都内某所で発生する猟奇殺人事件。根底には幼児虐待問題が横たわっている事が殺害現場から容易に想像できる。
犯人探しと虐待問題への取組みと、一粒で二度美味しい作品です。
容疑者が次から次へと現れ、事件の構図は最後まで分かりません、きっと。
でも、犯人の主張と言うか、目指す事は読んでいて直ぐに理解できます。密かに犯人にエールを送りながら読み進めるのではないでしょうか。
登場人物の過半は幼児虐待に無縁とは言えない設定。事件に対する態度・行動も千差万別です。だからこそ、物語に奥行きが生まれ、重厚な作品に仕上がってます。
登場人物の設定を背景に事件の構図に戻ると、複雑の一言。詳しく書きたいけど、ネタバレになるので控えます。途中に別件の事件が発生するが、それも上手く回収されます。兎に角、最後まで気を抜けない。それだけを伝えておきます。
近年問題視されるようになって久しい児童虐待、それをテーマにした刑事ものミステリーです。ものすごく重いテーマですが、それ引けを取らない文章の力強さ、構成の精緻さ、そして強烈なメッセージ性に圧倒されます。
そもそも児童虐待の問題は周囲が認知しながらも通報にまでなかなか至らないという課題があります。これは、躾との区別とか、いろいろなデリケートな要素を含みますが、それ以上にそれを直視したくない、なかったことにしたいという心理的な働きもあるように思われます。
この作品は違います。真正面からこの問題を見据え、表現します。それゆえ確かに、描写が生々しく、読み進めることをためらうようなパートもあります。だけれども、この作品を読むことで、僕たちはこの問題を認識しておいたほうがきっと良い、そんな気がしています。
序盤の一文ですが「子供の頃に愛を与えないと、愛を与える存在には決して成長しない」という言葉が、読み終わった後もずっしりと残っています。
児童虐待に焦点を当てたと言う、読むにも書くにも勇気の要る作品だろうと個人的には思います。
児童虐待に何を思うのかは大抵の人が共通する事ですが、果たして殺意までも共通出来るか否かと考えると……一気に難しくなりますね。
子供を守る為に外道に堕ちるか、法に則って回りくどい道を進むか。現代日本でも児童虐待に関する法には幾つか不備が見受けられるので、今後の改善を切に願う他ないのが現状ですしね。
声にならない悲鳴を上げる子供の苦痛、子供を失った親と子供を殺す親、そして彼等と関わり合った関係者。それらが複雑に絡み合い……その結末は是非、自分の目で読んで頂きたいです。
他の読者様がレビューでも触れている通り、プロ作家の方と遜色の無い完成度の文章で綴られる本格ミステリーです。
私がこの作品について特にお伝えしたいのは以下の2点。
まず物語の根底にあるテーマ「児童虐待」について、ぼかす事無く徹底的に描ききっている部分を賞賛したいです。メディアでは決して報道しないであろう事実、そして人知れず必ずどこかで行われている、目を背けたくなる凄惨な現場を詳細に書き表す事で、テーマに重みが加えられています。
そして、虐待内容と同じ手口で殺害される親たち。その犯人特定の為に事件を担当するのが、かつて虐待を受け、心に受けた傷に苦しみ続ける刑事であるという点。
この設定が既に秀逸なのですが、刑事として事件解決に臨む意志の奥に、虐待を受けた人間として、犯人の所業に見る僅かな呼応を振り払おうとする描写が奥深い。
中盤に差し込まれるある人物のモノローグは、犯人の姿を読者に想像させつつも、後のミスリードへと繋げる小説ならではの技巧に溢れています。
児童虐待が生み出す嘆きの声と歪んだ正義を書き切った、ただの娯楽作品では終わらない、驚異的な読み応えを持ったミステリーです。
児童虐待という誰もが憎みながらも決して無くなることのない痛ましい事件を扱った刑事もののミステリー。
そのセンセーショナルな殺人や人の皮を被った獣と言うべき加害者達の表現が素晴らしく思わず殺人者を応援したくなるような義憤を湧きたてさせ、犯行と捜査、個性的な登場人物と読み手に飽きさせない仕掛けの多い読みやすい文章。
または残酷シーンの前では前述の加害者描写がしっかりとなされているためただのグロテスクシーンに終わることなくその残酷さの意味を考えさせることに成功しています。
表現、構成、文章と全体的な技術力が高く勉強になる作品でした。
『過去』という逃れられない呪縛に抗う登場人物は様々な方法で怯え、怒り、悲しむ。それらの感情に血が通っているからこそそれぞれの行動は皆正しく皆間違っているとも言えます。例えば犯人が殺人を犯さなかったとしたら誰が犠牲になっていたのか。法と倫理の合間の答えのでない問題です。
それでも彼らの彼らなりの答えを見つける姿は何処か祈りのようにも思え人というものを信じたくなる気分にさせてくれました。
読みやすいだけの文章や享楽的なテーマに逃げることのない重厚な作品。
これぞ小説です。もっと評価されるべき作品だと思います。
連続殺人事件の被害者は、子供を虐待していた親たち。
殺害方法は、子供に行われた虐待と同じ。
刑事・徳島遼平は、心の古傷を刺激されつつも、捜査に努める。
この小説で描写されている虐待は、本当に凄惨で。
(そういうの苦手な方は要注意。)
子供たちを守ろうとする行政の現場やNPOも頑張っているけれど。
どんなに酷い親でも、親権がある以上、簡単には子を引き離せない。
それこそ、加害者が死なない限り、間に合わないのか。
子供を苦しめる親なんて殺してしまえ。
言葉の上なら、そう思うことは頻繁にありますが。
しかし、実際に実行に移してよいものか?
