柊圭介

「男装の麗人」「東洋のジャンヌ・ダルク」または「東洋のマタハリ」。キャッチフレーズがつけばつくほど本人の実体が見えなくなっていく。この作品を読んで川島芳子という人にそういう印象を抱…続きを読む

過去にとらわれたまま動き出すことのできない主人公が出会ったのは、おしゃべりでやたらとテンションの高い不思議な「旅人」。彼女にかかれば幕張の街が異世界のような冒険の舞台へと変わる。ま…続きを読む

短いけれど一行一行に込められた意味がある。 さりげない会話や景色の裏に、不器用に生きる者の悲哀と誇りがにじみ出ている。 外側の綺麗さばかりを求められる上昇志向の社会の中で、汗にまみ…続きを読む

現代ドラマやホラー、SFと色んなジャンルの小さな物語が集まった短編集です。1話が約1000文字という短さですが、それぞれの内容が示唆に富んでいて、読者に考えさせる余韻を与えてくれま…続きを読む

とても恐ろしく、考えさせられる作品でした。世の中から「悪いことば」を消し去り、「いいことば」だけにすれば、果たして「いいせかい」が出来上がるのだろうか。 その言葉が消されてもその現…続きを読む

女性が働くことを良しとしない世の中で、それでも一人で生きなければならない孤独と困難はいかほどだろうか。 冒頭から主人公ロビンの置かれた境遇と、疲弊してすり減った心の痛みが伝わってく…続きを読む

失踪中の夫に団地妻、不倫、こってりとしたキーワードが並ぶ作品ながら、人生の機敏を感じさせる大人の小説です。 夫のいなくなった家庭を支える主人公の目の前に突然現れた昔の恋人。家庭不和…続きを読む

天狗に救われたことからあやかしの世界で契約結婚をすることになる人間の少女。家族や奉公先に恵まれず不幸のどん底にあった主人公文香は、あやかしたちの棲む世界にとまどいながらも、自分の居…続きを読む

没落貴族の令嬢と侮るなかれ、この主人公、なかなかに生活力のあるたくましいヒロインです。そしてまっすぐすぎるほどまっすぐな性格。契約結婚をした冷淡な陰陽師との温度差のある会話はおもわ…続きを読む

損料屋というのは今でいうレンタルショップだそうですが、その貸し出す品が蚊帳から下着まで多岐にわたっていてとても興味深いです。しかしこの「月見堂」では、モノだけではなく人の手もレンタ…続きを読む

ナチュラル・ハイという言葉が不穏な響きで全体を覆っているように感じる作品群。変わらないものへの憧憬と変わるものへの希望、叶わない願い、不条理、色んなエッセンスが柔らかい表現で描かれ…続きを読む

目に見えないけどすぐそばにいる、もう会わないはずの人たちの気配。 いつもの日常が続いているようなあたたかみに揺蕩い、ふと我に返るとそこには誰もいない。 読みながら現実と微睡みの境へ…続きを読む

こんな図書館があったら行ってみたい！ この作品を読めば誰もがそう感じてしまうはず。 のんびりと異世界ライフを過ごすはずが、住人たちと触れ合ううちに色んなアイデアを思いついて張り切っ…続きを読む

筆者選りすぐりの本を独自の視点で紹介、分析、解説していく、素晴らしく内容の濃いエッセイです。一作一作に対する情熱と愛情にあふれていて、圧倒されます。 難しい文学論ではなく、好奇心を…続きを読む

突然の父の死により四文屋というワンコイン屋台を始めることになった姉妹の商売奮闘記。商いは素人の二人が、ときに戸惑ったり苦しんだりしながらも、周りの人々に支えられて店を盛り上げていく…続きを読む

次々に湧き上がる謎と息をつかせない展開で、物語の奥深くにぐいぐい引き込まれます。過去と現在が交錯するにつれ、見えてくるのは「幸せ」とは何かという究極的な課題。 その答えは、読み終わ…続きを読む

