缶コーヒーのような「うまさ」

彩度も明度も低めの穏やかな色彩、ぬるま湯のような少しぞくりとくる程の温度、音は静かで、動作は極めて洗練されている。どことなく落ち着くようで、ここに長居してはいけないと思わせられるような、そんな読後感でした。筋書きの収まりの良さと、あっという間の読書体験と、目が覚めるような皮肉と渋さとから、「缶コーヒーのような」と表現しました。

LED光に灯された薄明かりの部屋と「仕事」場となる夜闇の冷たさが作品の雰囲気をよく表していると感じました。ひとの手で部屋に電気を灯され、代わりにと自らの手で鍵を開け破壊と破滅に手を貸し、逃げないよう手を繋がれ、その手すら破砕してしまう。どうしようもなくやる瀬なく、敷かれた道をまっすぐ歩けないもどかしさやたどたどしさがうまく描かれています。

小説『ラン・オーバー』も拝読いたしましたが、いずれも「早く次を、続きを」と頭が求めて手が動き気がついたらすっぱりと、あっけない幕引きを見届けていて、この上映途中で映画館を追い出されたような感覚が癖になります。物語の続きを求めたい気持ちもありますが、この終わり方でじんわりと苦い後味を噛み締めるのも悪くないなと感じさせられました。

個人的に、シニカルで小ざっぱりとしていて妙に説教臭い眼鏡男がお気に入りです。

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