少年と鍵と火と悲惨と文学

火を放つシーンにそそられた、というと人は顔をしかめるだろうか。
第一の放火シーン、主人公と同調したからか、息をつめて文字を追い、頭の中で組み上げられた画を見た。確かに見えたと思うし、もしかしたら異臭も感じたかもしれない。
並ぶ言葉は平易で、火は魔術がかったものではなく当然意思もなく、ただ淡々と〈日常〉が燃える様が描かれる。
悲惨な少年には解錠の技があり、解錠の技が邂逅を呼び、ふいに得た安らぎは悲惨さに呑まれる――ガソリンを撒いた部屋に火の手が上がる情景は、そのごく自然な成り行きを暗示した。
悲惨は物語になる。しかし、悲惨だけでは人は耐えられない。彼が呑み込まれてしまうかは、どうか、読み届けてほしい。

もう一人の少年、キーマンである「岸田」の物語もぜひいつか読んでみたい。

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