その物語に魂はあるか

物語に魂があるか論は、創作界隈に投げ込んだなら村が三、四つが燃えかねないほどの危ういテーマである。
まあ、今作にはすでにたくさんのレビューがあり、概要や面白さはそちらを読めばばっちりなのであえての視点から書きたい(面倒くさがっているわけではない、いや、本当)。すなわち、魂について2点。

まず、キャラクターが生きているか、魂が宿っているか問題。
これは問われたなら「え~と、登場人物に意思があって行動しているということかな~」ぐらいのぬるい回答しかできないが、良い作品を読んだならわかってしまうのだ、魂のあるなしが。
今作はコンビを組んだばかりの対照的な二人が、事故物件に泊まり込んで除霊をするエンタメドラマである。
主人公である女除霊師・弐千佳さんとアシスタントとして雇われたポジティブチャラ男有瀬くんのやりとりはユーモアに溢れている。
その過程で彼らの個性が浮き上がり、次を期待させ、けれどそれを少し上回る行動をさせる。だって、事故物件でごはん作る? すごく美味しそうな、何よりあったかそうな、ほこほこ湯気とふわふわ匂いが伝わってくる。有瀬くんごはん、シンプルだけど本当に美味しそう。作って。いやそうじゃなく、それだけじゃなくて。
会話だったり、ごはんだったり、ファミレスだったり、女の月一だったり、そんなありふれた生活の中に意思が宿っており、生きていると感じられるのだ。

もう一つ魂について。『魂の殺人』という言葉をご存知だろうか。個人的見解を言えば、このフレーズは良くも悪くも、である。(気になる方は検索を)。被害者の未来を殺す、という意味合いでは適当であると思う。
『MIU404』『アンナチュラル』脚本家・野木亜紀子氏のドラマで沖縄を舞台にした『フェンス』という作品がある。その中でやはり『魂の殺人』が取り上げられているのだが、「落とした魂〈マブイ〉は拾いに行かなくちゃ」というくだりがあった。魂を殺されたなら喪ってしまったなら、肉体的な傷が癒えても、何年経っても死んだまま。それは死んで霊となっても。
弐千佳さんはそんな死んでも死にきれない霊を浄める。彼女に言わせたなら仕事だからねとドライに返されそうだけど。そして物語終盤、彼女自身拾いに行く。自ら選んで、相棒と共に(個人的に、その境地に至るある意味覚悟の回〈幕間3 関わり合う〉が大好き)。

エンタメだけど、エンタメだからこそ伝わってくる魂のドラマ、どうぞ一読してほしい。

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