概要
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
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- ★★★ Excellent!!!すべては消えた神社の謎から始まった――
主人公の大原美邦は、父の死を期に叔父の元に引き取られ、それまで暮らしていた岡山から田舎の漁村へと引っ越してきた。
そこは母の故郷であり、自身も幼い頃暮らしていた町。そして、彼女にはその町に存在していたと思われる大きな神社の記憶があったのだ。だが不思議なことに、誰に聞いてもそのような神社の存在は知らないと言う。
やがて美邦は仲間たちと共に神社の調査へと乗り出すが、町に潜む禍々しい闇は容赦なく彼女らに襲いかかるのであった――。
作者様の民俗学や神道への深い理解と知識が物語に重厚感をもたらし、非常に読みごたえがあります。
随所にちりばめられた伏線や不穏な過去の事件が少しずつ解き明かされ、ひとつ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!謎に一歩近づくたびに、僕の大切なものが……また、一つ。
民俗学や歴史学の考証に裏打ちされた、奥深い謎解きホラー。この「ホラー・ミステリー」部門にぴったりな作品。
日本を代表する折口信夫や柳田邦夫など、実在する人々が残した物を巧く利用し、また、医学、神社の知識なども詰め込まれていて、重厚な世界観が広がっている。
たった一人の家族だった父親を亡くした主人公は、故郷の海沿いの町にある叔父の家に引き取られる。故郷の記憶の中には、あるはずのない奇妙な神社が存在していた。何故、人々の記憶に神社が無くなっているのか? そこに祭られていた神とは何だったのか? 片目を失っていた主人公と祀られていた神の関係は? 主人公たちは、徐々に失われた神社の謎に迫っていく…続きを読む - ★★★ Excellent!!!圧倒的な不安と薄気味悪さと神秘性で満ちる物語
冒頭、表面上は大きなことは何も起こっていないのですが、しかし、町と人々の様子から私たち読者はすぐさま感じ取ります、その水面下で巨大で禍々しい何かが蠢いていると。そして掴まされる「記憶にあるはずの神社が見当たらない」という謎と、それを基軸に連続する異様な事件の数々。なんだこれは、いったい何が起きている……そこまで漬かってしまったらもう後は読む手が止まらないです。結末まで一気です。
また、物語の随所で奥深くも丁寧に神道、考古学の知識で彩りと厚みが加えられ、単純なホラーでないレベルにまでこの作品を引き上げています。単に知識をひけらかすのでなく、謎解きの材料として自然に組み込まれており、作者様の力…続きを読む - ★★★ Excellent!!!日本独特の雰囲気を活かした、新しいジャンルのホラー小説
和風ホラーの長所とも呼べる、空気感・少しずつ迫る恐怖・暗闇などの要素が、見事に調和しています。その怖さは、まるでこの小説を読んでいる私たちにまで迫ってくるような気配すら感じてしまいます。
日本独特の身近な建物「神社」が話における重要なキーワードとなっており、次は自分がこの体験をするかもしれない……というどこか親近感が湧いてしまいそうだから、それがむしろリアルで恐ろしいです。
そして話を進める上での文字や文章の並びですら怖いという、作品独自の世界観と魅力があります。一読者として、登場人物たちと共に恐怖を体感し謎を解明したい! そんなワクワク感やドキドキ感を、一緒に共有しませんか? - ★★★ Excellent!!!民俗学の確かな知識に裏付けられた純正ホラー
「祟り」という言葉が身体の芯まで染み込んでくる気がします。こんなに怖いホラーを読んだのは何年振り…いや十何年ぶりだろう。
「本当の不安とは何が不安なのかわからないことだ」という一節はこの物語全体に当てはまります。何が起きているのかさっぱりわからない、だけど確かに何かがある。何かがいる。何かを見た…はずなのに。
その不安と焦燥感を誘導する表現力が素晴らしいです。地の文は感情を直接説明はしない、あくまでも淡々と「経験」と「行動」「思考」を書き下していくのですが、それが余計に想像力をかき立てる。
神道と民俗学に関する確かな知識が、最高レベルの文章力・構成力と融合して初めて書ける作品なのは疑いあり…続きを読む