氷山の一角に見る崩壊の連鎖

他の読者様がレビューでも触れている通り、プロ作家の方と遜色の無い完成度の文章で綴られる本格ミステリーです。

私がこの作品について特にお伝えしたいのは以下の2点。
まず物語の根底にあるテーマ「児童虐待」について、ぼかす事無く徹底的に描ききっている部分を賞賛したいです。メディアでは決して報道しないであろう事実、そして人知れず必ずどこかで行われている、目を背けたくなる凄惨な現場を詳細に書き表す事で、テーマに重みが加えられています。
そして、虐待内容と同じ手口で殺害される親たち。その犯人特定の為に事件を担当するのが、かつて虐待を受け、心に受けた傷に苦しみ続ける刑事であるという点。
この設定が既に秀逸なのですが、刑事として事件解決に臨む意志の奥に、虐待を受けた人間として、犯人の所業に見る僅かな呼応を振り払おうとする描写が奥深い。

中盤に差し込まれるある人物のモノローグは、犯人の姿を読者に想像させつつも、後のミスリードへと繋げる小説ならではの技巧に溢れています。
児童虐待が生み出す嘆きの声と歪んだ正義を書き切った、ただの娯楽作品では終わらない、驚異的な読み応えを持ったミステリーです。

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