損料屋を営む主人公・千世の元には、町で暮らす人々の多様な相談事が舞い込んできます。その一つ一つは決して大事件ではありません。店で貸し出す日用品のように、人の営みの中に自然と混ざりこんでしまう困りごと。だからこそ厄介なのです。
人の暮らしあれば悩みあり、それは相談を聞く側の主人公も同様で……。ままならない人間同士の描写に引き込まれます。そして最後に行きつくのは、本当の大事件!
ひたむきに頑張る女主人の千世、彼女を支える奉公人たち、共に生きる深川の人々、ずっと側で見守る(元)婚約者。登場人物の息遣いまで感じさせるような人間ドラマはもちろんのこと、江戸時代の風俗や町人の暮らしも丹念に描かれた時代小説です。「片見月」の意味と共に味わってみてください。
損料屋というのは今でいうレンタルショップだそうですが、その貸し出す品が蚊帳から下着まで多岐にわたっていてとても興味深いです。しかしこの「月見堂」では、モノだけではなく人の手もレンタルするようで……。
月見堂へ飛び込んでくる依頼が少しずつ繋がっていき、ひとつの大きな人間模様になっていく構成が面白いです。そして主人公の千世を中心に個性的な月見堂の面々がお話を盛り上げます。
武家の出身でありながらレンタルショップの女主人として暮らす千世の凛としたかっこよさと、その内面にある複雑な心境、もと許嫁との関係など、飽きさせない要素がいっぱいです。そしてラストには思わぬ展開も。
深川を舞台にしたせつなくもあたたかい人情劇、ぜひお楽しみください。
歴史時代ジャンルといえば、王侯貴族や戦国武将、幕末の志士などにスポットをあてた物語が多いように思います。
私は、そうしたお話も大好きですが、こちら『深川損料屋月見堂 ~片見月~』を読ませて頂いて、こんな風に市井の人びとの人間模様を描いた物語も素敵だなと、しみじみ感じました。
この物語は、武家の一人娘だった千世が、縁あって江戸深川に店を構える損料屋「月見堂」の主となり、そこに持ち込まれる数々の事件・騒動を奉公人や月見堂に集う人びとと一緒に解決していくお話です。
人物描写が巧みで、そこに生きる人びとの喜怒哀楽、ささやかな優しさなどを感じながらテンポよく物語を楽しむ事ができます。
江戸人情ものとしても素晴らしいのですが、なんといってもこのお話は、一途な愛を貫くヒーロー迅之介様の純愛も読みどころです。
終始千世に注がれる優しい眼差し、いざという時には駆けつける頼りがい✨
しかし千世はいじっぱりだし、迅之介様も武家男子らしく多くは語らないし……じれじれの展開です。
そして迎える最終話は読んでいて、胸が甘く締めつけられるはず。
とても面白いです。
(レビューを書くべく、所々読み返したのですが、面白くてそこからまた読み始めてしまって中々書くのが進みませんでした💦)
是非読んでみてください。