よみがえったモーセの目を通して見えてくる現代の「十戒」とは

渋谷のホームレスとしてよみがえったモーセという設定がとても個性的で物語に入りやすく、どんどん読み進められます。
モーセは都会の雑踏のあちこちで十戒の破られる音を聞き、復讐という名の救済へ向かいます。が、それはけっして痛快なハッピーエンドではありません。むしろモーセの目を通して世の中の不条理と傷に直面させられるのです。
十戒が破られる音は、人間の心が壊れる音。そして壊れた心の闇にはいとも簡単に蛇が入り込む。人の心を操る悪魔としての蛇の言葉は直線的で、人間の心の脆さ弱さを見せつけられます。
それぞれのエピソードに即した聖書の人物を召喚するところなど、聖書に造詣のある筆者ならではの語りで、社会問題と十戒をうまく組み合わせ、ホラー仕立てのエンターテイメントとして昇華されています。
現代の社会に生きる者に色々な問いを投げかけてくる作品です。

その他のおすすめレビュー

柊圭介さんの他のおすすめレビュー1,587