けられるようになっていきます。主人公が無自覚のうちに成り上がっていく展開には分かり易い気持ちよさがあり、本作が大賞を受賞する決め手となりました。
自由な発想に読者を巻き込み、新しい世界を見せてくれる作品を、今後もお待ちしています。
ファンタジア文庫編集部
キャラクター文芸部門
大賞
美少女に転生してしまった、40代中年のおっさん主人公の逆襲劇
アラフォー社畜の美少女生活
ブラック企業で働く「アラフォー独身社畜」の主人公・浅川長束(あさかわ なつか)は過労により、ガールズバーでブッ倒れる。
斜に構えた性格の長束は「俺の人生、もっと美少女に生まれていたらイージーモードだったのによぉぉぉ!」と死に際に悪態をつくが、それがきっかけとなり美少女アイドルとして生まれ変わることになってしまう。
外見は美少女、しかし中身は40代おっさんのままの長束。
アイドルグループに入ることになった長束は、いきなり美少女たちと生活を共にすることに。
そこでは美少女たちとの密接なハプニングや、周囲から「かわいい!かわいい!」と溺愛される、という初めての経験ばかりに戸惑う。
いきなりの環境の変化に混乱する長束だったが、サラリーマン時代に培った社畜魂や処世術を駆使してアイドルグループを取りまとめ、アイドル業界で昇り詰めようと奮闘していく、のだが…。
総評
昨今、メディアや書店などでよく見かけるようになった「キャラクター文芸」という小説ジャンル。本部門は、男性向け作品、女性向け作品を含めて幅広く現代ドラマを包括した新設部門となります。
今回の応募作品については、社会人読者を主要ターゲットとした読み手の願望を充足する、個性豊かな作品がそろったという印象でした。もちろん作品の柱となるキャラクターの魅力も欠かせないジャンルであり、その点にも力を入れた応募作が目立ちました。
そんな粒揃いの最終選考作品のなか、頭一つ飛び出た応募作品が本作『アラフォー社畜の美少女生活』です。
主人公の中年男性は、ある日、突然美少女に生まれ変わり、しかもアイドルという周囲の羨望を集める存在として、人生をやり直すことになります。
社会人なら誰しもが思い描くであろう、青春時代への生まれ変わり、という願望を実現する物語設定。幅広い読者の共感を集める王道的アプローチをひと捻り、ふた捻りしたキャラクターの状況設定が特に目を引きました。
加えて、著者はもともと本職のアイドル活動もしており、その経験がふんだんに活かされたであろうお仕事モノ小説という側面も持っています。
個性際立つキャラクター文芸作品であり、多くの読み手に届けていきたい作品として大賞受賞に至りました。
今回は、男性を主要ターゲットとした作品が大賞受賞となりましたが、今後も男性向け、女性向け作品を問わず、社会人読者を魅力する作品を期待しています。
プライム書籍編集部
恋愛部門
大賞
該当なし
総評
恋愛部門は他の部門と比べてもターゲット・読者層が特に明確であるからか、丁寧に描かれた読み応えのある作品を多数応募していただきました。
選考委員による厳正な審査の結果、今回は当部門からは大賞作を該当なしとさせていただきます。
ただ大賞には一歩及ばないものの、秀逸なキャラクター造形によって生み出された、個性的な登場人物が織りなす世界観が非常に魅力的であったことから、『和桜国のレディ』を特別賞作品として選出させていただきました。
また、惜しくも受賞にはあと一歩届かなかったものの、中華風の後宮を舞台に様々な人間の思惑と感情が絡み合う『神鳥を殺したのは誰か?』は選考委員内でも特に話題となった作品です。
