概要
その学校生活は彼が予想していたものとは全く違っていた。見えない壁、いじめという祖国からの洗礼。だんだん自分を失っていく毎日の中で、あるとき彼は「ぬいぐるみのクマ」のような男と出会う。二人の時間にようやく救いを見つけ出し、初めての恋を知る紘一。しかしそれはつかの間の楽園だった──
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!被害者少年の慟哭と 加害者と傍観者の罪深さを 見事に描ききった力作です
是非、一人でも多くの方に読んでいただきたい作品です。
思春期という繊細で危うい時期。
フランスから帰国子女として転校した少年、佐伯紘一は、目をつけられイジメのターゲットにされてしまいます。周りに助けてくれる人も無く、誰にも相談できずに、エスカレートしていくイジメ行為。
そのストレスは凄まじく、身体にも異変が。
『モグラの穴』の意味を知った時、色々な意味で救いのない紘一の状況に胸が苦しくなりました。
そんな彼に訪れる束の間の安らぎ、さらなる地獄。崩壊。
紘一自身の言葉で語られる心の痛みはリアルで壮絶です。
こんな思いをする人が、一人でも減りますように。そう祈る気持ち…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この感情の熱と、魂の叫びに触れてほしい
モグラの穴ーーこのタイトルに込められた、痛ましく残酷な意味を知ったとき、ひどく胸が痛むと同時に、美しささえ感じる凄絶な熱が胸に迫り、表現の妙に圧倒されました。
フランスで暮らしていた日本人の少年・佐伯紘一が、親の仕事の都合で帰国し、日本の公立中学校に編入するところから、祖国を二つ持つ紘一の思い出が語られていきます。
紘一の容姿は、日本人。けれど、日常的に触れてきた言語は、フランス語。帰国子女の紘一と、中学校のクラスメイトたちとの間には、常に国境のような壁があり、祖国で暮らしているにもかかわらず「ガイジン」扱いされる日々が、教科書では決して教わらない日本語のスラングにさらされる悲しさが、誰…続きを読む - ★★★ Excellent!!!無知の恥
この傑作に対し、どのような言葉を付したらよいか一晩考えてみたのです。
しかし、破格の作品ゆえに、なかなか気の利いた言葉が見つかりません。
だから、率直に言うしかないのです。
― もし未読なら是非読んでみて欲しい
きっと、世界が広がるから ―
『多様性の尊重』という言葉を近頃よく目にします。しかし、どうも表層的にしか使われていないように思われます。
多様性を尊重することとは『異質な他者を受け入れること』ではなく。
『自らが異質であること』、これを知ることにこそあるのだと思うのです。
異質なもの同士が互いを慮りながら手を取り合って、日々にぶつかりながら認め合っていく。
…果たして我々に、そん…続きを読む - ★★★ Excellent!!!アイデンティティの崩壊による苦しみ
この作品の主人公紘一はフランスで育ち、14歳で帰国して公立中学に編入します。
14歳。同調圧力の強い日本社会でも、多感で最も排他的な年頃ではないでしょうか。
紘一は帰国子女である上に、同性愛者である事も暴かれてしまい、同級生の差別と偏見の目に晒されます。
紘一の苦しみが繊細かつ大胆な筆致で綴られ、その過酷さの中で自身と向き合い、正直に生きようとする紘一から目が離せませんでした。
紘一の置かれた状況は特殊かもしれません。
しかし、いじめで命を落とした等の報道が絶えない現状ですから、さまざまな理由で紘一と同じ苦しみを抱えている子どもは多いでしょう。
もし自分が紘一だったら・紘一の親だったら…続きを読む - ★★★ Excellent!!!14歳。良くも悪くも「処世術」を身につける年。
本作の主人公はフランスからの「帰国子女」という側面があり、彼ならではなグローバルギャップ、プライド、性的嗜好などによる苦しさ、辛さをたくさん経て、育っていったことでしょう。
ですが、世に生きる中学生──14歳というタイミングは、大半の子どもにとってもひとつの「ターニングポイント」と私は考えています。
自分自身でしか理解しがたい思考、嗜好。
自分自身と異なる周りの人間とどう付き合っていくか。
もしも上手くいかなくて誰かとぶつかったり、いじめやスクールカーストなど、人間関係に悩まされてしまったとき、どうやってその障害を乗り越え、あるいは逃げれば心穏やかな日々を過ごせるようになるのか。
そう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ずっと、読めなかった
わたしは柊さんの大ファンです。でも、ずっとこれは読めなかった。作品紹介を読んで、娘のことを思ってしまったから。
娘はドイツで育って10歳の時にアメリカに戻りました。性的な嫌がらせにはあいませんでしたが、アメリカ人の女の子も壮絶です。白人だらけ田舎で唯一のアジア人。「純粋な外国人ならチヤホヤされるのに!」何度もそう言ってました。決して教えてはくれませんでしたが、相当の思いをしていたのでしょう。真っ青な顔で学校に通っていました。どんなに聞いても心を閉ざすだけで何も話してはくれなかった。私は休ませたかったけれど、完璧主義の彼女はそうしなかった。「私が代わりになってあげられたらいいのに!」何度も…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この世の地獄を書ききっている物語
この世の地獄って何だろう?
現実に存在する地獄とは?
読んだ後にそんなことを思いました。
同時に現実を地獄だととらえる機会ってそれなりにあると。
今が最悪、いや、昔はもっとひどかった、将来にも希望なんて見えないし。
若い時期、年を取った時期、この世を地獄のようだと感じたことのある人は多いはず。
それをもっとも多感に感じるのは中学生くらいなのではないのかなと。
この物語には読んでいてもつらいシーンが多々あります。
人の、特に集団が放つ、狂気にも似た無邪気の皮をかぶった残酷さ。
それは子供ばかりでなく、大人たちもまた形を変えた残酷さを持っています。
その中で傷つく少年の心が痛々しく胸に迫りま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!――未来の彼の幸せを願って。
主人公は、日本の中学校に通うことになった紘一。
フランスのパリで9年間生活していた彼は、父親の転勤で日本へ帰り、地方の中学校へ編入することになったのですがそこでは様々な問題が起きます。
外国暮らしが長かったことに対するいじめや「言葉の壁」問題、紘一が同性愛者であるが故の葛藤。中学二年生という多感な時期であるということがさらに拍車をかけ、それらの問題が大きくなっていきます。
多分『モグラの穴』は読む人を選ぶ作品だと思います。全ての人が「良かったね」と言えるようなものではないでしょう。
「寂しさを超えた孤独」「己の中に潜む日本ではない別の国で育まれたアイデンティティを理解されない悲しみ…続きを読む