どう過去に向き合い未来を変えるか

 児童虐待という誰もが憎みながらも決して無くなることのない痛ましい事件を扱った刑事もののミステリー。
 そのセンセーショナルな殺人や人の皮を被った獣と言うべき加害者達の表現が素晴らしく思わず殺人者を応援したくなるような義憤を湧きたてさせ、犯行と捜査、個性的な登場人物と読み手に飽きさせない仕掛けの多い読みやすい文章。
 または残酷シーンの前では前述の加害者描写がしっかりとなされているためただのグロテスクシーンに終わることなくその残酷さの意味を考えさせることに成功しています。
 表現、構成、文章と全体的な技術力が高く勉強になる作品でした。


 『過去』という逃れられない呪縛に抗う登場人物は様々な方法で怯え、怒り、悲しむ。それらの感情に血が通っているからこそそれぞれの行動は皆正しく皆間違っているとも言えます。例えば犯人が殺人を犯さなかったとしたら誰が犠牲になっていたのか。法と倫理の合間の答えのでない問題です。
 それでも彼らの彼らなりの答えを見つける姿は何処か祈りのようにも思え人というものを信じたくなる気分にさせてくれました。



読みやすいだけの文章や享楽的なテーマに逃げることのない重厚な作品。
これぞ小説です。もっと評価されるべき作品だと思います。

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