ハード・アンロッカー

作者 稲庭淳

249

89人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

解錠の能力を持つ“僕”は、その能力を使って近所の空き部屋に潜り込むことを繰り返していた。するとある日、空き部屋で時間を潰していたところに紫苑と名乗るクラスメイトがやって来て…?
全編を通して無駄のない構成で、こんな些細なことが後に繋がるのか!と膝を打つほど。意味のないエピソードはない、という事はプロの漫画家さんなども言う事ですが、正しくその通りと感じる構成力がお見事。
語られていることは非常に(精神的に)しんどい事が多かったように思うのですが、何度も繰り返されるフレーズや言葉の数々がとてもリズミカルで、それがまたよかった。また、ライトノベル(という扱いにしてしまっていいのかは分かりませんが)らしく、ドキドキするようなシーンが話の流れで無理なく登場している事も魅力的に感じました。

けれど何より魅力的なのは、“僕”と紫苑の関係性。
ボーイ・ミーツ・ガールと銘打ってしまうほど、これは“僕”と紫苑が出会ったからこそのひたむきな想いの物語。紫苑に出会ったからこその幸せ。紫苑に出会ったからこその不幸せ。
この二人の幸せについて考えさせられる痛くて優しいお話だったと思います。

最低で最高のスクラップ・アンド・ビルドでした。

★★★ Excellent!!!

火を放つシーンにそそられた、というと人は顔をしかめるだろうか。
第一の放火シーン、主人公と同調したからか、息をつめて文字を追い、頭の中で組み上げられた画を見た。確かに見えたと思うし、もしかしたら異臭も感じたかもしれない。
並ぶ言葉は平易で、火は魔術がかったものではなく当然意思もなく、ただ淡々と〈日常〉が燃える様が描かれる。
悲惨な少年には解錠の技があり、解錠の技が邂逅を呼び、ふいに得た安らぎは悲惨さに呑まれる――ガソリンを撒いた部屋に火の手が上がる情景は、そのごく自然な成り行きを暗示した。
悲惨は物語になる。しかし、悲惨だけでは人は耐えられない。彼が呑み込まれてしまうかは、どうか、読み届けてほしい。

もう一人の少年、キーマンである「岸田」の物語もぜひいつか読んでみたい。

★★★ Excellent!!!

未成年による犯罪行為が色々と出てきますが、救いと報いのバランスがよく、ほとんど引っかかりなく読めました。めちゃくちゃ面白かったです。
少し独特の文体が主人公の視線とよく噛み合っていました。

主人公の解錠の腕によって話が進むのに対し、救済のきっかけは真逆の行いによってもたらされている対比が印象的でした。

★★★ Excellent!!!

 いやぁ、面白かった!
じわじわと危ない人間が主人公を絡めとり、でもそのお陰で主人公は前より充実した生活を送るという矛盾。
キシダの
「せっかく道を踏み外したんだから、楽しめるだけ楽しめ」
にはゾクッとしました。
まだ中盤ですが、引き続き熟読させていただきます。

★★★ Excellent!!!

悲しいことより、楽しいことのほうが好きなはず。
泣くよりも笑うようなことが好きなはず。
怒る人より、優しい人のほうが好きなはず……。

なのにどうしてか、周りには怒る人か無関心な人しかいないし、心から笑う出来事は忘れかけているくらいずっと前で、現状が悲しいのかも、もうわからない……。

吸い寄せられるように、トップのタイトルを押していました。
明るいところが好きなはずなのに、何も見えない暗く深いところに目を凝らしてしまう、自分の心が不思議です。

この闇の中に、きらりと光る希望が見つかりますように。


★★ Very Good!!

どうしようもない、どうしようとも思わない、どうにもならない、どうにもなれないものがあって
でも何も無くても時は流れるし状況は勝手に変わるしどうにかなるしどうにもならない
登場人物それぞれの生き方があってたまたまそこにその形でいたから出会って隣にいたり離れたり
登場人物達の過去と今と未来がちゃんとあって最終的にどうにもならないんだろうと思うし、これからどう生きてどう死んでいくんだろうって気になる
変わったようで変わってなくて、変わってないようで変わってて、変わったようで変わってなくて……エンドレスな感じが私は好きです。

★★★ Excellent!!!

