とにかく面白い作品です。
史実と思わせるような重厚な歴史の描写とそこに暮らす人々の姿、対照的に人智を超越した存在の孤高にして人間的な姿。この二つの世界が巧みに混ざりあって独特のストーリーが展開されます。
作者様のもう一つの傑作『けして泣いてはならぬ』もそうでしたが、おとぎ話とは違う歴史の現実世界・生活を描写しながら、神にも似た存在がリアリティたっぷりに描かれます。まさにこの作者様にしか書けないだろう傑作だとおもいます。この想像力、巧みな文章力で積み上げられた世界に驚嘆することでしょう。
今回の作品では構成がまた絶妙でした。遊牧民族で医師として暮らしている『ポーリャ』、彼女が治療中に語る不思議な思い出話、昔話から物語がスタートします。もう、これだけでも十分不思議で面白い話なのですが、ここから第二部に入りさらに物語は深みと広がりをみせます。
第二部は国を追われた王子とその護衛を旅の仲間に、彼女の思い人への長い長い、そして意外にも血塗られた旅路が描かれます。この二人のキャラクターがまたなんとも味わい深い。いろいろと涙腺を刺激してきます。さらに二部では迫力ある激しい戦い、訪れる異国の色鮮やかな情景描写がこれでもかと展開されます。
これをくっきりと、時に情感たっぷりに描写してくる文章のすごさ!もうほんと凄いな、としか言いようがありません。なにより読んでいて楽しいというのが、また素晴らしいと思います。
そして激しく、数奇な運命に導かれた旅の終焉。
ポーリャが迎えるラスト、彼女が見る光景がまたなんとも感動的です。
バラバラだった現実と神話が交わる瞬間の不思議さと美しさは、ぜひとも読んで楽しんでいただきたいところです。
まぁいろいろ書きましたが、とにかく文句なしに面白い!
そして主人公のポーリャが本当に魅力的な女性なんです。
是非この物語世界に触れて楽しんでほしいと思います。
まずは章タイトルをご覧になり、少しでも心惹かれた方はぜひ本文を開かれることを強くお勧めいたします。
各章で移ろう舞台ごとに、そこに息づく文化を体感しつつ、一方で物語が導く幻想的な世界をも堪能できることでしょう。
第一章は主人公ポーリャが医師として身を寄せる草原での遊牧民族の暮らしと、彼女が語るはるか北の都での温かく幸福な思い出が交互に語られます。並行して進む物語は互いにまったくの別世界のようですが、ある日草原でポーリャの過去に繋がる出来事が起き、そこで彼女の生きる目的と、彼女の秘密の一端が明らかになります。ポーリャは、かつて北の都で孤児であった自分を拾ってくれた家族、なかでも「カフカ」という青年を探して長い長い間、様々な土地を流離ってきたのでした。
第二章の舞台は一変し、政変によって都を追われた幼いが聡明な太子と、恐ろしく腕は立つものの血路を開く以外の術を知らない護衛の主従が、その逃避行の最中にポーリャに出会い、旅の道連れとなって太子の母の生国を目指します。ポーリャもまた、そこに「カフカ」がいるという噂のために、その地に赴くのでした。
太子を狙う刺客の刃を掻い潜り、あるいは陰謀の魔の手を躱しつつ行商人と共に砂漠を渡る旅路は、第一章とは打って変わって冒険活劇といった趣があり、この章だけでも一つの物語が成立するのではと思えてしまう読み応えです。
第三章、砂漠を越え、世界の都と謳われる地にやってきたポーリャ。溌溂とした彼女のおかげで、物語は常にどこか明るく朗らかな雰囲気がありますが、そんなポーリャが胸に秘める、「カフカ」を探す目的と決意とは。
ぜひ、ご自身の目で見届けていただきたいラストです。
ポーリャをはじめとする、登場人物たちが流す涙の美しさが深く印象に残りました。
心地良く美しい筆致が綴る人々の日常や個性的な登場人物たちに心を寄せ、また手に汗握る旅路を辿り、さらには夢現の狭間を揺蕩うような余韻をも味わえる、不思議な魅力に満ちた物語です。
狼の遠吠えの、生薬の香りの、生きている人々の息遣いが聞こえてくるような文章にあっという間に引き込まれてしまいました。
第一章はポーリャという一人の女性の口から語られる過去と共にナランツェツェという少女の日々が交互に紡がれるのです。
この物語は夢の中にあるようで、その時代を生きた人達の生活と思いが綴られています。
静かで静謐で、どこか生々しい呼吸の音すら聞こえてきそうな文章と共に。
ポーリャという女性の語る過去にナランツェツェと同じく引き込まれていくような感覚があるのです。
深く深く引き込まれたかと思えばナランツェツェの生きる世界に日常に引き戻される。交互に紡がれる物語は現実と物語の中の境界線が曖昧になりそうなほどに夢中になります。
第二章は幼い主人、阿怜を護る男性、鉄戈と共に旅をするポーリャの姿が書かれます。
ポーリャの目的は「カフカ」に出会うこと。第一章で語られたカフカをポーリャは捜しているのです。
目的は違えど三人は共に旅を続け、様々な人間との出会いを繰り返します。幼いながらも大人顔負けの阿怜と腕の立つ護衛である鉄戈とポーリャのやり取りが私はたまらなく好きでした。
そうして迎えた終わりに私は思わず息を吐きました。美しい物語でした。確かにポーリャという女性が生きていた物語なのです。
この物語を読むならば、どうか、最後まで見届けて欲しいと思いました。
