III - 05
翌日。
「ベッド、上と下どっちがいい」
「……え……それは、えっちな質問かな……?」
「アホか、二段ベッド買うからどっちがいいかって話だよ」
「別に、二段ベッドなんか買わなくても私は床で寝るからいいよ」
「夜中に起きたときに踏みそうで面倒なんだよ。上か下かどっちかにしろ」
「……じゃあ、上で」
学校を欠席し、そんな話をしつつ、買うものを買って部屋に放り込んだ。
まとまった金はあったが、こだわりはなかったので、説明書も読まずにプラモデルを組み立てるような適当なものだった。買うものを買い、必要に応じて組み立てる。合板に木ねじを差し込んだり、ボルトを締めたり。置くものを置き、敷くものを敷き、消耗品を消耗する準備をした。
他人の家を炭と灰にして、自分の部屋を組み立てる。
最低のスクラップアンドビルド。
こうした落差があまりに大きいと人間はおかしくなると聞いたことがあったが、奇妙なことに僕はこの状況はバランスがとれているなという気がした。他人を消費して、自らを成立させる。元から僕はまともになり損ねている。逸脱したものを元に戻すには、もう一度逸脱させなきゃならない。
梱包材を叩き潰し、僅かに生じたゴミを束ねて部屋の組み立てを終える。
部屋を組み立てた後、僅かな着替えを取りに互いに家に帰った。
僕が家に帰ると、父親はいなかった。
ボストンバッグに服を詰め、部屋に戻ってくる。
部屋に戻った僕に、一足早く帰ってきた紫苑がバッグを提げたまま言う。
「家に帰ってみたらタイミング悪く例の男がいてね、ほんと間が悪いなぁ」
片方が上がると片方が下がる。
他人の家が燃え、僕の部屋が組みあがる。
僕の家から父親が消えて、紫苑の家には母親の客が現れる。
僕が解錠を身に着け、僕の母親が自殺する。
上がった分と下がった分は大抵釣り合わない。
あらかたの作業を終えると紫苑は二段ベッドの上段に腰かけ、梯子の上から足を投げ出して笑った。僕の目線の高さで爪先を揺らし、天井を見上げて蛍光灯の傘を撫でながら、あっという間だったね、と紫苑は言った。埃が拭われた傘の表面に細い指の跡が残り、紫苑の指先が少しだけ黒ずむのが見えた。
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