IV - 03
陽が昇る前に部屋を出た。
制服に着替えてからコンビニで朝食代わりのパンを適当に買い、部屋に置いて、また部屋を出る。もう紫苑が起きているような気がしたが、顔を合わせずに言葉も交わさなかった。昨晩からずっと、母親の声が頭の中で止まない。
母親は僕の頭蓋骨と脳の隙間に棲んで、言葉を発する。
死者に寿命はない。
アメリカ人がやるみたいにこめかみを銃で撃てばちょうどそのあたりに棲む母親を殺せるのかもしれないが、残念ながら手元に銃はない。火点け屋なら手に入るだろうか、と、ふと考え、自分で笑う。悪の秘密結社でもあるまいし。なにより、そんなものを僕にくれてやるメリットもなければ、播磨の連絡先も知らない。
切りつけるように空気が冷えた朝の暗闇を歩く。
どの家もぴたりと静かで、店にはシャッターが下りている。
行き場もないので以前のように適当な空室に向かう。いまの部屋に住み始める前、岸田が現れる前に探した空室を思い出し、マンションやアパートの場所を思い出す。不法侵入先の予備、バックアップ。シェルター。
行ってみると二部屋にはもう人が住んでいて、三部屋目は未だ空室だった。
鍵を解錠してから、内鍵を掛け、錆びついたチェーンロックを掛けた。
何もないワンルームの床に腰を降ろす。
冬の早朝で、窓の外はまだ薄暗い。
スマートフォンの電源を点ける気になれなくて携帯ゲーム機を通学鞄から取り出すが、クリアしたばかりのRPGと、少し遊んで投げっぱなしの凡作アクションゲームしか遊ぶものがない。
冷たい床に体温を奪われながら壁を眺め、曖昧な意識でぼんやりとする。
睡眠とも言えないくらい切れ切れに、二〇分、三〇分ずつ時間が飛んでいく。
気がつくと時刻が午前一〇時近くになっていて、やっと軋む身体を起こした。横になっていたせいか、洗面所の鏡を見ると髪がボサボサになっていた。紫苑が帽子を被っていたのはこういうことに備えていたんじゃないかとなんとなく思った。
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