他にも最終選考では、『月の白さを知りてまどろむ』『かくして、少女は死と踊る』『【悲報】異世界へダイブした先で私を待っていたのは還暦を迎えた王子様だった件』『花はひとりでいきてゆく』『雪花妃伝~藍帝後宮始末記~』『死にかけ皇子と冥婚の后』といった作品に注目が集まりました。
第3回カクヨムWeb小説コンテスト 選考委員一同
ラブコメ部門
大賞
継母の連れ子が元カノだった
とある中学校で、とある少年と少女が出会い、気持ちを通じ合わせ、恋人となり、イチャイチャして、些細なことですれ違い、ときめくことより苛立つことのほうが多くなって、卒業を機に別れた。
さっぱりと晴れやかな気持ちで心機一転したはずが、二人は思いがけない形で再会する。
「僕が兄に決まってるだろ」
「私が姉に決まってるでしょ?」
「そういう自分勝手なところが嫌いだったんだよ、クソマニア」
「そういう自分本位なところが嫌いだったのよ、クソオタク」
親の再婚相手が連れてきた子供が、別れたばかりの恋人だった。再婚したての親に気を遣った二人は仲の良い義理のきょうだいを演じるが、しかし二人きりのときには、どうしても本当の関係を顔を出してしまうのだった。
総評
斬新な切り口から「ラブコメ」を魅せる作品、WEB媒体ならではの表現方法で読者を楽しませる作品など……一口に「ラブコメ」といえど、王道だけでなくWEB発らしい“個性”が集まる選考となりました。
そのなかでも今回大賞受賞となった『継母の連れ子が元カノだった』は、読者の期待を丁寧に拾いつつ、かつその期待を超える萌えシチュエーションを放つストーリー展開で読者・選考員の心を掴みました。
タイトルの通り、思わぬ形で再会を果たす元カップル。再婚したての親を気遣って仲の良いきょうだい関係を演じる一方で、二人きりのときにはぶつかり合い、でもやっぱりお互いが気になって……映像が想起しやすい筆致で展開される主人公とヒロインの掛け合いに、終始ニヤニヤが止まりませんでした。
読者を恋に落とすヒロインや、錯綜するキャラクターたちの恋愛模様など、ラブコメの楽しみ方は多種多様だと思います。そんな読者の“ラブコメへの期待”に、独自の切り口で応え、超えていく作品を今後も楽しみにお待ちしています。
角川スニーカー文庫編集部
ホラー・ミステリー部門
大賞
該当なし
総評
本部門ではジャンルに対して真っ向勝負を挑んだ意欲作が多く、例えばミステリーでは「歴史上の有名人物と隠された謎」という王道のテーマを作品に主軸に据えた上で、異世界転生主人公という流行の要素を取り入れて読者の敷居を下げた『ジャンヌダルクと武器商人 ~百年戦争の謎~』や、マンションへの不法侵入から始まるボーイ・ミーツ・ガールに「謎」の影がちらついて物語が加速していく『ハード・アンロッカー』。
またホラーでは『神送りの夜』や『呪物公園』といったジャパニーズホラーの系譜を受け継いだ正統派作品のほか、「ヤンデレ」を描いた『君があり得ないくらい好き好き好き好き好き好き好き好き。』など、スペースの都合上すべての作品を挙げることは難しいのですが、バラエティに富んだ候補作が顔を揃えていました。
一方で今回は「ジャンル」を意識しすぎたのか、作品の自由度やエンタテインメント性が縛られてしまった作品が多く見られたこともまた事実です。
ホラーの「お約束」であったりミステリーの「ルール」を遵守することは、ジャンル小説である以上もちろん大切です。あとはその土台の上で「読者に楽しんでもらうためにはどうしたらいいのか」を深く追求すると、より完成度の高い作品に仕上がるのではないでしょうか。
今回は残念ながら受賞作なしという結果となりましたが、応募作のもつ発想力や情熱はどれも本物と感じられるものでした。
次の機会では、今回よりも更に面白く新しい作品にお会いできることを楽しみにしてます。
第3回カクヨムWeb小説コンテスト 選考委員一同