概要
彼の遺体は全身に熱湯を浴びせられ、まるで拷問されたような無残な様相を呈していた。警察は、この男が自分の息子に行っていた虐待と同じ方法により何者かに殺害されたと断定、捜査を開始する。
捜査一課に配属されたばかりの刑事・徳島遼平は、この殺人事件の延長線上でひとりの少年と出会うが、やがて事件は奇怪な連続殺人事件へと発展していく。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!刑事物の王道。根底には社会派ドラマ。強い読み応え有り。
都内某所で発生する猟奇殺人事件。根底には幼児虐待問題が横たわっている事が殺害現場から容易に想像できる。
犯人探しと虐待問題への取組みと、一粒で二度美味しい作品です。
容疑者が次から次へと現れ、事件の構図は最後まで分かりません、きっと。
でも、犯人の主張と言うか、目指す事は読んでいて直ぐに理解できます。密かに犯人にエールを送りながら読み進めるのではないでしょうか。
登場人物の過半は幼児虐待に無縁とは言えない設定。事件に対する態度・行動も千差万別です。だからこそ、物語に奥行きが生まれ、重厚な作品に仕上がってます。
登場人物の設定を背景に事件の構図に戻ると、複雑の一言。詳しく書きたいけど、ネタバレ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この社会の闇を覗く勇気はあるか
近年問題視されるようになって久しい児童虐待、それをテーマにした刑事ものミステリーです。ものすごく重いテーマですが、それ引けを取らない文章の力強さ、構成の精緻さ、そして強烈なメッセージ性に圧倒されます。
そもそも児童虐待の問題は周囲が認知しながらも通報にまでなかなか至らないという課題があります。これは、躾との区別とか、いろいろなデリケートな要素を含みますが、それ以上にそれを直視したくない、なかったことにしたいという心理的な働きもあるように思われます。
この作品は違います。真正面からこの問題を見据え、表現します。それゆえ確かに、描写が生々しく、読み進めることをためらうようなパートもあります。だけ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!真に罰せられるべきは誰か。現代社会に問いかけるミステリーサスペンス
児童虐待に焦点を当てたと言う、読むにも書くにも勇気の要る作品だろうと個人的には思います。
児童虐待に何を思うのかは大抵の人が共通する事ですが、果たして殺意までも共通出来るか否かと考えると……一気に難しくなりますね。
子供を守る為に外道に堕ちるか、法に則って回りくどい道を進むか。現代日本でも児童虐待に関する法には幾つか不備が見受けられるので、今後の改善を切に願う他ないのが現状ですしね。
声にならない悲鳴を上げる子供の苦痛、子供を失った親と子供を殺す親、そして彼等と関わり合った関係者。それらが複雑に絡み合い……その結末は是非、自分の目で読んで頂きたいです。 - ★★★ Excellent!!!氷山の一角に見る崩壊の連鎖
他の読者様がレビューでも触れている通り、プロ作家の方と遜色の無い完成度の文章で綴られる本格ミステリーです。
私がこの作品について特にお伝えしたいのは以下の2点。
まず物語の根底にあるテーマ「児童虐待」について、ぼかす事無く徹底的に描ききっている部分を賞賛したいです。メディアでは決して報道しないであろう事実、そして人知れず必ずどこかで行われている、目を背けたくなる凄惨な現場を詳細に書き表す事で、テーマに重みが加えられています。
そして、虐待内容と同じ手口で殺害される親たち。その犯人特定の為に事件を担当するのが、かつて虐待を受け、心に受けた傷に苦しみ続ける刑事であるという点。
この設定が既に秀…続きを読む - ★★★ Excellent!!!どう過去に向き合い未来を変えるか
児童虐待という誰もが憎みながらも決して無くなることのない痛ましい事件を扱った刑事もののミステリー。
そのセンセーショナルな殺人や人の皮を被った獣と言うべき加害者達の表現が素晴らしく思わず殺人者を応援したくなるような義憤を湧きたてさせ、犯行と捜査、個性的な登場人物と読み手に飽きさせない仕掛けの多い読みやすい文章。
または残酷シーンの前では前述の加害者描写がしっかりとなされているためただのグロテスクシーンに終わることなくその残酷さの意味を考えさせることに成功しています。
表現、構成、文章と全体的な技術力が高く勉強になる作品でした。
『過去』という逃れられない呪縛に抗う登場人物は様々…続きを読む