くすみ澱んだ色の溢れる世界に惑う少年を包む、やわらかに澄んだ黄金の光

 孤児院で育った少年ルカ・クルスは、とある印刷所の徒弟となるために、孤児院のある村イヴォンリーを離れ、女王陛下の都グラウベンを訪れます。
 その街で彼が目にしたのは、緑に赤、オレンジに、茶——ありとあらゆる暗く澱んだ色の洪水でした。彼は人の周りに色をオーラのように見ることができるようです。
 その色に立ちすくみ、身動きが取れなくなってしまった彼を救ってくれたのは、柔らかな金色の眼鏡をかけた、琥珀色の瞳を持つ、アーサー・シグマルディでした。

 彼はルカを引き取ってくれた上に「一年間弟子のふりをしてほしい」と申し出、事情がよくわからないまま、二人の奇妙な共同生活が始まります。
 魔法使いのような不思議な力を持つその「先生」は実は卵焼きを作るのに、うっかり爆発させてしまうような家事オンチ。何くれとなく世話を焼く日々が続くかと思われたのですが——。

 みなしごの少年と不思議な力を持つ「鍵番」。さらには怪しい劇場の支配人に、女王陛下まで、さまざまな人々が入り乱れ、けれど一貫してどこか物寂しい旋律のような予感がずっと響いていて、ページを繰る手が止まりません。

 果たして彼らの約束はどこへ行きつくのか。健気な少年ルカくんにずっとエールを送らずにはいられない切なくも温かい物語、お正月の一気読みにおすすめです!
 

その他のおすすめレビュー

橘 紀里さんの他のおすすめレビュー960