概要
僕の右手が鍵を開けられるからだ。
僕の居場所がどこにもなかったからだ。
僕の隣に紫苑がいたからだ。
鍵を開け、火を点ける。金を得て、部屋を与えられる。
僕は最低のスクラップアンドビルドを始めた。
※カクヨムコンの応募文字数に対応するため、短編を加筆しました。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!淡々とした語り口で、無味乾燥な日々との別れを言うのだ。
淡々とした文章で、非日常を語る作品。
主人公はピッキングを得意とする少年。そんな少年と同じ高校の少女が出会うことから、物語は進んでいく。しかし、この少女との出会いが、主人公がさらなる非日常へ歩み出すきっかけとなる。
淡々と語られる日常へはもう戻れない少年と少女の出会い。しかしこの出会いは主人公と少女の心に、緩やかではあるが確かな想いを芽吹かせる。互いを必要とすることは、弱さなのか。何かを手に入れれば、失うリスクを伴うから、これまで諦めていたことにしてきたのか。
「事実の軽量化」という言葉が本作には繰り返し登場する。使えば使うほど、その言葉の意味が剥落して行き、砂礫と化すかのような、乾…続きを読む - ★★★ Excellent!!!リズミカルな語り口で紡がれる、痛くて優しいボーイ・ミーツ・ガール
解錠の能力を持つ“僕”は、その能力を使って近所の空き部屋に潜り込むことを繰り返していた。するとある日、空き部屋で時間を潰していたところに紫苑と名乗るクラスメイトがやって来て…?
全編を通して無駄のない構成で、こんな些細なことが後に繋がるのか!と膝を打つほど。意味のないエピソードはない、という事はプロの漫画家さんなども言う事ですが、正しくその通りと感じる構成力がお見事。
語られていることは非常に(精神的に)しんどい事が多かったように思うのですが、何度も繰り返されるフレーズや言葉の数々がとてもリズミカルで、それがまたよかった。また、ライトノベル(という扱いにしてしまっていいのかは分かりませんが)…続きを読む - ★★★ Excellent!!!少年と鍵と火と悲惨と文学
火を放つシーンにそそられた、というと人は顔をしかめるだろうか。
第一の放火シーン、主人公と同調したからか、息をつめて文字を追い、頭の中で組み上げられた画を見た。確かに見えたと思うし、もしかしたら異臭も感じたかもしれない。
並ぶ言葉は平易で、火は魔術がかったものではなく当然意思もなく、ただ淡々と〈日常〉が燃える様が描かれる。
悲惨な少年には解錠の技があり、解錠の技が邂逅を呼び、ふいに得た安らぎは悲惨さに呑まれる――ガソリンを撒いた部屋に火の手が上がる情景は、そのごく自然な成り行きを暗示した。
悲惨は物語になる。しかし、悲惨だけでは人は耐えられない。彼が呑み込まれてしまうかは、どうか、読み届けて…続きを読む