概要
不可思議な力をもてあます少年と、かつて英雄と呼ばれた男の、ひとときの物語。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!その物語は黄金色に輝く
いつもと違う帰り道で素敵なカフェを見つけた時、古本屋でずっと探していた本に出会った時、森の奥できらきら光る石を拾った時。
そんなときめく、心躍る、これから何か素敵なことが起きるのではという瞬間、誰にでも覚えがあるのではないでしょうか。
プロローグを読み終えた時、まさしく私の胸は高鳴りました。
ほんの一ページで心を奪われたのです。だからこのレビューを読んでいる方も、クリックしてさっさと読み始めるのが時間の効率化です。
……まあ、もし、お時間がある方は、この駄文にお付き合いください。
どれほどの高鳴りだったか、車に乗り込んで運転を始める前にちょっとだけと読み始め、運転して、やっぱり途中でスーパ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!くすみ澱んだ色の溢れる世界に惑う少年を包む、やわらかに澄んだ黄金の光
孤児院で育った少年ルカ・クルスは、とある印刷所の徒弟となるために、孤児院のある村イヴォンリーを離れ、女王陛下の都グラウベンを訪れます。
その街で彼が目にしたのは、緑に赤、オレンジに、茶——ありとあらゆる暗く澱んだ色の洪水でした。彼は人の周りに色をオーラのように見ることができるようです。
その色に立ちすくみ、身動きが取れなくなってしまった彼を救ってくれたのは、柔らかな金色の眼鏡をかけた、琥珀色の瞳を持つ、アーサー・シグマルディでした。
彼はルカを引き取ってくれた上に「一年間弟子のふりをしてほしい」と申し出、事情がよくわからないまま、二人の奇妙な共同生活が始まります。
魔法使いのよう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!センスある言葉選びと比喩表現がピカいち!
斡旋された工房に向かう、孤児院出身の少年ルカ。持ち手のとれかけた鞄の中には、スケッチブックと帆船の絵の描かれたマッチ箱。
道中、人々の発する「何か」に当てられ気分を悪くするが、これを助ける女王陛下の国の紳士。彼は、黒いローブのかわりに上等なコートをまとい、魔法の杖ならぬ古ぼけた旅行鞄を手にさげた魔術師。(以上、ほぼ本文より引用)
少年は紳士に弟子入りし、共に過ごすうちに...という筋立てだ。
とにかく、言葉の選び方ひとつひとつが、優しく、温かく、英国情緒たっぷりで。込められた愛情に、つい笑顔で読み進めてしまう。
センスが良いながら、平易なテキストで、読みやすくもあるので、まずは一話、お試し…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ずっとこの世界に居続けたくなる作品です。
端正で美しい文章。読み手をほっこりとさせる温かみ。
ウィットに富んだ会話に外国の本を読んでいるような感覚をおぼえたり。ユーモアの中に一抹の寂しさを感じたり。
洗練された、とはこういう筆致のことをいうのでしょう。
そのスムーズな語りのおかげで、続きからでもすうっと物語の世界に戻っていけます。
丁寧に選ばれた言葉で綴られる、孤独な幻術師とその弟子の物語。
シニカルでどこか諦観のある「先生」の、静けさの内に何か強いものを秘めた佇まい、そしてそんな先生に拾われた「僕」の純粋な視線。
この二人が一緒にいるだけで親密さと切なさの混ざった独特の雰囲気が生まれます。そこへ絡むわき役たちも人間味があり、この…続きを読む