主人公の明原星子――没落貴族である彼女に、ある日、結婚の話が舞い込んでくる。
相手は陰陽師の加茂不知火。
彼は美男子だが、どこか厭世的な雰囲気を纏っていた。
星子は母の乳母をしていた松江に強く反対されたので、結婚の話を断りに行くのだが、そこで加茂家の当主に、結婚と言っても二年間の契約結婚で、その後は自由に生きていいという旨を告げられる。
松江はそれを聞くと、態度を変え、二人は結婚をすることになった。
そして初夜の日を迎えるのだが、そこで星子は不知火に「この婚礼は心を交わすものではなく、決して床も共にしない」
という内容の話をされてしまう……。
このように、前途多難な感じではありますが、先が気になる始まり方をする作品です。
どうして不知火はこんなにも星子に冷たいのか。
そういう謎がその理由を知りたいと思わせ、物語の中へ深く入り込ませてきます。
始めは冷たかった不知火ですが、一緒に町へ出かけたりしていくうちに、星子との絆が深まり、態度が柔らかくなっていきます。
その仲良くなっていく過程が微笑ましくて、読んでいて楽しいです。
練られた世界観と設定で、良質な和風ファンタジーであるだけでなく、恋愛小説としてもクオリティが高い、素晴らしい作品です。是非ご一読を。
少女向けの陰陽師もの。
没落した貴族の家の娘がそのふしぎな力を乞われて「二年」という期間限定で嫁いだ先にいたのは、若き陰陽師。
心を交わすことも、床を共にすることもないと云われ、さらには、
「笑うな」
夫となった不知火から厳命されてしまった、星子。
不知火が星子を迎えたのは星子が秘めている巫女の力を求めてのことだった。
ひらがなしか読めず、傾いた家を助けるために野菜を育てて売っていた荒れた手をはずかしいと思いながらも、星子は帝のためにはたらく不知火の力になろうと決意する。
出来ることは庭に大根を植えること。
「そういうことはしなくてよろしい」
つれない態度の不知火だが、何事にもまっすぐな星子にしだいに興味を抱き、星子に漢字や術を教えてくれる。
星子はそれが嬉しくてたまらない。
不知火はそんな星子に告げる。
「契約結婚でも、夫婦は夫婦だよ」
そんな時、不知火があなたと結婚したのはあなたの力が必要だから、「それだけですよ」と星子に教える安倍家の男が現れる。
安倍家の男は、不知火が星子と結ばれようとはしない理由を星子に教え、人の心が分からぬ不知火をすてて阿部家にお越しくださいと星子を誘惑する。
しかし星子はそれを拒む。
「人の心は分からなくても、自分の心は、分かりますから」
詳しい描写はほとんどないのに、セリフがきらきらと生きていて、くっきりと情景が眼に浮かぶのは、文章が優れているからだ。
さらさらと書かれてあるようにみえても、必要な知識がちゃんとしのばされており、無駄がないことに愕く。
お堅くもなく、騒がしくもない、品のよさが丁度いい。
そんな少女小説をお求めの方にお勧めしたい。