アイデンティティの崩壊による苦しみ

この作品の主人公紘一はフランスで育ち、14歳で帰国して公立中学に編入します。

14歳。同調圧力の強い日本社会でも、多感で最も排他的な年頃ではないでしょうか。
紘一は帰国子女である上に、同性愛者である事も暴かれてしまい、同級生の差別と偏見の目に晒されます。
紘一の苦しみが繊細かつ大胆な筆致で綴られ、その過酷さの中で自身と向き合い、正直に生きようとする紘一から目が離せませんでした。

紘一の置かれた状況は特殊かもしれません。
しかし、いじめで命を落とした等の報道が絶えない現状ですから、さまざまな理由で紘一と同じ苦しみを抱えている子どもは多いでしょう。

もし自分が紘一だったら・紘一の親だったら・先生だったら…身につまされるものがありました。
人間の本質を鋭く炙り出しながらも、人間への愛情と生き抜く事への賛歌を感じられる作品です。

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