個人的な良い物語の基準に「物語から風を感じられるか」を挙げている。
もちろん、光だったり、色だったり、音楽だったり、別物でも良い。
ともかく、読み始めたら、ここではないどこかへ連れて行かれる感覚。遠くへ、遠くへ、遠くへ──なれど今作は現代もののホラー、遠くに連れて行かれる感覚というのは得にくい、と思っていた時がありました、私にも。
結果、見事に連れて行かれてしまった。
出版社でアルバイト中の学生ライターを主人公に物語は進む。怪異の相談者である後輩、怪異をさぐる過程で出逢った女性、その女性と後輩と後輩の彼女とのひと夏ホラー……だったはずなのに。
読了し、主人公を思う。
時に、主人公の感覚がスライドして私自身が主人公が感じ続けている視線を身に受ける。そう、物語に連れて行かれる──ふいに現実に物語が浸食してくるこの感じ。
一見、ホラーというものは感情的な、非科学的なものだと思うかもしれない。けれど恐ろしいホラーほど理に適っている。作者が気真面目に真摯にその作品と読者に向き合っている証左だと私なりに考える。だからこの視線は正しい。
いつか視線はひとつではなく、ふたつになっているかもしれない。彼岸から送られるそれらの眼差しに、私はきっと恐ろしさと切なさと羨望を感じるのだろう。
とにかく「面白かった」と伝えたい。
ストレートに「面白い」と表現するしかない作品でした。
ホラー小説自体は読むジャンルとして得意な方ではありませんが、まずそれを忘れさせるくらいに読みやすい。文章のテンポ自体が非常に良いのです。正直星3個じゃ足りないくらい。圧倒的没入感。
グロやゴアな表現で恐怖を煽るわけではなく、得体の知れない存在・怪異を取材する形で物語が進行していきます。
まぁ確かにこういう状況なら怖くもなるな、と共感していたら本物の怪奇現象にも直面して……そして、な内容。
中盤からゾクゾクと恐怖が増しながらも、切なく感じるラスト。
タイトル回収も秀逸で、とてもストンと腑に落ちる展開でした。
キャラクターもそれぞれ確立されていますし、気になった人物がしっかり成長している描写も差し込まれて納得の終わり方。
もう一度書いておきますが、「面白い」です。
ぜひ、ぜひ読んでみてください!
読みやすくてシュールで面白い文体に惹き込まれてすっすっと読み進めていくうちに、独特の切なさにやられました。
キャラクターが立っていて、森博嗣作品に匹敵するようなやりとりの面白さがあります。
ホラーなんですが、多くの作品とは違い、恐ろしさが絹に包まれているかのように上品ですね。
驚かされるというよりも、不思議さを提示されて鳥肌が立たされました。
夜道を歩いていると、いっそう冷たい一陣の風に撫でられたような心地のする小説です。
その風の冷たさをずっと捉えておきたいけれど、そういうこともいかない。
侘びしいです。
作品を読み終えた時、次回作や番外編や続編を欲してしまうことが多いのですが、この作品においてはこの作品の何というか密度が欲しくなりました。
すっと読めるからこそのあの美しい結末だと思うのですが、結末を知ってしまった今、結末を知らないうちに中盤がもっと長く楽しめれば、風が掴めるものであれば良いのにと身勝手に願ってしまいます。
良作なので、是非書籍化してリブートされたものを心新たに読んでみたいなと強く思います。
読み始めてすぐに、他のホラー作品とは一線を画す卓越した描写と筆力であると思いました。
怪談話が怖いのはもちろん、登場人物たちが生き生きとしてとても魅力的です!
主人格の米田 学は怪談ライターとして出版社でアルバイトをしている大学生。
怪談の情報を仕入れて調査に出向くのですが、そこで起こる怪現象の描写が本当にリアルで恐ろしいです!
米田は毎話ライターとしての仕事をきっちりとこなしていて、引き際における結末もまた素晴らしいです。
怪談の調査の際に乃愛という女性と知り合い、そこから話は大きく動き出します……
もう、読み始めたら一気に引き込まれて、気がついたときは夢中で読み進めていました。
とにかく面白い!怖い!読まないことが勿体ないと思うほどの作品です!!
ぜひご一読ください。
オカルト系雑誌の編集部でアルバイトをしている主人公は、後輩の頼みで後輩のアパートに向かう。後輩曰く「出る」らしい。その調査中に、主人公は彼女と出会う。彼女はオカルト的現象を理解したいという、一風変わった考えの持ち主で、自ら心霊スポットを巡っていた。主人公もそれに乗っかることになる。
そんな中、後輩の故郷に行って、主人公と彼女はその土地の古井戸にまつわる祭りに参加する。由来としては、井戸に住み着いたモノに人間を供儀していたという恐ろしいものだった。その古井戸の祭りのさなか、二人は――。
そして日常を取り戻した主人公は、無事に大学を卒業し、編集部でのバイトも、後輩に譲った。今度は後輩がオカルトを追うことになる。
ホラーでありながら、少し不思議な感覚が残る一作でした。
もちろん、怖いところは怖かったです。特に祭りの部分は怖いです。
情報が詰まりすぎていないので、読みやすく、作者様の力量を感じられました。
是非、御一読下さい。
ひとこと紹介に書いたとおり、拝読してから三日ほど経ちましたが、未だにふとした時にこの作品のことを思い出してしまいます。
『主人公の米田は物語のあと何か行動を起こしたのだろうか』
『ヒロインの乃亜は今何を思うのか』
つい上記のようなことを考えてしまいます。
何物にも執着しない主人公、米田の一人称視点で語られるこの物語はタイトルから想像がつくように、決して幸せな結末ではないのかも知れません。
ですが、何故か不思議なことに読了感は悪くないのです。
寧ろ清爽な感情が湧いていることに驚きさえ覚えます。
何故か『米田と乃亜の物語はまだ終わっておらず、どこかで続いている』
そう思ってしまうのです。
それ故、余韻を残す物語になり得ているのではないかと思っています。
また、とある文学賞の最終選考候補まで残った作品というだけあって筆力も圧倒的です。
本物のホラー作品に触れたい方は是非ご一読を。