そのホラーからは、視線を感じる

個人的な良い物語の基準に「物語から風を感じられるか」を挙げている。
もちろん、光だったり、色だったり、音楽だったり、別物でも良い。
ともかく、読み始めたら、ここではないどこかへ連れて行かれる感覚。遠くへ、遠くへ、遠くへ──なれど今作は現代もののホラー、遠くに連れて行かれる感覚というのは得にくい、と思っていた時がありました、私にも。
結果、見事に連れて行かれてしまった。
出版社でアルバイト中の学生ライターを主人公に物語は進む。怪異の相談者である後輩、怪異をさぐる過程で出逢った女性、その女性と後輩と後輩の彼女とのひと夏ホラー……だったはずなのに。

読了し、主人公を思う。

時に、主人公の感覚がスライドして私自身が主人公が感じ続けている視線を身に受ける。そう、物語に連れて行かれる──ふいに現実に物語が浸食してくるこの感じ。
一見、ホラーというものは感情的な、非科学的なものだと思うかもしれない。けれど恐ろしいホラーほど理に適っている。作者が気真面目に真摯にその作品と読者に向き合っている証左だと私なりに考える。だからこの視線は正しい。

いつか視線はひとつではなく、ふたつになっているかもしれない。彼岸から送られるそれらの眼差しに、私はきっと恐ろしさと切なさと羨望を感じるのだろう。

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