一話完結の短編集ですが、お話ごとに色が違っていてどれも印象に残るエピソードばかりです。親しみやすい語り口でつい油断して笑ってしまいますが、よくよく考えると実はすごく怖いお話だったり…続きを読む

かつて一緒に芝居に打ち込んだ仲間と、彼らのそれから。 さりげなく流れるシーンとか、不意に放たれるセリフとか、そういう点と点が結びついて、彼らの関係やお互いへの気持ちという線が浮かび…続きを読む

詩のように、随筆のように自由に綴られている一編に、力強い人生賛歌が込められています。 生きていることは諦めることであり、重石を背負うことであり、ともすればそんな自分を冷笑することで…続きを読む

ひとつの現象があっという間に大衆化して流行っていくリアリティ。人間は社会的な動物ですが、その心理が突き詰められて究極のかたちで読者に見せられる。孤独感や疎外感というものが、もっと大…続きを読む

読み終わるのがもったいないくらい、江戸の情緒と人情のあふれる世界に浸りました。 長屋に住むやもめの浪人が、傷を負った若侍を助けたことから起こる人間の悲喜こもごも。堅物な主人公と、見…続きを読む

園児からのプロポーズを受けるウサギ先生。微笑ましいシーンの裏側には、新米男性保育士ならではの苦労があり……。 子どもを守る立場の大人が子どもに救われることもあるんだなとしみじみ感じ…続きを読む

「女である」というだけで門戸が閉ざされることや、男社会のコマとして利用される、というのは、今の社会でも往々にしてあることだと思います。女が王になることが忌まわしいと伝えられる世界で…続きを読む

短い物語の中に生身の感情がどろどろと湧き出ている。エゴ、狡さ、諦め、自虐。ここで描かれる人間の姿には、きっと誰しもが覚えのある痛みを感じるだろう。 笑顔で分かり合えるふりをしながら…続きを読む

見事な構成と臨場感あふれる描写で、主人公とともに江戸時代の人知れぬ里に連れ込まれるような感覚。 幻想的な遊郭という閉ざされた場所での、美しくも奇怪な空気感が読むごとに濃さを増し、そ…続きを読む

14歳で家出し、売春と放浪を重ねながら本当の愛を探した日々を振り返るノンフィクション。 ただ目の前にある欲求を満たすように刹那的に生きる日々。それでも何も満たされず、むしろ失ってい…続きを読む

思慮深く、どこかアンニュイで、強く、同時にあやうい。女のいろんな面を併せ持つヒロインが素晴らしく魅力的です。 後宮という特殊な場所で貴妃として君臨する主人公の淑華は非常に賢明で知的…続きを読む

生まれ変わりからの再会で恋をした幼馴染はなんと自分の高校の先生──という、一見分かりやすそうで実はなかなか展開の難しいお話を、流れるような文章でユーモアを込めて描かれています。 前…続きを読む

砂漠の国で実際に暮らすような生活感と、エキゾチックで美しい登場人物たち。そして彼らが繰り広げる壮大な冒険。複雑に絡まりながらどんどん解き明かされていく人間模様。 エンターテインメン…続きを読む

時代を超えて掲載され続ける「国語の教科書」の名作たち。それらをひとつずつ取り上げ、あらすじとともにその魅力を分析する、とても面白い試みのエッセイです。 世代によって掲載されたお話は…続きを読む

筆者の近代女性シリーズはそれぞれとても個性的で読みごたえがありますが、本作も主人公の人生をなぞるようなリアリティに満ちた作品です。 家族というものの在り方や血の繋がりとは何だろうか…続きを読む

アメリカの南北戦争を舞台にした作品ですが、この物語の主人公は当時まだ立場のずっと弱かった女性。二人の若い姉妹が歴史の渦にみずから飛び込み、翻弄されながらも自分たちのできることを貫く…続きを読む

フレデリックとは誰でしょう？それはすぐに分かります。 教育虐待ともいえるピアノの練習で疲弊する少年の前に現れた「ともだち」。憧れの人が自分に語りかけ、励ましてくれる喜び。一番の理解…続きを読む