犯人の動機は?
非常に考えさせられるミステリです。
お見事の一言です。ぶっちゃけ完璧と言えるほどの濃密で繊細な内容でした。心情描写が巧みなので読みながら感情移入してしまい、一話ごとに何かを思わずにはいられません。
虐待というテーマなので、次々と起こる殺人は正義の心からなのか、それとも何かメッセージが込められているのか……あれこれ考えながら読み進めていましたが、結末で待ち受けていたのは予想を越えていました。天晴れです。
そして、最後の方で登場人物の一人、上條が言った「心が強ければ倒れてもすぐに立ち上がれる」。こんな事件だからこそ、その一言には胸を締め付けられました。
ミステリーとしてもドラマとしても楽しめます。最高にオススメの傑作です!
気付いたら、一息に読み切っていた。
ちょっと眺めるだけのつもりだった。
時間も時間だし、やることがあるし。
そのはずだったのに、夢中になった。
虐待を受けていたと見られる幼い男の子が保護され、
彼を自宅に送ったことが発端で殺人事件が発覚する。
被害者の死体は熱湯を掛けられて酷い有り様だった。
子に為したのと同じ仕打ちを受けた上で殺されたのだ。
この1件を皮切りに、同様の手口の事件が続発する。
犯人の動機が全ての事件に共通するのは確からしい。
つまり「子どもを虐める親など死んでしまえばいい」
子どもを殺しかねない親なら害悪でしかないのだから。
一連の事件を担当する刑事、徳島の心にも古傷があり、
妻とも思いがすれ違い、苦悩を多忙でごまかす日々だ。
虐待を受けた子ども、児童虐待を監視する施設の職員、
義憤の罪に手を染めた犯人──各々が明かしていく真相。
無駄のない端正な文章で組み立てられたミステリーは、
明快な解決策の見えない社会的課題を読者に提示する。
決して起こってほしくない、けれど現実に起こり得る
悲しい事件の連鎖の果てに、希望はあるのだろうか。
残酷描写あり。
虐待描写あり。
読み始める前にその点は留意していただきたい。
児童虐待は、なまやさしい問題ではないから。
子供を虐待した親が、同じ虐待方法で殺される。
そんな連続殺人事件が起きたとしたら――?
こんな小説がweb小説として転がっていて良いのでしょうか?
たぶん、良いんでしょう。実際載っているので。
それというのも、しっかりとした構成力と筆力に驚かされたからに他なりません。
カクヨムに投下されたミステリーとしては、安定性といい、読み応えといい、クオリティはかなり上位に入ると思います。
ミステリーは、いかに荒唐無稽に見える「真相」でも、読者に信じさせた時点で成立するところが少なからず存在します。それはもちろん、解決に至るまでの道程や構成、伏線などが重要なので、そう簡単なことではないでしょう。
この小説はその辺りがきちんとしています。
個人的な難点を言うなら、作品として纏まりすぎているがゆえに、
オリジナリティというか、目新しさに欠けるところでしょうか。
半面、もしも本屋等で購入したものがこのクオリティであれば、文句はありません。
ストーリーの核である殺害理由の是非については、私は語りません。
そこから何を受け取るかは読者次第でしょうし、受け取るものは違って良いと思うので。
虐待を行っていた親が、その虐待のやり方と同じ方法で殺害される事件が連続して発生した。その事件を追う刑事、被害を受けた子供、とあることから家に虐待されていた子供を受けたアウトローな存在――様々な視点で事件の全貌が明かされていく。
キャッチコピーに書きましたが、この小説を読んで色々な意味で「心の痛み」について考えました。被害者は全く同情できず、むしろ加害者側に同調してしまう考えを持ってしまうような衝撃的な小説ですが、最後まで読むと、それもまた考えさせられてしまう――という、思わず唸ってしまう小説です。
話の内容や文章の上手さに思わず、商業作家様なのでは、と確認してしまう程に、この小説はレベルが高いです。
非常に話の内容が重いですが、本格ミステリが読みたい方、是非とも一読してみてはいかがでしょうか?
オススメです
1ページ目を開いてすぐに、これはとんでもない小説を引き当ててしまったかもしれない……との予感。そしてそれは、数ページ後に確信に変わっていました。
凄惨な事件に牽引される物語。まずそこに目を奪われます。
けれどそのセンセーショナルさに引きつけられるだけでなく、虐げられる弱者の叫び声が通奏低音のように作品内に流れる中、丁寧に描きこまれた登場人物たちの人間的背景や、そこに裏打ちされた感情・行動が、ストーリーに圧倒的な厚みと説得力を与え、さらにそれがほどよく硬質で淀みない文章とあいまって気づけば夢中で読んでいました。
虐待する人間への制裁としての殺人事件。果たしてそこに正義はあるのか。
親になる資格とは。親子のあり方とは。負の連鎖を止めることは出来るのか。虐待された者はどこに行き着くのか。救いはあるのか。
虐げられる人々の置かれる境地は、悲惨な暗闇。ですが、知らずに暮らす善良な一般人が突きつけられる問いもまた、重く容赦なく、軽々しく打開策など口にすることの出来ないもの。
簡単にカタルシスなど得られません。それが現実。
けれどそれでいて、厳しい社会の中に見え隠れする人々の小さな思いやりや優しさやが、わずかな光となって物語の隅々を照らしています。
重厚な本格的社会派ミステリーを読みたい人に、全力でおすすめです!