IV - 06
この日の岸田が言った『今晩』は深夜を指していて、僕は数時間も手持無沙汰になった。
一二月半ば、期末テストの範囲を授業で立て続けに発表された放課後の教室は僅か気だるげだったが、その反発のように明るい空気も流れていて、賑やかだった。クリスマス、冬休み、云々。
教室を抜け、廊下を見渡し、他の教室を覗いたが紫苑はいなかった。
紫苑は今日の授業を全日欠席したらしく、仕方なく僕は一人で帰る。
行く場所もないので無駄に街をふらつき、本屋に立ち寄ってはおぼろげな記憶を頼りに紫苑が読んでいた本を手に取ってみたりした。一冊買って読んでみたが、よりにもよって紫苑が酷評していたやつだった。主人公が実は四重人格だったってやつだ。
残忍な連続殺人を追う主人公、主人公に調査を依頼するヒロイン、意味深なメッセージを残す謎の男、主人公の過去を知る女、の四人が全部同一人物の別人格あるいは幻覚で、ついでにいえば殺人事件の犯人も主人公だった。
作者の妄想の主人公の頭の中の妄想の話。
本自体は書店の外に設けられたベンチでスラスラと読めたし、巻末に解説もついていたが、最後まで何がなんだかわからなかった。いつだって敵は自分自身だとかそういうことがメッセージなのだろうかとも思ったが、的外れな気もした。
結局、二時間ほどを無駄な読書に消費した。
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