どこが面白かったかをうまく語れないくらい、すべてが好きだと感じた作品です。
スポーツや部活に熱く打ち込んだりするわけでも、恋愛にキュンキュン胸をときめかせるわけでもなく、日常を揺るがす大きな事件が巻き起こるわけでもない。
この物語は、『すこしふしぎ』なことが起こるだけ。それなのに、とっても特別なひと夏の世界が広がっているのです。
二十万字を超える長編ですが、謎が潜むストーリーが面白く、登場人物たちも誰もが魅力に溢れていて、そんなみんなの息遣いを感じる文章も読み心地がよくて、あぁこれが二十万字分も読めるのね、と数話読み進んだ後にしみじみ喜びを噛み締めました。
等身大の何気ないエピソードのひとつひとつが生き生きとしていて、それぞれの心の動きはその都度目を閉じて浸りたくなるほど瑞々しくて、みんなが昔からの友達のように愛おしくてたまらなくて。
だからこそ読み終わってしまった今、すごくすごく寂しいのです。
私はこの物語が大好きです。
ネタバレを恐れて抽象的なことしか書けませんが、愛する気持ちを記したくてレビューを書きました。そして、同じ気持ちを抱くお仲間がもっともっと増えたら嬉しいなぁと思っています。
物語のはじまりは、誰かの悪戯かと疑われるような荒唐無稽な手紙。差出人は「世界から存在を消された」という友人。幼馴染の二人組は、本当は三人組だった?
高校生の日常にかすかな波風を起こす、小さな不思議。
ここからして、なんだか胸がときめきませんか?
どこかにいる(いた)はずの、自分のことを百パーセント理解してくれる自分だけの友達。それは実在する人々とは違った魅力を持っていて、時には隣にいる親友や家族よりも身近で頼もしいもの。
人見知りで友達を作るのが苦手な少年は、次第にその手紙の差出人の存在を信じ、自分にしか見えない消えた友人を感じられるようになっていきます。
そんな幼馴染の変化を心配しつつも見守るもう一人の少年。
やがて二人の前に、本物の(?)三人目が現れて……。
田舎の学校に通う男子高校生の日常。幼馴染。夏休み。なんとも牧歌的でノスタルジックな雰囲気の中で、二人の少年の心の機微が繊細に、丁寧に、それでいて軽快に綴られていきます。
ところで、物語は二人の主人公の視点で交互に語られていくのですが、その話の運びに唸らされました。
一人称で語り手が変わる小説というのはどちらかというと食わず嫌いだったのですが(だったら最初から三人称でいいんじゃないの? と)、この作品ではその手法を上手く利用し、それでしか成立しない独特の物語運びになっています。
数ページ読み進めて「その」シーンに出会った時は、思わず拍手が出そうになりました。
読み終えた後、ちょっと昔の友達に会いたくなる。そんな素敵な一作です。
幼馴染の高校生2人組。彼らの元へ(実際は一人にだが)手紙が届く。その内容は「俺たちはもともとは3人でつるんでいたけど、事情があって、俺は存在自体を消されてしまった」というもの。
手紙を送ってきた「そいつ」は本当に存在したのか、それとも手紙自体誰かのいたずらなのか、というストーリー。
その「消えた3人目」が主題であり、設定はSF的なのですが、私としては、これは青春小説だと感じました。男子高校生の、友情の話。決して、難しい設定だの、科学的な話などは、出てきません。等身大の、どこにでもいるような、そして絶対どこかにいると思えるような、高校生たちの物語です。
初夏。男子校に通う幼馴染の二人の高校生のもとに、不思議な手紙が届く。
自分たちは、実は「三人」だった?
高校生たちの会話や日常は楽しいです。
小学校時代の昆虫標本作りや、校庭の遊具でのごっこ遊びの思い出は、似たような遊びを経験していませんが私まで懐かしい気持ちになります。
但し、長い物語です。読み始めた一夜目は、途中で寝落ちしました。
でも、最初の手紙の謎が気になって、途中から出てきた「あいつ」も気になって、翌日の夜に続きを開きました。
そうして読み終えてみれば、彼らと過ごした「すこしふしぎ」に満ちた夏は、とても素晴らしい二日間でした。
有難うございました。
晴れた日に飴が降ってもいいじゃんね? 世界はきっと変で、楽しい
作者様からレビューを頂いたことをきっかけに読み始めた作品ですが、20万文字一気読みでした。この作品に★もレビューもついてないとか納得できない。というわけで、宣伝がてらレビューさせて頂きます。
物語は幼馴染の少年二人宛に「世界から存在を消されたもう一人の友人」から手紙が届くところから始まります。消されてしまった友人は「最初から存在しなかった」ことになっており、少年二人には当然心当たりはありません。ここから手紙の差出人探しが始まり謎が解き明かされて行く、と言う流れが王道パターンですが、本作はそうしません。放っておきます。そのうち、片方の少年にだけ消えてしまった友人が見えるようになり……という筋書きです。
ジャンル登録は現代ドラマですが、自分的にはSFかなと感じました。ガッチリしたサイエンスフィクションのSFじゃなくて「すこしふしぎ」のSF。個人的に「すこしふしぎ」系のSFはその面白さをSF要素に頼れず、人物をいかに魅力的に書くかで成否が決まる高い筆力が要求される分野だと思っているのですが、その要求を本作の作者はしっかり越えてきました。
とにかく人間の描写が卓越しています。本筋に関わらないキャラ含めて「設定だけ用意して都合よく配置された」と感じるキャラクターが見事に一人も居ません。全員に血肉が通っています。生きています。嫉妬を覚えるほどに巧みです。
そのキャラクターたちが生み出すストーリーは大きな一つの起承転結で構成されています。「起」パートの強烈な引き込みから、「承」パートの生き生きとしたキャラクター描写を経て、ハイライトの「転」パートへ。泣けます。僕は泣きました。詳しく語るとネタバレになるので語れませんが、そこは是非、読んでください。きっと泣くと思います。
作者様からレビューを頂かなければ、僕は本作に触れることは無かったでしょう。本当に勿体ないことです。このレビューから同じような出会いを果たす人間が現れることを、強く祈ります。