哲学、なんていうと堅苦しいのですが、筆者の話はそういう机上の理屈みたいなものではありません。普段の生活に転がっているちょっとした矛盾や疑問の種がどんどん枝を伸ばし、深く根を張り、色…続きを読む

この作品を読み始めたとき、spineとはどういう意味だろうと考えました。英語では背骨や脊髄、棘、あるいは勇気といった意味合いもあるようです。 プロの画家である長男の浩詩、愛人の子と…続きを読む

高校二年生の少女が現在進行形で語る自分の人生。たった十数年の人生にしては重たすぎる時間を送ってきた彼女が、家族や先生、友、そして大きな存在である飼い犬との日々を通して、生きるための…続きを読む

おそらく読者がハッピーエンドを期待して読み始めるであろう、幼なじみの両片思い恋愛ストーリー。これは二人の距離が縮まったり離れたりするじれじれをモヤモヤしながらじっくりと味わい、いか…続きを読む

人生にはいくつもわかれ道があって、そのときに自分が選んだ道を後悔することはできないようになっている。それは大きな決断だけでなく、日常の些細な出来事の中にも存在する。たとえその結果が…続きを読む

河鍋暁斎という名前を知らなくても一気に物語に吸い込まれます。 作中に登場する色んなモチーフとそれぞれのエピソードがとにかく濃くて、腹の中の画鬼がみるみる膨張して絵師の筆を走らせる様…続きを読む

ある男の起伏に富んだ一時期を切り取った、非常に人間味のある一編。他人に流されるままに店を始めた男が、不意に成功して孔雀になる滑稽。うまく行っているときはおだてあげ、落ち込んでいくと…続きを読む

Ｒ＆Ｂシンガーの夢を追う若者を飾らず等身大に描いた青春ドラマ。名曲に彩られた人間味のあるストーリー展開と、ヒロイン沙羅の瑞々しくしなやかな感性が魅力的です。 浅黒い肌を持つ自分の出…続きを読む

画家と花火職人、ふたつの違う道でありながら、美を追求するという点では同じものが流れていると思います。 それぞれが自分に正直であろうとするから余計に反発する。でも一番の理解者はもしか…続きを読む

本っ当に面白いです。促音を真似したくなるぐらい面白いです。息もつかせないまさかの展開。そう来るかというオチ。 誰もが面白い物語を求めている社会への皮肉も効いています。 看板に偽りな…続きを読む

短い言葉で綴られた二十の歌の中に繊細な機敏が込められた作品です。 夜の商売や社会の片隅に生きる人たち。そんな大人の世界を見つめるひとりの少女が、また自分も大人になっていく。その人生…続きを読む

物語も文章も、登場人物それぞれの思いも、どれを取ってもすべてが美しい。4人の高校生が織りなすひと夏の青春が、とても繊細なタッチで描かれています。 彼らの過ごす時間とその風景は、まる…続きを読む

純然とした俳句集なのですが、どこかブルースのような、ロックバラードを聴くような哀愁と苦味を感じます。 ペーソスの中にふと混じるおかしみや優しさが味わい深く、一句ごとに立ち止まって思…続きを読む

閉店を控えた街の本屋さんと、そこへ集う人々を描いたオムニバス式の物語です。 短いエピソードの中に、それぞれの事情や思いが深く感じられ、ひとりひとりが色んなものを背負って生きているの…続きを読む

テンポがよくユーモアのセンスが抜群で、読みながらついつい笑ってしまう。ニートで引きこもりで体重88.8kgの娘を思うお父さんの気持ちが、切なく、滑稽で可愛らしい。 娘がハマっている…続きを読む

きっと心を温めてくれるはず。 おばあちゃんの九州の言葉も、生活の匂いを感じる小道具も、さりげないひとつひとつのセリフにもぬくもりが溢れています。 人を救ってくれるのはこういう人との…続きを読む

回想列車、というタイトルに惹かれて読み始めたのですが、思い出に留まらず、読者にもなにかを投げかけるような余韻が残る素敵なエッセイです。 学校生活や社会で子供心に浮かんだ疑問や理不…続きを読む