その物語に風は吹いているか

今お読みの、あるいは執筆中の物語についてお尋ねしたい(特にファンタジー)。
その物語に風は吹いているか、と。

主人公は赤き砂竜使いナージファの養女となった十六皇女。彼女が氏族の中で生活し成長し、そして悲劇に見舞われ、それでも立ち上がり歩く。
全容やあらすじに関しては、他の方が素晴らしくレビューで書いてらっしゃるので割愛(ありがたい)。個人的見解で二点の魅力を語りたいと思う。

さて、主人公アイシャ、ぐずい。その上、頑固で面食い、容姿は……まあ可愛らしいのだろうけど、宝石やら、花やら、絹やらに例えられるふうではない(私が読み飛ばしていなければ)。
かような主人公を二十万字オーバー追い続けられるのか。
諸兄は朝ドラのヒロインにイラっとしたことはないだろうか。アイシャは猪突猛進ではなく、その臆病な気質からよくよく考えてくれるのだけれど、どうどう巡りの思考に陥り、ゆえになかなか動かなかったり、落ち込んだりと面倒臭い。しかし、作者はそれを緩和というかより引き込ませる手練をお持ちだ──〝地の文〟である。時折、現れる主人公への鋭いツッコミ。
かような愛の鞭が、ヒロインへの「がんばれ」「そこまでひどくないよ」という愛情や共感に転化するとは、まったく見事な手腕である。某アニメだってキートン山田氏(数年観ておらず今はすでに交代か)のナレーションがなければさぞかしつまらないだろう。

魅力の一点は地の文。これはまあ、テクニックでどうにかなるかもしれない。
もう一つは冒頭でも述べているが、物語から風を感じられるか、である。
もちろん、光だったり、色だったり、音楽だったり、別物でも良い。ともかく、読み始めたら、ここではないどこかへ連れて行かれる感覚。遠くへ、遠くへ、遠くへ──私は幾度となく、今作を読んでいる時、乾いた風を感じ、泉の冷たさに触れ、竜の子の可愛らしい声を聴いた。
こればっかりは小手先の技では真似できない。作者が長い時間をかけて(おそらくねちねち妄想し、調べ、時に頭を抱え)産み出したものだから。

2023年1月22日現在、クライマックスを迎えており、一読者である私は今か今かと次話の公開を待っている。初期からの読者ではないが最新話に追いついたので、リアルタイムで楽しめる特権を得ている。ふふふ。
けれど今から読み始める方もご安心されたし。良い物語はそれ自体に生命力が宿っている。年月を経ても息をしている。ページを開けたなら、いつだって風が吹いてくるのだから。

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