もう結構いい年齢の人にしか通じないけれど、ナイトライダーのキットとマイケルの関係に憧れたものです。人工知能と人間のバディで事件を解決していく、あの軽妙なやり取りにワクワクしてたあのころ。
この作品は、AIと人間が協力する未来に憧れを抱いていた気持ちも思い出させてくれました。
主人公アキトはAIエンジニア。フリーでやっていける程度には実力も経験もあるけど、私生活は脱力系。そんな彼を支えるのがドローン型AIのメメ(ちょっとオカン)。
ネットミームがウイルスに汚染されて人に感染する……というのは荒唐無稽に思えるけど、今後リアリティの追求のために脳に直接作用するような端末が生まれるであろう事を考えると、どんどん電脳世界と現実の境目は失われるだろうなと予想がつきます。
だから、こういう事件が実際に起こり得るかも? ということを前提にお話を読むことになり、リアリティを持って二人のトラブル対策を見ていくことになります。
現在から地続きの世界観ということもあり、ネットやAIに関わる課題なども、作品で提示されるトラブルと現代はリンクしていて、それもまた身近な問題提起とも感じられます。
テーマを深堀するとかなり難しいことを扱っているように思うのですが、お話自体はアキトとメメの軽妙なやり取り、コメディタッチの展開で、とにかく楽しくワクワクしながら読めます。でも問題解決に至るたび、AIとの付き合い方について考えさせられる部分があったり。
人間(AI含む)関係の部分のドラマ性も高くて、本当に面白いです!
AIエンジニア・アキトの生活を支えるのは、完全自律式のドローン型AIエージェント・メメ。起床時の健康状態を教えてくれたり、やるべきことをアナウンスしてくれたりして、何かと頼りになります。ちょっぴり辛辣なところはご愛嬌。
フルリモートでできるフリーランスに転向してからの最初の依頼をもぎ取るべく、メメが提案した広告が呼び込んだのは、ネットの拡散で起きたミームトラブルの案件で――
AI音声認識アシスタントや生成AIなど、話しかけるだけで人間の要求を叶えてくれる便利な技術。その恩恵が得られなかったころの生活を思い出すことは、今や難しいものになってきているでしょう。
SFのジャンルである本作の世界観に、現代社会が追いつくのも時間の問題かもしれません。どきりとしてしまう現実味は、年代問わず深く刺さりそうです。
ミームって何ぞ。トラブルシューターも分かるようで分からないかも。そんな状態で読み始めた私でも、専門用語やカタカナにくじけることなく読み進めることができたのは、うまく謎と向き合わせてもらいながらキャラの個性にくすりとさせられる素晴らしい構成のおかげだと思っています。
素材は良いにもかかわらず自分の見た目に無頓着な三十代男性・アキトと、「我が主人〈マスター〉」呼びながらも辛辣可愛いメメの織りなす絶妙な空気感がたまりません!
すずめさまの描かれる歴代除霊ものバディ作品はどれも最高でしたが、こちらのSFエンタメ短編連作も令和を代表する名作として強くおすすめしたいです!