コストが掛かる少年

人は平等ではなく、生きづらさは確かに存在する。
安定した環境に身を置くのにコストがかかるということだ。それはお金だけでなく、時間や手間や精神的疲労、そういった諸々の負担について。
けれど勘違いしてはいけないのは、コストを支払うのは本人だということ。大人の負担を気に掛ける、それこそ本人のコストとなっている。
主人公は九年フランスで過ごした帰国子女である少年だ。
見掛けは日本人、日常会話はできるけれど、漢字は書けない。買い物、病院、銀行でちょっとした用事を済ませようとした時、行く先々で一回一回説明しなくてはならない・・・・・・想像するだけでストレスだ。
物語の後半、主人公は物理的なガイジンか精神的なガイジンかを選ぶならと語る。読み進めた私は、うん、そうね、と頷かされた。
恥ずかしながらこの国の道は私含めて未舗装で、そのでこぼこを歩くため、少年に身を削らせ、痩せ細らせた。
どうして彼が代償を支払わねばならないのか。どうして――彼が子どもで他に選択肢がなかったから。溜息が出る。

モグラの穴――これはユーモアとペーソス入り交じる比喩なのだけれど――は消えない。
許さなくていいし、許してくれるな、と思う。特にあの同級生らには☆△@?$、インターネットで吊し上げろ、息子娘にやつらの所業を暴いて晒せ! ・・・・・・ぐらいな勢いだけれど、それこそ莫大なコストで、しなくて済むなら、越したことはない。
彼の安定を願うのならば、燃え上がる憎しみではなく、彼や彼の敬愛する師がするように〈学び〉こそが役立つのだろう。
そばにいる誰か、あるいはこれから出会うその人のコストができるだけ軽くなるように。

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