人間生きているからには「生きたい」と思う。それが当たり前。しかし、そういうものとは全く違う部分で自分の破滅を願ってしまう。そういう心の動きもあるように思う。

ぼくはこの小説の中で特に「岸田」が気になった。彼こそが、そういう「破滅を願ってしまう」部分の象徴的存在として描かれていたからだ。

最後、主人公が岸田にかけた言葉。これは祈りだったんじゃないかと僕には思えた。これはきっと作者さんのカラーだと思うんだけど、その辺りが僕にはちょっと気になった。

★★★ Excellent!!!

と思ったからですね。一息に読めたのは。キャラを好きになれた。
毎度毎度、どの瞬間から、何故そうなったのか分からないわけですが。いつの間にか、何となく、好きになってた。

一つ挙げれば、キャラの言動や感じ方、あれのずらし方でしょうか。予測していたところから少しずらして、少し特別に感じさせてくれる。
少し、というのが匙加減の難しいところですが。大きくずれると、期待や好みからも外れてしまいますので。

そういうわけで、はい、良い作品でした。ご馳走さまでした。
彼ら四人に幸いを。

★★★ Excellent!!!

彩度も明度も低めの穏やかな色彩、ぬるま湯のような少しぞくりとくる程の温度、音は静かで、動作は極めて洗練されている。どことなく落ち着くようで、ここに長居してはいけないと思わせられるような、そんな読後感でした。筋書きの収まりの良さと、あっという間の読書体験と、目が覚めるような皮肉と渋さとから、「缶コーヒーのような」と表現しました。

LED光に灯された薄明かりの部屋と「仕事」場となる夜闇の冷たさが作品の雰囲気をよく表していると感じました。ひとの手で部屋に電気を灯され、代わりにと自らの手で鍵を開け破壊と破滅に手を貸し、逃げないよう手を繋がれ、その手すら破砕してしまう。どうしようもなくやる瀬なく、敷かれた道をまっすぐ歩けないもどかしさやたどたどしさがうまく描かれています。

小説『ラン・オーバー』も拝読いたしましたが、いずれも「早く次を、続きを」と頭が求めて手が動き気がついたらすっぱりと、あっけない幕引きを見届けていて、この上映途中で映画館を追い出されたような感覚が癖になります。物語の続きを求めたい気持ちもありますが、この終わり方でじんわりと苦い後味を噛み締めるのも悪くないなと感じさせられました。

個人的に、シニカルで小ざっぱりとしていて妙に説教臭い眼鏡男がお気に入りです。

★★★ Excellent!!!

悔しい。最後まで手が止まらなかった。
『ラン・オーバー』に比べて静かで予定調和気味に話が進む代わりに、ヒロインと主人公の触れ合い、内心がよく描かれている。(あと比較的ヒロインが可愛い)
彼らの、死にたくさえならないほど何もない虚無感がたまらなく心地いいし、細かい蘊蓄も趣味が良い。この部分はもう文才とか以前に作者さんだけの持ち味なのだと思う。
でもだからこそ、この空白をきちんと暴力によって手に入る他者との繋がりで埋めて欲しかったというのが本音。

★★★ Excellent!!!

 とにかく、一話一話の区切りがよく、共感できる部分も多く、とにかく、とにかく、とにかく、独り占めしたいと思いました。
 
「きっと次の展開はこうだ」と思ってもそこまで行く過程が心臓の鼓動を跳ね上げてくれて、投稿されたときにはなるべくだれのPVもついていない状態で、誰も応援の♡を着けていない状態で読みたい。
 そう思わせてくれる作品でした。

★★★ Excellent!!!