息遣いを感じる文章に魅せられながら、遠い楽園の語りに想いを馳せて。私はこの物語に出会えたことを嬉しく思います。
ひと言でいうと傑作です。美しい装丁で一冊の本になって欲しい。
東と西の文化が相まみえる広大な大陸を舞台に、たったひとつの思いを胸に旅をするヒロイン、ポーリャの魅力。そして壮大な物語を彩る描写と表現の深さ。作品を形づくるすべてに唸らされます。
第一章はまさに千夜一夜を思わせるおとぎ話のような楽園の回想と、草原の民の明日をも知れない命との隣り合わせの日々が綴られます。過去と現在を浮遊するような筆致で、ふたつの世界に同時に連れ込まれます。
そして第二章のスペクタクル逃亡劇。幼い主人を愚直なまでに守り通す男の忠義と少年の聡明さが光る冒険譚では、太刀を振るうような豪快さと権謀術数の生臭い人間ドラマが、ポーリャの機知によって軽妙なユーモアを失わずに描かれます。
そして最終章。一貫してヒロインが胸に抱き続けてきた楽園とは。そしてそのラストは。
作品のタイトルが心に染み入ってくる余韻がすごいです。遥かな時と大地の果てに描かれる世界をぜひ体験してください。一行一行を味わい尽くして読みたい、素晴らしい文学です。
かつて『楽園』で暮らしていたポーリャという一人の女性の、長い長い旅の物語です。
騎馬民族の娘ナランツェツェが、夜毎ポーリャから故郷の話を聞かせてもらう第1章。
ナランツェツェの三人称視点とポーリャの一人称視点とを境目なく行き来する語り口がおそろしく心地よく、遊牧民の暮らしと遠い『楽園』の暮らし、まったく違う二つの文化を軽やかに飛び越える感覚を体験しました。
第2章では、皇帝の子・阿怜と彼を連れ出した凄腕の護衛・鉄戈が、ポーリャの旅の道連れとなります。
阿怜を狙ってくる刺客を躱しつつ、それぞれの目的で進んでいく三人。この三人組での道中が、本当に面白いのです。幼いながらも非常に聡い阿怜に、不器用ながらも悪鬼のごとく強い鉄戈、そして世渡り上手なポーリャ。
かつての家族『カフカ』に会うために旅するポーリャは、それでもこの二人の運命にしっかり関わっていくのです。
本作、いろんなものを飛び越える物語だなと感じました。
土地も、文化も、時間も越えて。
世界の歴史の陰に、実はポーリャがいたのではないかとさえ思える、マジックレアリズムのような。
こうした物語を魅力的に描き出す筆致は、圧巻のひとこと。哀しくも美しいラストシーンの余韻まで素晴らしいです。
作者さまにしか書けない、唯一無二の読み口。ぜひ多くの方に味わっていただきたいです。
本日完結予定の本作ですが、先立って第一章を読み終えた時点でのレビューを記します。長編をお手に取る際の参考になれば幸いです。
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草原の遥か向こうに陽が落ちた後のゲルの中、幾重もの夜長に語られる遠い場所のお話。
その瑞々しい記憶の中のポーリャは、遊牧の民のナランツェツェと同じくおてんばに感じられ、とても親近感が湧きます。同時に、今は大人になったのだなとも。
そして草原での暮らしにとって馬は欠かせない存在。
族長の娘であるナランツェツェは誰よりも上手に馬を乗りこなします。
(個人的には丙午の今年にかけて、馬が登場するお話というのも何だか嬉しかった)
遠くも近くもない場所に野生動物が居て、傷や病を癒すには薬草を採ってくる必要があって、水は汲みに行かなきゃだし、祭りとあれば盛大に羊たちを屠る。
そんな羊たちを養うには広々とした草原が必要。だから彼らの暮らしには、暮らしを守るための戦いも含まれています。それがここでの日常。
このお話で印象的だったのは、出会いと別れの比重でしょうか。
別れが呆気ないほど、共に過ごした時間が幾重にも折りたたまれ、時を経るほど色鮮やかに浮かび上がるということ。出会いよりも別れの方が、圧倒的に記憶にこびりつくのだと、あらためて思い知らされます。
これは人生を賭して旅をする者のはなしです。
また表意文字である漢字を使った、印象的な言葉の表現にも、ぜひご注目ください。
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【全篇読了後の追記2026.02.09】
第2、3章のあらすじについては、既に他の方がレビューされているので、こちらでは印象の話など。
最も移動距離の長い第二章は疾走感の中で、登場人物たちの思惑やアクションが入り乱れ、どんどん次が気になります。
その中で幼くも才知の光る阿怜と鬼神じみた強さの鉄戈の間にある、信頼関係を超えた、人間的な「情」が印象的でした。そこにどこか腹の座った感じのポーリャが混じることで、なんとも言えない絶妙なトリオとなるのが、またいい。
そんな長旅の中で、未来のことについて話す際に繰り返される「インシャッラー」という言葉が、全篇を読み終えた後にも不思議と蘇ってくるようでした。
次いで第三章でも面白い出会いがありました。これだけ果てしない旅をしてなお、世間は狭いのかもと。
そして再会を果たす復楽園。
カフカと彼を取り巻く彼らが現実に存在するという不思議さ、それ以上にポーリャの存在の不思議さが浮き彫りになったように感じました。
旅の道連れは異なる時間軸で生きる者たちが、偶々時を同じくしたようにも。
あっという間のおよそ20万字。もの凄い充実感です。