ツイッターで書籍版を知り、「面白そう」と思ってポチった。
実際に2日で一気に読めた。面白かった。
期待していた通りのクズ同士がお互いを壊し合い、化け物がゴジラよろしく暴れ回る描写は
ホラーというよりは好きな怪獣映画を観ているようだった。
ネット小説のホラーと聞くと正直商業出版の劣化版みたいなイメージが強いかもしれないが(失礼)、本作は有名な文学賞の対象を獲っていてもおかしくない筆致に感じた。
それだけリアリティがあり、物語に引き込まれた。
特に後半になればなるほど面白いのもいい。
作風的には映画化もしやすいのではないか。
本作がカクヨムで支持されたのも頷ける。それと同時に、ネット小説発でここまでホラー小説が出てきたかと驚いている。
もう時代は変わったのだなと別の感慨を覚えた。
凄い作品だった……。
まず因習村とメンヘラ女を組み合わせた発想が凄い。
ホラー映画というかパニック映画にはメンヘラがつきものではあるけれども、メンヘラを主軸に展開した物語は新感覚と言って間違いないと思う。
そして、この作品の主人公さあやのメンヘラっぷりが凄まじいのだ。
とにかく根底にあるのは悍ましいほどの自己憐憫で、物事が自分の思い通りに進まないと自分を哀れみ、それが他者への攻撃性に変わり、狂犬の如く暴れ出すのだ。
もちろん自分が悪くても暴走を控えたりなどはしない。可哀想な自分のために他者に罵詈雑言を吐き、暴力を振るうことさえもある。こんなに可哀想な自分は何をしても許されるしそもそも悪いのはおまえだという行動原理なのだが、実際のところは逆恨みや被害妄想でしかない。ホストクラブのボーイの顔がブサイクというだけで徹底して誹謗中傷するほどなのだから理不尽極まりない糞メンヘラ女である。
とはいえ、そうなったのには原因があるのでは?と考えるのが読者心理であり、実際に毒親に虐待されて育ったという過去が彼女には存在する。
ところが、だ。
そういう過去が明らかになって同情し感情移入した次の瞬間には、やっぱりこの女は救い難いカスだな、と思わせる思考が地の文でこれでもかと流されていくことになる。たしかに悲しい過去はあったけれども、この女が糞なのは根っからのものだから同情しても馬鹿を見るだけだぞ、と物語側から忠告してくるわけだ。さながら車が半ドアの時の警告音のようなものである。このまま運転するとドアが開いて事故を起こしますよ、というわけだ。
その警告は正しくネタバレを避けて説明すると、物語の終盤に主人公の逆恨みで何の罪も無い者たちが不幸な目に遭う展開がある。しかも最初に加害を与えたのは主人公であり、それも綺麗な色鉛筆を持っていた同級生が妬ましく、自分にこんな思いをさせたから罰として全て圧し折るという最悪のジャイアニズムを発揮したことが発端だ。当然、周囲の者たちは非難するが、そのことを数十年に渡って根に持っていた結果、最悪の事態が起こるのである。
本当に救い難い存在だ。存在していてはいけない害悪だ、と物語を読み進める度に思い知らされる。にも拘わらず、こういう奴いるよなぁ~というリアリティが常にあり、また徹底してゴミカスだと描かれているせいで妙な高揚感と爽快感が湧いてくるのも事実なのだ。このあたりは本当に作者の手腕によるものだと思う。
現実の世界にもいる度が過ぎたクレーマーやSNSで暴れる偏った思想の持ち主たちを正確に分析し、それを上手く物語に落とし込めている。そういうわけだから、最悪のメンヘラが主人公でも不思議と不快感無く読み進めることができた。
さて、ここまで主人公のカスっぷりをこれでもかと書き連ねてきたが、ここで想像してほしい。こんな最悪のメンヘラ女が、因習村に伝わる邪悪な秘術を使った時、どんな災厄が振り撒かれるのかと?
答えはこの物語の中にある。是非とも読んで欲しい。