 つまらないとは言わない。時間の無駄でもなかった。先が読みたくなる文章と展開を備えていて、ここ数日は更新が楽しみで仕方なかった。数年間待ち続けた稲庭先生の新作として、本当に楽しく読まさせていただいた。もしこれが紙の書籍の形式で出版されていて、六百五十いくらで購入していたとしても、買ったことを喜べる〔正規の手段での購入を通して作者にお金を提供出来たことを嬉しく思える〕類の作品として、部屋の本棚を埋める輝きの一つとなっていたことだろう(?)。
 ……面白かった、素晴らしかったと素直に書かないのはどうしてかと言えば、先生の前作『ラン・オーバー』(講談社ラノベ文庫)と比較して読んでしまっているからだ。あれは本当に、自分が今まで触れたライトノベルのうちでは間違いなくトップクラスに位置する読書快楽を運んで来る作品であった。それと比べるとどうしても、今作はパワー不足である、との感が否めない。前作の内容についての具体的な話はしないでおくが、あれは「アンチ・ラノベ・ラノベ」ともいうべき作品で、ライトノベルの形式をとりつつもライトノベルらしくない、そして、ライトノベルとは何か、そこで扱われている「属性」とか「テーマ」とか、それらの叩き売りされているタグは何を意味するのか、といったようなことを読者に問う・考えさせるような内容であった。
 だが、今作はどうだろう。一通り読ませていただいてまず感じたのは、お話があまりにも単純である、ということだった。文そのものは素晴らしい。どんどん先を読ませる/読まずにはいられない流れを形成している。場面を読者の脳内に強烈に展開する;身動ぎすることも躊躇われるような緊迫感や、喉が詰まりそうになるほど寂しげな安寧の感覚を生成している(この不思議な感覚を作り出すのは大変な事で、本当に素晴らしい!)。だが、それは文体や文章のレヴェルでの愉しさであって、シナリオそのもの、… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

文庫本ほどの文字数があるとのことだが、文庫本とはこんなに短いのかと錯覚する小説だった。

とにかく手が止まらない。そして感情を揺さぶる。
ドロドロの闇を描く内容にも関わらず、
シンプルな文体とシニカルな言葉遣いが謎の疾走感を与えている。

主人公達は傍から見たら狂った犯罪者でしかないが、
小説を通じて覗いてみれば、その狂気は極々どこにでもありそうな事情と孤独から生まれたものだ。
誰でも、誰にでも起こりうる狂気が、ちょうど放火のように燃え上がったけだ。
それが妙にねちっこい現実感を醸し出す。
「ああ、こんな奴ら居そうだな」と思えてしまうし、
一歩間違えば自分も手を染めていたかもしれないとすら錯覚する。
登場人物の狂気が流れ込んでくるような内容だった。


作品のタグが「青春 犯罪 高校生 お仕事」。
あらすじだけ読んだ当初は笑ってしまったが、完読した今では全く笑えない。

ピッキングと放火を繰り返し、金を得る。
これが彼らの青春であり、壊れた人間の彼らは、こういう形でしか自己探求や自己実現が出来ないのだ。

★★★ Excellent!!!

あぁ。レビューしちゃった。
完結まで待とうって思ってたのに。

ミステリのクライマックスとはなにか、と問われれば、ほぼ大多数の方が謎が解かれるシーンだと答えるのではないでしょうか。
叙述トリックなどの例外は無きにしも非ず、なのでしょうが、私もそう答えると思います。

では、それを待たずしてなにがレビューか、という話ではあります。
ミステリジャンルの作品へのレビューは第一にタイミングが難しい。

ですが、強気にレビューさせて頂きます。
何故なら、この作品にそれだけの魅力があるからです。

まず文体。ソリッドで器用な文体です。それでいて読みやすい(だからこそ、なのかな?)。無駄なものが混じってないのです。かといって、英語の直訳みたいな、意味を並べただけの文章になっていない。

機能美とは機能を付加して発生する美しさではありません。極限まで取捨を繰り返したデザインに発生する美しさのことです。

今の時点で星を入れてる人は私と同じ理由なのでは、なんて邪推してます。おそらく、端正な文章に痺れたクチでしょう。

そして、この筆致が物語の全体のトーンを支えています。底流を成している、と言い換えてもいい。木戸、紫苑のどこか仄暗いキャラクターや、青春と放火なんてまるで乖離したものをストーリーとして調和させています。

すでに原稿は完成していらっしゃるとのことでした。
なので、頑張ってください、と書いてもあまり意味はないですね。
クライマックスを読んだ後に、星が三つまでしか入れられないだなんて、と嘆くことになるのを楽しみにしています。