祖国で待っていたのは、理不尽な差別と暴力。初恋まで踏み躙られ……

 親の都合で帰国子女。生まれ持った性的指向。
 自分の意志ではどうにもならないことが理由で、紘一は酷く貶められる。何も悪いことをしていないのに。誰にも迷惑をかけていないのに。
 剥き出しの自意識に狡猾な残酷さを身につけはじめた子供たちは、自分達との僅かな差異を目敏く嗅ぎつけ、彼を異分子と見做した。多数派であることを振りかざし、暴力に酔いしれ、自分の立ち位置に安堵する。
 彼らは馬鹿な臆病者だ。だからこそ、大人がしっかりと見守り、指導するべきだろう。
 なのに紘一は、大人の無理解にもまた、苦しめられる。教師は綺麗事ばかり。親ですら本当の自分を見てくれない。守るどころか、理解する努力さえしてくれない。

 紘一の血を吐くような心の叫びが、痛い。 
 胸が潰れそうなほど辛いお話です。(辛すぎて、私は一時離脱しました)
 でも、紘一君は自分の力で幸せを掴みます。
 全てを読み終え、ホッと胸を撫で下ろしたあとで、自分に何ができるのかを改めて考えさせられました。
 多くの人に読んでもらいたい作品です。

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