あのころに読んだファンタジーのような手触り

この作品でなぜか一番印象に残っているのが、番外編2で速く走れるように練習をしていた時のアイシャの姿です。
手を抜いて走っている周りの子供たちに混ざり、懸命にその鈍足を披露しているアイシャ。
決して速くない、けれど自分の中では精一杯にやっているその姿が、とても心に残っています。このシーンにアイシャをアイシャたらしめている何かが表現されているからなのかもしれない。

砂竜で駆る誇り高き一族たちが登場する重厚なファンタジーの主人公が臆病者のこの子でいいのか、と読んでいる途中で一度ならず思ってしまった。けれど作品を読み通して振り返ってみると、この作品はまさにアイシャの物語だったと感じました。

主に砂漠を舞台に、のどかな生活が描かれていくかと思えば、急にダークファンタジーのような展開が待ち受けていたりもする。成長と、ナージファとアイシャ、アイシャとアジュルのように、とくに親子の絆の物語であったように思います。

世界が鮮やかに色づいていて、生命の息吹きを感じられる、優しさに溢れたファンタジー作品。そこに確かに世界が存在し、人々の営みが息づいています。

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