文化の狭間に落ちるとき

若い時分にイギリスに渡った。必死で順応し、帰国した成田空港で愕然とした。自分の国のはずなのに、自分の国に見えない。周囲の人のちょっとした仕草までが、何か違っていて、とにかく戸惑う。
耳に入ってくる日本語がとっさに理解できない。
リバースカルチャーショック、と呼ばれるそれを、私は20代で経験した。
見た目が変わらない、日本語も流暢に話せるからこそ、周囲は待ったなしで「日本人」としての行動を期待する。しかし、それがスムーズに行えないからこそ、こちらは困惑する。
ギアを変えなくてはならない、と理解した。そしてギアチェンジは決して簡単ではなかった。とっくに成人していてさえだ。

この物語の主人公である佐伯紘一は、中学校2年生で、それを経験する。しかも日本の田舎の学校というとてつもなく同質性が高い場所で。排他的な日本の中学の描写もさることながら、おそらく自分たちはフランス語を高いレベルまでは習得していない親たちの描写がリアルで、つらく、痛い。
現地文化に馴染みきれない親たちはしばしば「日本」が子供にとってどれほど異国なのかに気づかない。

痛く、苦しい、成長の物語であると同時に、そのあまりのリアルさにやるせない。とにかく、やるせない。

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