人の暮らしに悩みあり。
- ★★★ Excellent!!!
損料屋を営む主人公・千世の元には、町で暮らす人々の多様な相談事が舞い込んできます。その一つ一つは決して大事件ではありません。店で貸し出す日用品のように、人の営みの中に自然と混ざりこんでしまう困りごと。だからこそ厄介なのです。
人の暮らしあれば悩みあり、それは相談を聞く側の主人公も同様で……。ままならない人間同士の描写に引き込まれます。そして最後に行きつくのは、本当の大事件!
ひたむきに頑張る女主人の千世、彼女を支える奉公人たち、共に生きる深川の人々、ずっと側で見守る(元)婚約者。登場人物の息遣いまで感じさせるような人間ドラマはもちろんのこと、江戸時代の風俗や町人の暮らしも丹念に描かれた時代小説です。「片見月」の意味と共に味わってみてください。