ずっとこの世界に居続けたくなる作品です。

端正で美しい文章。読み手をほっこりとさせる温かみ。
ウィットに富んだ会話に外国の本を読んでいるような感覚をおぼえたり。ユーモアの中に一抹の寂しさを感じたり。
洗練された、とはこういう筆致のことをいうのでしょう。
そのスムーズな語りのおかげで、続きからでもすうっと物語の世界に戻っていけます。

丁寧に選ばれた言葉で綴られる、孤独な幻術師とその弟子の物語。
シニカルでどこか諦観のある「先生」の、静けさの内に何か強いものを秘めた佇まい、そしてそんな先生に拾われた「僕」の純粋な視線。
この二人が一緒にいるだけで親密さと切なさの混ざった独特の雰囲気が生まれます。そこへ絡むわき役たちも人間味があり、この二人を巧みに引き立てています。

あたかも自分までそこへいるかのような、ずっとこの世界に居続けたくなるような穏やかな吸引力のある作品です。
物語はまだこれから次の展開が待っていますので、今からでもぜひお手に取って、秘密が紐解かれていくのを見守っていただきたいと思います。
すべての年代、性別の方にお勧めしたい素敵な作品です。

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