正義とは。救いとは。問いかける、重厚な本格的社会派ミステリー‬

1ページ目を開いてすぐに、これはとんでもない小説を引き当ててしまったかもしれない……との予感。そしてそれは、数ページ後に確信に変わっていました。

凄惨な事件に牽引される物語。まずそこに目を奪われます。
けれどそのセンセーショナルさに引きつけられるだけでなく、虐げられる弱者の叫び声が通奏低音のように作品内に流れる中、丁寧に描きこまれた登場人物たちの人間的背景や、そこに裏打ちされた感情・行動が、ストーリーに圧倒的な厚みと説得力を与え、さらにそれがほどよく硬質で淀みない文章とあいまって気づけば夢中で読んでいました。

虐待する人間への制裁としての殺人事件。果たしてそこに正義はあるのか。
親になる資格とは。親子のあり方とは。負の連鎖を止めることは出来るのか。虐待された者はどこに行き着くのか。救いはあるのか。

虐げられる人々の置かれる境地は、悲惨な暗闇。ですが、知らずに暮らす善良な一般人が突きつけられる問いもまた、重く容赦なく、軽々しく打開策など口にすることの出来ないもの。
簡単にカタルシスなど得られません。それが現実。
けれどそれでいて、厳しい社会の中に見え隠れする人々の小さな思いやりや優しさやが、わずかな光となって物語の隅々を照らしています。

重厚な本格的社会派ミステリーを読みたい人に、全力でおすすめです!

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